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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
再会と喪失
12/28

研究の続き

タイトル詐欺です。

研究はしません。出てくるのは研究内容だけです。

 一方、アレックスはルドルフたちがこの部屋を出て行く前に、ここが職員寮の医務室であること、彼女が気を失っていたのはわずかな時間であったということ、そして、アレックスが倒れてから、あの競技場では何も問題は起きなかったことを告げられ、一安心した。

 しかし、彼女はルドルフが離れた後、彼が少し戸惑った表情をしていることに気付き、その原因がなんなのかすぐに気付いてしまっていた。

(どうしよう――――)

 彼女は自分が魔力の少ない人間であると自覚している。そして、魔力の少ない人間が必要魔力の多い魔術を発動させた場合、どのような悪影響があるのかもわかってはいたが、あの場所では本能を止めることはできなかった。なので、それによって彼女が倒れたことも、必然と言えば必然であったのも理解できていた。

「結局、私は死ななかった。そして、魔術がもう使えない」

 彼女はそう呟いた。もちろん、早く死にたがっているわけではない。だが、死なないまでも、自分はもともと少ない魔力を失うことになってしまった。ルドルフに対してはああいう風に言ったものの、いまだにルドルフの想いに対して、半信半疑である彼女はなぜ自分を助けたのだろうかとも思っていた。

(どのように役に立てばいいのだろうか)

 魔力を失ってしまった以上は、この学園にいることはできない。そして、あの研究も続けることはできなくなった。かなり虚無感に襲われていたアレックスだったが、これ以上は何も考えたくないと思い、目を閉じた。

 そして、幼い時のひと時を思い出した。



 今から13年前。

 商店街でかけっこしていた黒色の髪を持つ少年とまばゆい金髪を持つ少年はあの雑踏の中で異様に浮いていた。

 周りに護衛などはいなく、着ているものは一見、平民が着るような安物に見えるが、実際はかなり高級品なのだろう、と二人を見たアレックスは直感でそう思った。そして、それを着れるということは、かなり高位の貴族なのだろう、と考えた。周りの大人たちは何も言わなかったが、二人と目が合った瞬間、彼女は駆け出し、二人に声をかけた。

『ねえ、一緒に遊ぼ』

 アレックスの言葉に二人は一瞬、顔を見合わせた。しかし、金髪の少年のほうが、

『いいよ』

 と返事した。そのときはまだ、彼女自身、ただの魔力が少ない人間だと思っていた時期であったので、あまり魔力を消費しない魔術で遊べることも知っていた。なので、二人の少年とともに空き地で様々なことをして遊んだ。何回か遊ぶうちに、彼らに名前を尋ねられたので、あの大魔術師と同じ名前だということを彼らに言えば、絶対笑われると思ったアレックスは、自分は『レクス』だと教えた。その後、黒髪の少年は今までと変わらず、『少女』という呼び名でずっとアレックスを呼び続けたが、金髪の少年はちゃんと『レクス』と呼んでくれた。しばらくして、両親の戦争への出征、そして、二人の戦死が彼女の人生で待ち受けていた。

 あの家を離れて以降、もう二度と会えないだろうと思っていた少年の片方、ルドルフ・ホイットニーに会えたことは非常に嬉しかった。だが、今後の自分は生きていけばいいのだろうかと思えば、ある意味最悪の再会ではなかったのかと思った。


 小さい時から今までの記憶を思い出して、心が押しつぶされそうになったが、今ここで考えていてもおそらく答えは出ないだろうと思い、そのことを考えるのを中断した。





 翌日は二人とも来なかったが、さらに翌日、再びルドルフとヒルダがアレックスのいる部屋にやってきた。

「レクス、話がある」

 そう言いながら来たルドルフに、アレックスは覚悟を決めた。そうとは知らないルドルフもヒルダも、心配そうな目で見ていた。

「多分、お前はあの魔術を発動させたことによって、魔力を失っている。だから――――」

「これ以上、この学園にはいられない」

 ルドルフの言葉を遮ったのは、当のアレックスだった。ヒルダもルドルフも驚いてアレックスを見た。

「気づいています、自分が魔力を失ったことに。そして、魔力を失った以上、この学園にはいられないことを」

 二人はアレックスの言葉に沈黙した。

「法を捻じ曲げてでも存在する正義はありません。それは、この学園にも適用されるでしょう」

 アレックスの言葉に、ルドルフはそれでいいのかと尋ねた。

「どういう意味でしょうか」

 彼の言葉に理解できない、とアレックスは首を傾げた。

「レクスはまだ研究していたことがあるんじゃないのか」

 と言って、紙束を差し出した。

「魔力の増幅に関する研究を見させてもらった。僕としてはその研究をぜひ続けてほしい。そして、それを教授も強く望んでいたよ。あともう一つ。レクスさえ、いいと言ってくれるのならば、あまり魔力の大小(・・)にかかわらない魔技能科に移ったほうが、研究を続けやすいと思うんだけれど、どうかな?」

 その紙束に書かれたのは、彼女が行っていた魔力の増幅に関する研究の中間報告だった。最初の実験ではあまりにも結果が悪かったので、もう一度前提条件から練り直して実験を行おうと思って、彼女のデスクに置いておいたものだったのだ。まさかそれを発見されるとは思っていなかったので、彼女は驚いた。だが、彼女にはもうすでに魔力(・・)はないのだ。その研究を続けようにも不可能な話である。一体どういうことなのだろうかと思ったが、彼女に質問する隙を与えないようにルドルフは話をつづけた。

「で、もうすでに発見されている魔力保存の話は知っているよね?」

 ルドルフはもう一枚、紙を渡した。それに目を通すと、数年前の王立魔術院の魔術師の研究結果が乗っていた。彼女は自分の実験を行うときに、その研究結果にも目は通していたので、タイトルを見ただけでどんなものだったか思い出していた。

「ある特定の術式を組み込んだ魔工石には一定の魔力を保存しておくことができ、資格を持つ者だけがその魔工石に込められた魔術を使うことができる、でしたよね」

 彼女の言葉に、頷くルドルフ。そして、彼は数個の魔工石を彼女に渡した。

「まさか――――――」

 アレックスは驚いた。彼がこんなことをするとは思わなかったのだ。

「ああ。それを使って、ぜひ、魔力増幅の研究を完成させてほしい」

 それは彼の魔力をため込んだ魔工石だったのだ。

「それで、十分に研究を終えたのちは、ホイットニー家(うち)に来てほしい」

 ここまでしてもらって、これ以上、彼の気持ちを疑いたくない。そう思って、アレックスははい、と今度は素直に言った。

※作中で出てくる研究機関『学園』魔術科(三人が所属している学科)と魔技能科は日本の大学をモデルに作っています。

1,2年⇒基礎講義、各講座の講義

3,4年⇒完全に講座配属して、各自の研究を行う。

『学園』に存在する学科のうち、残りの二つ、魔騎士科、魔術史科はこれとはまた違ったシステムになっています。

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