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こいつら全員やべーやつ!  作者: ロロロ
2/2

心得陽子はヤベーやつ

「何してんの、友和ぅー!」

「うるさい絡むな」


 昼休み。昼食もさっさと済ませ、俺は勉強に取りかかった。

 俺は勉強しなくてはならない。この学校で生き抜く為に、学力が必要不可欠なのだ。

 入学式からしばらく経ち、新一年生の浮き足立った空気も落ち着いてきた。皆これから楽しい高校生活を送り始めるのだろう。

 しかし、俺は違う。

 入学式で大遅刻をしてしまった。それに加えて、ああ、思い出したくもない。あれはやらかした。先生にも目をつけられたし、本当にツいてない。ていうか不幸が降りかかるの早すぎないか。高校生活一ヶ月で既に不幸ってもう、呪われてるだろ。入学するために色んなものが犠牲になっちゃった? やっぱり俺なんかがこの学校に入るのは間違いだったのか。

 学力から見ても身の丈に合った学校に入るべきだった。

 圧倒的に足りない学力だったはずなのにギリギリ合格ラインを上回り、晴れて入学できたわけだ。

 合格発表の時の母の顔が忘れられない。

 顔面蒼白。『え、間違いよね? 教師だってミスの一つや二つあるわよね?』

 そう声をかけてくれたっけ。

 マジギレしそうだった。

 そして俺は、この母親の俺に対する評価を裏切り続けてやると誓ったのだ。

 だから間違いだろうが何だろうが、絶対この学校を卒業してやる!


「偏差値五十の学校なんだ。死物狂いで勉強してやっとついていけてんだよ」

「ド平均だよ?」


何言ってるのかいまいちわからんが、いや、もうとにかく勉強勉強勉強だ! これから、ここから俺は平穏無事な学校生活を送るんだ!


「働けど働けど猶わが生活は楽にならざり」

「なんだ陽子。何かいったか?」

「じっと手を見ろ。友和」


 ペンダコ、出来てるな。

 俺は自分の手をまじまじと見た。

 直後、陽子は俺の手を叩き上げる。バシィッッ! と爽快な音をたて顔面に直撃した。


「やっぱりバカなんだよね」

「謝れクソヤロウ」


 クリーンヒットしたその手で顔を抑え悶絶する。痛みで鼻の奥がヒリヒリしている。

 ちっくしょぉぉ……ぶって良いのはぶたれる覚悟のあるやつだけだよなぁあ?

 やれやれと肩をすくめて俺の鉄拳制裁をするりと回避しやがった。


「友和が手を見てたら叩くでしょうが!?」

「テメエが見ろっていいましたよね!?」

「私が手を見てたら叩くでしょ?」

「叩く」


 思考回路が同じだった。

 俺は自己嫌悪に陥った。


「何かお腹すいたね。おごれ!」

「欲求に忠実だね君は」


 これでは勉強も手に付かない。ここはこいつを何とかするしかないか。

 机の上に広がった勉強道具を片づけ陽子の方を向き直す。


「ほら、勉強は置いといてやったから、購買でも何でも行くなら行くぞ。奢りはしないからな」


 まったく世話の焼ける幼馴染だ。俺がいなかったらどうなっているのか心配で仕方ない。まあ、奢るのはしゃくだが腐れ縁のよしみだ、少しくらい何か食わせてやってもバチはあたらないだろ。

 財布の中身を確認しながら、そんな慈愛に満ちた心で立ち上がった。

 おや? お金、もう今月分の筆記用具を買うのもギリギリしか残っていないのでは?


「そうだ、ドッジボールしよう」

「お前ほんと何言ってんの?」


 小学生かよ! 欲望に忠実かよ! 

 支離滅裂にも程がある。何なのさっきの。奢れって何なの。ちょっとでも慈悲の心出ちゃった俺の気持ち何なの。身を削ろうとしていた俺の決意何なの。イライラする。イライラし過ぎて泣きそう。


「日本に初めて入ってきた時はデッドボールと呼ばれていたらしいよ」

「え、マジか? 物騒だなドッジボール」


 ………じゃねーよ!

 『え、マジか? 物騒だなドッジボール』じゃねーよ友和ゥウウ!!

 お前本当にそういうとこあるよな。だからチョロいって認識されてすぐナメられるんだよ。現在進行形で幼馴染にナメられてるんだよ。もーいや。もーだめ。もーむり。

 待て待て。今は置いておこう。そんな豆知識を披露され、不覚にも感心してしまったことは、今は置いておこう。

 そして、それら全てを棚に上げさせて頂いた上で!


「お前せっかく俺が奢る気になっていたというのに、この気持ちを踏みにじるとはお前ェッ!!」

「私、めっちゃ食うよ」

「そうだ、ドッジボールしよう」


 危ない危ない。全財産をドブに捨てるところだった。

 俺が息をつくの眺めながら、やれやれと首を振る陽子。


「ダメだよ友和。そんなんじゃ結婚出来ないよ」

「うっさい。お前の方が出来ねーよ」


 陽子はきょとんとした顔でこっちを見てくる。


「そうかな?」

「そうだよ。お前の、わがままに付き合わされる人が可哀想で仕方ない」

「そっかー………」


 俺が言うと、ふっと顔を逸らして窓の外に目をやる。

 まったく、人が話しているというのにこの態度! 実にけしからん!


「俺がその根性叩き直してやる」


 常日頃から一緒にいる、幼馴染である俺の責務だ。

 面食らったか、陽子はまたもきょとんとした顔をしている。


「直るまで目を離さんから覚悟しろ!」

「………そっか」


 何やらポソリと言うと、急に見事な一回転を決めた。びっくりしたが、顔には出していない。

 ニヤニヤと品の無い顔をしながら、そっかそっかーと訳のわからん態度でくるくる回る。運動神経がすこぶるいいのが羨ましくてならん。

 そうして、数回まわって俺の前に立つ。


「じゃあ、よろしくね友和」

「おう、望むところだ陽子」


 何だこの清々しさを感じられる雰囲気は。良いじゃないかこれ。なんか気持ちいい。早速俺の願いが届いたのかな。ふっ………やっと俺のターンが来たのか。ここから連勝街道を突き進む!

 よし、まずこのにらみ合いから、ここからもう連勝街道が始まっている。負けてなるものか。


「じゃあ、奢って友和」

「おう、望むところ………え?」


 気持ち的に負けた気がした。

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