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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
復讐と喪失
14/28

査問会(前編)

 それからルドルフは騎士団を十人程度借り受け、学園に戻る準備をした。王宮を出た後、実家であるホイットニー公爵家に戻り、両親に事情を話したルドルフは再びヒルダを連れて、それから学園に戻った。すると、彼らの所属している西方魔術講座では、ある騒ぎが起こっていた。

「どうした」

 どちらかと言えば公務(・・)で休みがちな彼らは、ここまで人が多く詰め寄せているのに驚いた。すると、一人の学生が二人の前まで来ると、一枚の紙を渡した。それをルドルフが受け取って読み、何も表情を変えずにそのままヒルダに渡した。彼女も読んだが、彼女は非常に不愉快そうな顔をした。

「なぜ明日、査問会を?」

 彼女はほかの誰でもなく、ルドルフに尋ねた。彼はその問いには答えず、

「全学生に広める場所に掲示されていたのか」

 と、目の前に学生に聞いた。彼はその問いに頷いた。その答えにルドルフも頷き返すと、ヒルダを連れて入ってきたばかりの教室を後にした。

 ヒルダはどこへ行くのだろう、と思いながらついていくと、詠唱学の教室が見えたので納得した。

「失礼します、ジルベルト教授」

 彼はそう言って、返答を待たずにその部屋に入った。その部屋にはいつもの部屋の主の姿はなく、白金の髪ではあるものの、どこかエリック皇太子に似た容貌を持つ主が葉巻をふかしながら座っていた。しかし、ルドルフはその姿に惑わされることなかった。

「その姿でいるのはリスクがあるのではないのですか?」

 ルドルフは『教授』に尋ねたが、彼はその言葉に答えず、反対にルドルフに向かって笑いながら言った。

「帰ってきたのか。かなり有名なったみたいだね」

 その言葉に、ルドルフは即座に言い返した。

「それはあなたのおかげではないのですか、陛下(・・)?」

 彼は『教授』の眼をまっすぐに見てそう言った。『教授』は、そのルドルフの発言に、ため息をつき、

「これだから、君とは会いたくなかったんだけれどねぇ」

 と言った。しかし、その言葉にルドルフは顔色変えずに、

「もともとそれはあなたが息子を野放しにしているからですよ」

 と言った。

 皇室誕生にゆかりのある公爵家の息子であり、皇帝の一人息子と同じ年齢であるルドルフは生まれる前から、彼の『ご友人』と決められており、幼い時から両親に連れられて王宮に上がっていた。そして、運が良かったのか、二人は皇太子と臣下という立場を越えて友人同士となり、いろいろと遊んだ。だから、ルドルフは王宮の抜け穴とかも知っているし、皇太子もたびたびお忍びで城下町へ繰り出していた。そんな二人だが、皇帝はそのことに早くから気付いており、なぜか止めなかった。その理由が分かったのは、数か月後だった。

 ある日、一人で城下町へ出かけてみると、今度は皇帝(・・)自身がお忍びで城下町へ来ていたのだ。しかも、その姿はかなり手馴れているみたいで、その姿はいかにも『よく見かける商店のおっちゃん』だったのだ。

 さすがにその場で糾弾することはしなかったが、互いに気付くとかなり気まずい雰囲気になり、それ以来、二人とも顔を合わせづらくなっていたのだ。


 そんなこんなで、学園に入学当時から姿は違っていても皇帝本人がいることには気づいていたルドルフだった。

「まあ、無駄話はここまでにしておいて、本題に入りましょう」

 ルドルフはこれ以上、あの事件を話していても無駄だと思い、本題を切り出した。

「今回、あなたはどこまで関わっていらっしゃるんですか?」

「当然、何も関わっていないさ」

 ルドルフの言葉に、ジルベルト教授―――エドモンド二世は二人に紅茶を勧めながら言った。ルドルフは臆することのなく―――どちらかと言えば当たり前のように―――、味わうことのなく一気に飲み干した。その様子を見て、かなりしょんぼりしたが、隣のヒルダが女性らしく、丁寧に味わいながら飲むのを見て、少し気を取り直した。

「で、明日開かれる()の査問会で何か得られるのかい?」

 エドモンド二世の質問にルドルフは頷き返した。

「あの人の捕縛です」

「つまり、すでに息子も巻き込んでいるということだね?」

 皇帝はそう尋ねた。しかし、ルドルフが言った『あの人』の正体について尋ねなかったのは、皇帝自身も気づいているからなのだろうと推察された。

「はい。エドモンド様を目の前にして言うのもどうかと思いますが、本当の僕の主はあの方ですし、そもそも騎士団を動かせるのはあの方ですから」

 ルドルフの言葉は他の家だったら確実に不敬にあたるが、ホイットニー家の彼が言う分には不敬には当たらない。なので、皇帝も機嫌を損ねることはしなかった。

「なるほどな。すでに学園内待機をしているか」

「ええ、もちろん」

 ルドルフは笑いながら言ったが、その眼は当然のように笑っていない。『おお、怖い』なんて言いながら、皇帝はおどけたしぐさを見せた。

「まあ、存分に暴れてこい。俺もどうせ教授として出席しなければならないらしいから、援護射撃ぐらいは手伝う」

 その言葉にルドルフは今度こそ頭を下げた。

「よろしくお願いします」



 査問会当日。

 ルドルフは久しぶりに学園の制服ではなく、公爵家の紋章が入った正装を着用していた。本来ならば学園内の査問会なので、制服着用が妥当だとはルドルフ自身も思っていたが、今回は彼自身の目的のためにも、ヒルダにも皇帝にも制服ではなく正装を着用したらどうかと勧められたのだ。

 純白のその正装は彼の髪色にもあっており、ごく一般的な女性だったら確実に落ちてしまう姿でもあった。しかし、彼自身はその姿をあまり好んでいなかったのだ。

「やはりお似合いですね」

 現在は侍女としているヒルダがそう言った。

「君はそう思うの?」

 ルドルフは冗談だろう、と思ったが、彼女はいたって真剣であった。

「ええ」

 彼女の眼はただ、侍女としてルドルフの今の姿(その存在)を認めているようだったので、その場においてもルドルフには彼女のことがかなり好ましい存在に思えた。もちろん、ヒルダ自身も主としての彼を見ているだけなので、そのように思われても特別、苦にならなかった。

「そっか。じゃあ行こう」

 彼は正装小物の一部である細剣を腰に佩き、彼女とともに査問会が行われる部屋に向かった。

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