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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
復讐と喪失
18/28

過去と現在

途中、過去と現在が切り替わります

 13年前。

 『帝国』―――――正式名称はグランド・エレスティアナ・ミザツァルト=エレ・ヴァルスタニア帝国―――――南に隣接するオイゲンツベルグ王国と国境にある水産資源が豊富である湖をめぐって争っていた。

 戦自体はほとんどの地域で大掛かりなものにはならず、小競り合いが頻発しただけで終わったが、一か所、ほかの地域と違う戦況を呈した場所があった。


 その街の名前はパルフェムズ。『帝国』南西部にある緑豊かな街だった

 街自体はかなり小さい町であり、あまり国からも重要視されない場所ではある。しかし、オイゲンツベルグ王国との闘いでは最初に戦端が開かれた場所でもあり、ほかの場所に戦いの場が移された後も、魔術師が常に駐屯した場所でもあった。

 その街で、ある魔術師夫妻が行方不明になる事件が起こった。




「ふらっと出かけて王国(向こう)の人間と殺しあった、とか、実は向こうの間諜で王国側に連れていかれた、というわけではないんですよね?」

 途中まで話した皇帝にルドルフが尋ねた。その問いに、皇帝はああ、と頷いた。

「途中で魔術痕跡が強く残っていた。誰かと戦闘を行ったという詠唱(スペル)だった。しかも、かなり強力の」




 事件後、まだ戦の最中だったこともあり、騎士団には調査するための人員を割く余裕がなかった。しかし、それを聞きつけた皇帝は自らそこへ赴いた。

『ここが例の行方不明になったという街です』

 案内人―――行方不明となった夫妻と同じ時に戦場へ派遣された魔術師だ―――は皇帝にそう案内した。皇帝はあまり身分が高くないという彼にも気さくに話しかけたことから、最初はおどおどしていた案内人の魔術師も、いつの間にかしっかりと皇帝に対して言うようになっていた。

 皇帝は探知魔術を使用して、魔術の発動確認を行い、その使用された魔術の種類まで確認した。

『『悪華(イビル・ナハト)』と『《時》の魔術』、あとは『黄泉の魔術』か』

 『悪華』は『六獄』と同じくらい殺傷能力が高い。その魔術が開発されたら日が浅く、発動できる人間はごくわずかであるため、今は禁忌魔術には指定されていないが、いずれされる可能性の高い魔術だった。そして、それに対抗するかのように放たれた二つの魔術である『《時》の魔術』と『黄泉の魔術』はどちらもある一族にしか発動することができない魔術である。皇帝たちは状況からみて、一人の魔術師に対抗するために夫妻が『《時》の魔術』と『黄泉の魔術』を発動させたとみて間違いないだろうと思った。そして、魔術師夫妻のほうが魔力が弱く、莫大な魔力に耐え切れなかったこともその後の探知魔術で判明した。

『まさか、ムーブメント家の末裔―――――』

 しかし、すでに行方不明となっている魔術師の末裔を皇帝はその魔術を発動させたとみられるその夫妻を知らなかった。そして、その夫妻に娘がいることも。

 皇都に戻ってきてから、魔術師夫妻が住んでいたという家を訪れたが、すでにその家はもぬけの殻だった。その近隣住民から夫妻には自分の息子と同じくらいの娘がいること、そして、その娘はある日この家を出て行き、その後の行方は知らないということを聞いた。これ以上、娘を探すことができなくなった皇帝は彼女のことを探すのを諦め、魔術師夫妻を消した(・・・)魔術師を探すことに決めた。



「そして、5年前、あいつが魔術師夫妻殺し(・・)を命じた本人であることが分かった」

 皇帝の言葉にルドルフは驚いた。

「かなり前から分かっていたんですか」

「ああ。バルザミューラ家は攻撃魔術に優れた家系だ。『六獄』と同系統である『悪華』を習得するのにはたやすいだろう。それに、英雄というものに憎悪を抱いている、というのもあいつの黒幕説を裏付けた。だが、当然証拠は消されているだろうし、下手人も多分この世にはいないだろう、と踏んでいた」

 皇帝は少し前まで座っていた席においてあった数枚の紙を取り、ルドルフに渡した。

「しかし、それは間違いだった」

 ルドルフはそれを読み、納得した。

「なるほど、ハーバート・オルランディファイはやはり年齢をごまかしていましたか」

「全くだ。以前からこの学園の敷地内に不純物が混じっているとは思っていたが、ホイットニー家を全面的に回すとまでは考えなかった」

 皇帝はため息をついた。ルドルフも同じように感じた。

「でも、おかしくありませんか?」

 ルドルフはある矛盾点に気付いた。

「『《時》の魔術』は発動条件限られています。探知魔術を持たない理事長が、あの魔術師夫妻がその魔術を持っていることに気づけたのはなぜでしょうか。そして、もし気づけたのならば、アレックスも気づかれていたのではありませんでしょうか」

 ルドルフが指摘すると、皇帝も考え込んだ。

「確かに。いや、待て――――」

 そう言って、ルドルフに渡した書類を奪って眺めた。

「おい、これはまずいぞ――――――」

 ある紙を一枚めくった時、彼の手が止まった。ルドルフは皇帝の手元を見て、そこに書かれた文字を読んだ瞬間、勢いよく立った。

「気をつけろ。相手は『監獄(ギフト)』を発動できる」

 皇帝はルドルフが部屋から出る間際、そう言った。了解です、ルドルフは真剣な面持ちで頷いた。

お気づきの方もいるとは思いますが、消えたという魔術師夫妻とはアレックスの両親です。

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