プロローグ~こういう事が続く日々~
「友和おはー」
朝起きたら目の前に顔があった。
「ギィィヤァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「ファァァァアアアアアアアアアアアッ!!!!」
絶叫した。
え、しない?
朝起きたら薄暗い部屋の中、何かが馬乗りになって俺の顔を覗き込んでる。
するよね?
俺の絶叫に興奮したのか相手も叫んでいる。やばい。化け物だ。叫び声が人間のそれじゃない。呪われた。完全に呪われた。身体動かない。助けて。これ死ぬやつだ。声聞いたら死ぬやつだ。挨拶されたし。名前知られてるし。魂抜かれるんだ。短い人生だったけど。俺の人生何も良いこと無かったな。そういや、今日は高校の入学式だったっけ。やれやれ、高校生にもなれなかったのか、俺は。仕方ないよな。俺だもんな。俺なんかが高校生になれるなんて大それたことできるはずないもんな。大体受験に成功した時からおかしいと思ってたんだよ。成績も中の下クラスの俺が何の気の迷いか、自分の成績より少し上の所を目指してしまった。そして奇跡が起きてしまった。そのツケが回ってきたか。何かを得るには同等の代価が必要だもんな。ああ、俺の人生何も良いこと無かったな。そういや、今日は高校の入学式だった――あれ、何かループしそう。思考がループしそう。
「朝っぱらからじゃっかましいわぁああっ!」
けたたましい怒号がしたのと同時に俺の部屋のドア先輩の生涯が幕を閉じた。
そこに立っているのは、コーホーという呼吸音と共に口から煙を出しながら鬼の形相している母親である。
「あら、陽ちゃんおはよう」
「おはようおばちゃん」
凶悪な母親はけろっと態度を変えると、馬乗りになっている化け物と挨拶す――――
「陽子じゃねぇえか!!」
「そう、陽子でした!!」
俺の上にいる化け物は幼馴染――心得陽子だった。
いやいや待て待て、何でこいつがいるんだよ。俺の部屋だよね? ここ俺の部屋で間違ってないよね?
「何でお前いるんだよ!」
「朝だし。ね、おばちゃん」
「うん。朝だもんね」
もはや、朝って何だよ!? 朝だから不法侵入してんの!? 朝だからマウントポジションとってんの!? 何故同意している母親!? なんなの、俺がおかしいの? 俺の常識が非常識なの?
「不法侵入なんて物騒なこと考えるんじゃありません。私が許したの」
「母親だからって心を読むんじゃない! ていうか許してんじゃねぇよ! いること知ってたんじゃねぇかよ! さっきの発見時の、あらおはよう。って挨拶はなんだったんだよ!」
「演技」
「してんじゃねぇええよ!」
血管切れそうになっている俺を陽子はどうどうと制する。
「考えるだけ損だよ!」
「どの口が言ってんだよぉおおおおお!」
とにかく突き飛ばした。まだ馬乗りになっていたので。
ぶっ飛んだ陽子はごろごろ転がってシャキーンという効果音が付きそうな見事な動きで着地する。
「イヤッホォオオオ十点だね!」
ダメだうざすぎる。幼馴染がうざすぎる。いつものことながら幼馴染がやべー。頭痛がしてきた。
「そういえばもう九時前だけど、あんたら今日は入学式じゃないの?」
そうだ、入学式だ。昨日の夜から楽しみ過ぎてワクワクで胸踊っちゃってろくに寝られなかった。
待ち遠しいのは確かだが、俺は万全の体調で式を迎えたい。もうちょい寝て睡眠を取りたいところだ。あと五分あと五分寝かせてってやつだよ。
「あーもう、そうだよ。新入生は九時に集合だから、ちゃんと目覚まし時計もセットしてあったってのに朝っぱらからこのバカ野郎が現れたから予定より早く起きる羽目になって睡眠時間減っち――ちょっと待って」
九時前?
九時前ってあの九時前?
およそ八時五十分頃からという風に認識されているあの九時前?
「そうよ」
鳴ってないし。八時にセットした目覚まし時計まだ鳴ってないし。あと母親だからって心を読むな。
流れる動きでベット横に置いてある目覚まし時計を確認する。八時五十三分。
「それ切っときました」
「何してくれてんの、お前!」
「だって友和気持ち良さそうに寝てるから」
陽子はすっと動いて肩が触れ合うまで距離を詰める。そのまま俺の耳元でささやく。
「愛、だよ!」
ウィンクバチコーンと決めてきやがったので、幼馴染の顔面に枕をぶつけてやった。