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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
再会と喪失
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記憶の蘇り

 フレディはアレックスに対してかなり好意的だった。最初は勝手に友達宣言されたアレックスや周囲の人間たちは、《アスター》の彼女が、《バレー》のアレックスと仲良くする理由がわからなく、ある時、それを一つのネタに、ほかのクラスメイト達から虐められていたアレックスを見たフレディは言い放ったのだ。

『私もこの学園に入学するまでは単なる一人の旅芸人の娘よ。しかも、物心ついた後に実の親からさらわれ、奴隷として売られるところだったのを、今の親が救ってくれて、マルディナ家の娘として大切に育ててくれた。だから、今まで育った環境はアレックスとは全く違う。でも、私もそうなる可能性があった、というところを考えただけで、ええ、そうよ。同情じゃなく、単なるフレディとしてアレックスと仲良くしたいから、友達になってって言ったのよ』

 その言葉を聞いて、アレックスは泣いた。初めて誰かに必要としてもらえたような気がしたのだった。それ以降、アレックスはわだかまりを捨てフレディのことを呼び捨てで呼ぶようになった。

 アレックスとフレディは学年が上がり、フレディはほぼ文官育成のための専攻学科である魔術史科に進み、アレックスは体力をつけたかったことと、学園に在しているのならば、やっておきたかったことである、ある研究をするために、魔術科――通称:本科――に進んだ。しかし、時間の合う日の昼ごはんやこのような行事や式典への参加は二人で共に行動することが多く、1年以上経った今でも変わらなかった。






「見て、アレクシー」

 過去の思い出に浸っていると、フレディに肩を揺さぶられた。え、と呟き、前を双眼鏡でよく見て見ると、ちょうど彼女たちから直線上の位置、赤色の装束を纏っているヒルダの軍と青装束のルドルフの軍の境目に暗赤色の煙みたいなのが立ち昇っていた。

「何よ、あれ」

 フレディはすでに双眼鏡から目を離し、じっと空を見ていた。ほかの学生たちも同様で、スタンドにいる全員がその暗赤色の煙を見ていた。しかし、アレックスはそれ(・・)を見て、なぜか見覚えがあると感じ、目を閉じた。すると、頭の中で勝手に呪文(スペル)が紡ぎ出されていった。

(『雷神よ、集え。時空を切り裂け。そして、悪意を飲み込み、早急に()ね』?どういう意味だろうか)

 しかし、疑問だらけの呪文にアレックスは動けなった。






 そのころ―――

「どういうことだ」

 ルドルフは声を荒げていた。途中まではルドルフたちの優勢だった。ヒルダの軍を自らが苦手だと言っておいた丘陵地帯で撃破し、敵の本陣まであとわずかだと思っていた。しかし、現れた乱入者、否、正規の卒業生でもあり、この模擬戦でヒルダの切り札にきちんと組み込まれていたはずの魔法騎士科生、ハーバートがそれをかき乱した。

 ルドルフは一応首席の人間として、同級生の顔はもちろん、ある程度の情報は身に着けておいた。しかし、ハーバートだけは情報が得られなかった(白紙だった)。そのため、警戒を続けてはいたものの、今になって行動を起こしたため、全く対策の取りようがなかった。だが、どうやらそれはヒルダたちも同じで、彼の勝手な行動に戸惑っている様子だった。

 ハーバートはほかの学生たちの行動を封じながら、ルドルフが作戦の一つとして考えた『偽ルドルフ』の前まで迫ると、いきなり急停止した。そして、耳につけていたピアスをもぎ取ると、呪文もなしにそれを弾いた。


 ほんの瞬きの間、その光景を見たものは呆気にとられた。しかし、彼の周りから暗赤色の煙が出てきた直後、そこにいたほぼ全員は何が起こったのかを理解した(・・・・)

(不味いぞ、これは)

 少し離れたところから見たルドルフは臍をかんだ。

(『六獄(ゼクス・ヘル)』の使い手がまだいたとは)

 彼はその禁忌の魔術の掛け方、そしてその魔術の唯一の解き方を思いついた。

(しかし、駄目だな)

 その解き方は現代では失われている(・・・・・・)

 禁忌の魔術である『六獄(ゼクス・ヘル)』の使い手は闇の一族と呼ばれる、古王国時代から存在する一族にしか伝わらない。彼の英雄でさえも苦戦したと言われる相手であり、『六獄(ゼクス・ヘル)』を唯一無効化できる魔術師は、すでにこの世からいない。しかも、どこにその末裔がいるのかさえ分かっていない。


 もうだめなのかと思ったが、ふと頭をよぎった名前があった。


 それは、かつて一緒に遊んだことのある名前。


 その存在はずいぶん幼い時に会っただけで、そもそもこの学園にいるのかどうかも分からない状況であり、砂の中の金の粒をつかむような思いだった。

「――――ックス・ムーブメント」

 だが、彼が呟こうとした前にほかの学生の誰かが言った。その同姓同名(・・・・)の魔術師の名を。







 アレックスはそんな状況など露知らず、ただ頭の中を駆け巡る呪文(スペル)を持て余していた。しかし、誰かが今起こっている状況を言った瞬間に、彼女は弾けるように立ち上がり、スタンドの下まで駆けて行った。

「アレクシー!!」

 フレディはアレックスを止めようとしたが、間に合わず、アレックスは戦場の中に突っ込んでいった。


 アレックスは競技場の中にいる上級生たちが呆然と空を見上げているのにもかかわらず、ただ前を見て中央のハーバートの方に進んでいった。ある程度近くまで寄ると、立ち止まり、制服の袖口に縫い付けてある魔工石を引きちぎった。

「何をする気だ」

 そう彼女に詰め寄る上級生たちを無視し、先ほど浮かんだ呪文を唱えた。

『雷神よ、集え。時空を切り裂け。そして、悪意を飲み込み、早急に()ね』


 すると、辺りはまぶしい光に包まれた。

ちなみに、作中に出てくる魔術についてですが、

・魔力のある人間しか使えない。

・必ず魔工石を通して行う

という原則を守り、通常は呪文(スペル)と頭のイメージの両方で、魔工石に念を送る、というような感じで魔術を発動します。

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