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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
再会と喪失
4/28

過去の混沌(改稿済み)

 戦の状況はほぼ互角だった。セレヴィック学園第5競技場―――通称『第5』―――そこは他の競技場と異なり、まるで本物の荒野にいるような地形が人工的(・・・)に成形されている。


「何これ、やっぱりすごいわね」

 フレディは試合の成り行きに感嘆の言葉しか出していなかった。しかし、彼女だけでなくスタンドにいる学生たちもまた、唖然としていた。

 どちらもめまぐるしく動いているものの、ルドルフを主とする軍はどちらかというと『動』、一方のヒルダのほうは『静』を中心として動きを進めていた。本物を見たことはないが、まるで本物の戦のようではないかと誰しもが思っていた。

「うん」

 普段からおとなしいアレックスもまた、この展開には驚いているのか、若干体が強張っていた。

「この行事(・・)を来年私たちもすることを考えると、胃が痛くなるわね」

 フレディは来年の今頃を想像したのか、ブルっと身震いをした。

 彼女たちもすでに3年の学生だ。専攻科によって出番は違ってくるが、全員がこの模擬戦を経験することになる。かなりこの模擬戦はプレッシャーになるものだった。

 アレックスは友人のその発言に、

「フレディが私の分まで頑張ってくれるでしょ」

 とにこやかに言った。しかし、フレディはその丸投げ宣言にジト目を向けた。

「あなたねえ。いくら、あなたが私よりも下の《バレー》であっても、魔術史科の私からすれば、体力はあるし、魔術攻撃もできるのよ」

 アレックスはフレディの発言に、明らかにしょんぼりとした。




 フレディの発言に出てきた《バレー》。それは、この学園内における絶対的な地位である。学園入学時に、この地位は振り分けられる。魔力を多く持っている順に、《ディルフィ》《アスター》《シオン》《バレー》《ダファリル》という5つの階層が存在している。

 『魔力は生まれながらに決まっている』ということが、この世界、現代の魔術師内では当たり前であり、そして、自然の摂理と考えられているので、入学時に各階層に分けられればその後は変更することはない。

 その中で、アレックスは下から2番目である《バレー》であり、フレディは《シオン》だ。

 二人とも――――特にアレックスは、それに不満を感じているわけではない。


 もともと、皇都に住む兼業魔術師の両親から生まれた彼女に魔力が発現した時、両親は悲しんだ。もちろん、その当時のアレックスには、なぜ両親が悲しんだのかが分からなかった。自分自身は持っていればいいことがあるのではないのか、と思っていたのだが、どうやら二人は自分の魔力量に由来するのではないかと勘違いしていたのだ。

 だから、魔力の増加を目指して日々勉強に励んでいたが、ある時、魔力がこれ以上多くならないことを知った時、勉強するのが馬鹿らしくなり、街へ抜け出した。露店街を歩いていると、前方に少年二人が歩いているのに気づいた。彼らは一見、平民のような恰好をしているように見えたが、生地やつけている小物から貴族の子弟である、ということがアレックスにも分かった。大人は気づいていないのか、わざと無視をしているのか分からなかったが、アレックスは構わずに二人に声をかけた。そのことがきっかけで、何度か彼らと遊んだが、ある日を境に、二人と会うことはなくなった。

 なぜなら、魔力持ちの両親はどこかの貴族から招集がかかったため、戦地へ赴いたのだ。招集がかかったとき、まだ眠っていたアレックスは二人の書置きを見て、すぐに帰ってくるものだろう、と思った。


 しかし、彼女の両親が戻ってくることはなく、彼女の元へ来たのは一人の兵士で、彼は戦死報告を二人分(・・・)持ってきたのだ。


 普通は墓や墓標などを立てるためにも、形見の品などが届くが、両親の場合は髪の毛一本すら届かなかった。何も残っていない状態になって、彼女は泣いた。

(私は無力だ。両親の死んだ場所に行きたい)

 そう思った。今住んでいるところに住んでもいいのだが、この家の家賃を払うためには、莫大な費用が掛かると思ったアレックスはその魔力を活かして魔術騎士になるため、学園を目指した。そのため、何も考えずに住んでいたところを引き払ったが、行く当てもなくさまよってしまった。そんな彼女を、今の養い親でもあるハドレック夫妻に発見され、引き取られた。

 彼女が事情を話すと、夫妻は国内最高峰ともいわれるセレヴィック学園の途中入学を勧めたのだった。しかも、魔術騎士ではなく、普通の魔術者として。


 しかし、入学して振り分けられたのは下から二番目の《バレー》。実力の学園でもあるセレヴィック学園では、最も多くの魔力を持つ《ディルフィ》《アスター》に振り分けられた学生が様々な力を持つのは当然だったし、その次の《シオン》も高位貴族の子弟が多く、彼らは特に家の威光を笠に着ている人が多いのが、アレックスにも分かるほどだった。そのため、アレックスも含め、《バレー》や《ダファリル》の階層の生徒たちは、いつも隅に追いやられており、教師陣も特に何も言わなかった。その中でも、アレックスは『途中転入』という形で入学してきたので、なおさら彼らの目に留まった。


 ある日、校舎の隅で隠れるようにして勉強していると、そこにベージュの髪を持った少女がそこに来た。

「あなたがアレックス・ムーブメントね。ちょうどいいわ。私の友達になりなさい」

 初対面から高圧的な態度を見せた少女―――フレディ・マルディナはそう言って彼女に差し出した。反射的に彼女の手を握ってしまったアレックスは、彼女に引っ張られるように様々なことに参加するようになった。

 そんな彼女たちは、今では専攻が違えど仲のいい存在になった。

魔術師覚醒まで道のりが長い…

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