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8月××日(△)私が電車の中で見た人

作者: 英知辞典

8月××日(△)


この日はお昼から塾で講習会がありました。私は、来年6年生になったら中学受験をします。最難関校を目指しています。


塾には電車で通っています。この日、私は途中の駅で乗りかえて電車を待ってホームで並んでいたとき、前で女の子と男の人が話し始めました。

女の子は中学生か高校生くらいで、日焼けしていました。スポーツバッグを持っていたのでクラブに行くのだと思いました。

男の人は大学生くらいだと思いました。塾の大学生の先生と同じくらいだったからです。

この人たちは兄妹かなと思ったのですが、男の人が「久しぶり」と話すのが聞こえたので、違うみたいでした。何を話しているのか気になってじっと聞いてみましたが、駅には観光客や高校生や大学生がいっぱい話していて聞き取れませんでした。

でも、二人がとても楽しそうに話しているのは分かりました。女の子が男の人に笑いながら「ごめん」と謝っていました。私のお父さんは、謝るときに笑ったらとても怒ります。でも男の人は笑顔で、じっと女の子の目を見ていました。お父さんより優しいなと思いました(この日記は絶対お父さんに見せないでください!!)。

待っていると電車が来ました。ドアが開くと、男の人が前に手を差し出して、女の子に「お先にどうぞ」としました。私は、この人たちをずっと見ていたい気分になりました。

女の子は、座席の端っこに座りました。男の人はその隣に座りました。私は、近づいたらあやしまれると思ったので、二人が見えるようにドアの所に立ちました。顔をかくせるように算数のテキストをカバンから出しておきました。ドラマに出てくる警察みたいな気分でした。

私のいるドアの反対側には最近はやりの服を着た大学生の女の人二人が話しているのを見て、少し前にお母さんが教えてくれたことを思い出しました。「マジ」とか「バリ」とか「エグい」とかをたくさん使う人は、かしこくないということです。この大学生の女の人たちの会話は「マジ、バリエグい」ばかりでした。ちなみに、教科書には書いてありませんが、「エグい」は形容詞、「マジ」と「バリ」は「エグい」にかかる副詞です。


私は、気を取り直して、例の二人を見ました。笑ったり真面目な顔になったりしながら話していました。ここで初めて気が付いたのですが、女の子の笑顔はとてもすてきでした。「太陽のような笑顔」で、私まで笑いそうになりました。男の人は、やっぱり女の子の目を見ていました。きっとこの人はこの女の子をとても大切にしているんだと思って、思わずジーッと見てしまいました。

すると、男の人がふと私の方を見ました。ものすごく鋭い目でした。別人のようでした。前の日に見た映画に出てきたサイコパス(?)という人にそっくりでした。

それからまた男の人は女の子と楽しそうに話し始めました。ひょっとしたらさっきのは私のかん違いかもしれません。

女の子はまた太陽の笑顔で話していました。私は何だかその女の子の笑顔が嫌いになってきました。

私が降りる駅が近づいてきました。すると女の子も降りる準備を始めました。女の子も男の人もまだまだ話したいようでした。私はなぜかとても嬉しい気分になりました。

そして、電車が駅についてドアが開くと私は一番に降りました。振り返ると、女の子が「バイバイ」と小さく手を振っていました。男の人も笑顔で手を振りました。二人ともさびしいはずなのに、笑顔でバイバイしていました。これを見て私は、二人とも本当はさびしいのに無理をして笑顔を作ったんだと感じました。


これ以来、私はこの二人に会うことはありませんでした。もちろん二人がどんな関係だったのかもわかりません。でも、電車に乗って塾に行くたびに二人のことを思い出します。そして、さびしそうな二人の顔を思い浮かべると、なぜかわかりませんがとても幸せな気持ちになります。

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