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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
復讐と喪失
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憎悪との闘い

 全員が出て行った後、ルドルフは目の前に立っている人物に問いかけた。

「ほかの方を巻き込んでは本末転倒でしょう」

 理事長は非常に悔しそうな顔をしていた。それは誰に対してなのか、ルドルフにも分からなかった。しかし。


「だから何だ。名門公爵家に生まれ、ただ魔術の能力がなくてもぬくぬくと生きていける貴族はわれらの苦しみなんぞ知らない。禁忌の魔術?われらからしてみれば単なる生きていくための手段だ。それをお前は――――いや、この国は否定し、それを取り上げた」


 そう狂い叫ぶように言った理事長の右手には小粒の魔工石があった。

「われらが味わってきた苦しみを痛みに変えた魔術をようやく先日作り上げることができた」

 その言葉に、部屋に残っていたジルベルト教授がルドルフを押しのけようとしたが、彼は反対にジルベルト教授を背後にやった。その際に、『最後まで、あの秘術を使わないでくださいね』と教授にこっそり言っておいた。

「模擬戦の時には『《時》の魔術』に阻まれたが、あの娘はもう魔術を使えないただの小娘に成り下がっている。それにあの侍女も浄化の魔術を使えるみたいだが、浄化の魔術も使えない状況でお前はどうする?」

 理事長がそう言うと同時に、彼の背後に魔術陣が浮かび上がった。ルドルフは少しだけ焦った。このように詠唱なしの魔術構成はめったに見ないのだ。しかも、現代では魔術陣を使う魔術師は少ない。

「さあ、苦しみの時間だ、ホイットニー君。君のような魔術師の卵を失うことは、私にとっても惜しいことなんだが、ね」

 理事長が言うとともに、魔術陣の中心部から攻撃が次々と放たれた。その対応にルドルフは防御魔術のみ使用して、あえて一切の攻撃魔術は使わなかった。一撃目はホイットニー家の特性でもある黄金鎧スペクタクル・フィールドに守られた。しかし、次々と襲い掛かる魔術にさすかの彼も耐え切れなくなってきていた。


 そして、

「くっ―――――――――」

 彼は数十回目の攻撃魔術にとうとう耐え切れなくなり、腹に攻撃を受けた。幸い、出血はなかったようだったが、痛みで床にうずくまった。理事長はそれを見て嘲笑う。

「笑えるな。あんなけの豪語たたいておいて、結局はそのざまか。ホイットニー家の名は落ちたものだな。まあ、いい。そんなお前にとっておきの魔術をあげよう」

 そう言って、もう一つ魔工石を取り出す。

「そこの愚鈍な教授。お前もそこのボンボンと同じようになりたくないのならば、早く部屋を出て行ったほうがいいぞ」

 理事長の眼には、もはや理性というかけらは残っていなく、本能に従い、ただ、狂気しか見受けられなかった。しかし、ジルベルト教授は首を横に振る。

「それはできない(・・・・)な」

 その瞬間、部屋の雰囲気が変化した。それまで入り込む日差しによって明るかった部屋だが、理事長の魔術により一気に暗赤色に変化した。

「ならば、ともにそこのボンボンと朽ち果てるが良い」

 理事長の言葉にただ、教授は目を細めただけだった。

「『我が術、祖君の啓示に従い、ただ(いたずら)()の者を刻み付けん』」


 理事長の詠唱にようやくジルベルト教授も応えた。

「『天帝から賜った使命、森からなる魔術、それを行使する権利をわれに与えたまえ』」

 教授の魔術は金色にまばゆく光る羽を、人の心に思い浮かべさせるものだった。それに、理事長は驚きで目を見開く。

「まさか―――――」

 二人ともが発動した魔術が直線を描いてぶつかる。理事長の手はかすかに震えていたものの、拮抗状態は崩れなかった。


「お待たせしました」

 数分経った頃、扉を開けて入ってきたのはルドルフが待機させていた騎士団だった。どうやら、現れたのはもう一件の用事(・・)を済ませてきたほうだった。理事長の顔が苦しそうに歪められた。

「な、なぜ―――――」

 理事長はその場に崩れ落ちた。その体には鎖が巻き付いていたのだ。

「ようやく発動したか」

 そう言ったのは、ジルベルト教授―――エドモンド二世の姿に代わっている―――だった。


「なぜ、あなたが――――」

 苦しみながら理事長が問うた。騎士団の面々も驚いてはいるものの、理事長ほど驚いているものはいなかった。

「過去の事件を調べに来ていたのだ。もちろん、『ジルベルト・ミベルディンガー』という男は実在しており、この学園の教授だ。その彼は事件の関係者でもあったから私は依頼して、入れ替わらせてもらったのだ。彼は変化(へんげ)の魔術に優れていたからその辺も含めて、彼に依頼したという部分もある」

 理事長は淡々と事実だけを述べていく。その言葉に、ほっとした様子を見せた理事長だったが、次の言葉に彼は凍り付くこととなった。

「まあ、その事件も貴様が黒幕だったという事実が明るみになっただけだったが」

 皇帝の言葉に騎士団はいよいよ捕縛する力を強めた。

「その辺は追って話を聞くことにするから、丁重に氷の監獄へ連れていけ」

 そう言われた騎士団は皇帝に敬礼し、彼を魔術による鎖ごと引っ張っていった。




「大丈夫か」

 騎士団も理事長もいなくなった部屋で、皇帝はルドルフに尋ねた。彼はいまだに、腹部を抑えていたが、先ほどよりは顔色がよくなっている気がした。

「ええ、なんとか。ありがとうございました」

 ルドルフは髪をかきながらそう言った。

「いや、構わない」

 理事長はルドルフに手を差し伸べ、立ち上がらせた。

「しかし、陛下が調べていた事件って何ですか?」

 ルドルフは最後に理事長に向けて言った『事件』について気になった。皇帝は、ああ、といい、話し始めた。

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