そう、あたしはね、ヒロインなの。この世界のね。
リクエストを頂いたので自称ヒロイン視点を書いてみました。
そろそろ蛇足かな?とも思いましたが投稿しちゃう。
もう!意味分かんない!あたしはヒロインなのに!
え?そう、あたしはね、ヒロインなの。この世界のね。だから、あたしに話し掛けてもらった事を誇りに思うといいわよ。自慢してもいいのよ?
あ、よく見たら貴方、割と見れる顔してるじゃない。皆には劣るけど。……当たり前か、皆仮にも攻略対象だもんね。顔は一級品でないと。え?あ、何でもないわ、こっちの話。
でもでも、ここだけの話ね?最近皆にも飽きてきちゃったの〜。なーんかワンパターンな事しか言わないし、所詮ゲームなのかなぁ。それに、最近は目がギラギラしてて怖い……。あたしの身体狙い?やん、怖ーい。なんちゃって。皆何だかんだヘタレだから手を出したりなんて出来ないわね。
え〜?「ゲームとか何の話だ」って〜?うーん……言っても多分分かんないわよ?あたしもキチガイ扱いされたくないもん。
「良いから言ってみろ」?しょうがないなぁ……ほんっとーに、ここだけの話だからね?
あのね、実は……この世界は、『乙女ゲーム』の世界なの。
あたしがその事に初めて気付いたのは学園入学直前。前世の記憶がぶわーって甦ってね、前世にプレイしてた乙女ゲームのヒロインになってる事に気付いたの!
あ、乙女ゲームっていうのはね、ゲームの中の素敵な男の子達と疑似恋愛するゲームの事ね。この世界はそのゲームの世界なのよ。
兎に角、それを知ってからはあたしはゲーム通りに動いたわ。しかも最難関って言われてるハーレムルート狙いで。だってあんなにイケメンがいるのに選べって他のイケメン達に失礼じゃない?
ゲームの内容は全部暗記する程やり込んでたから、攻略自体はそれ程難しくなかったの。でもね、あたし達が結ばれる決定打……悪役令嬢からのイジメが全く無かったのよ!悪役令嬢なら悪役令嬢らしく役目を果たせっつーの!
ああ、そうそう。その悪役令嬢は今、何でか知らないけど受付嬢とかやってるわよね。このギルドに来る度にあのムカつく顔見なきゃいけないのが辛くて辛くて〜。
話が脱線しちゃった。ええと……そうそう、悪役令嬢の話ね!あたしもちょっと迷ったんだけど……ハーレムルートが失敗する方が怖かったから、罪をでっち上げる事にしたの。
は?「良心の呵責は無いのか」って?そんなの役目をきちんと果たさない悪役令嬢が悪いんだもの。むしろあたしの手を煩わせるとか絶許って感じ。
それでね〜、悪役令嬢を国外追放する所までは上手くいったんだけどぉ〜……。何でか国に戻って来た王様が激怒して、「何としてでもリリアンを連れ戻して来い」とか言うのよ。「連れ戻せぬ限りはこの国の土を踏む事は許さん」って。
それだけでもあり得ないのに、あたしも一緒に行けとか命令されてさ〜。「会ったら誠心誠意謝れ」だって。え?「謝ったのか」って?やだなぁ、謝る訳無いじゃん、相手は悪役令嬢よ?
でもさ、折角こっちが『戻って来るのを許してやる』っつってんのにあの悪役令嬢が嫌がるから、こーんなみすぼらしい生活を余儀なくされてるのよねぇ、あたし達。もう正直我慢の限界。皆いいとこの坊ちゃんだし、そんなに強くないから頼りにならないのよ。
特に騎士団長の息子とか辺境伯の息子とか魔術の天才とかいう肩書き持ってんのに他の冒険者より弱いとか、ねぇ。そろそろ潮時かなーって思ってるんだ〜。
「どういう意味だ」?え、分かんない?乗り換えるのよ。幸いあの悪役令嬢が惚れてる冒険王様、ちょっと歳いってるけど皆と同じくらいイケメンだし!しかも王様なんでしょ?贅沢出来そう〜。もう一回目の前で奪って悪役令嬢がショック受けるとこ、見たいなぁ、くふ。
ああ、でも本当あの悪役令嬢目障り。あたしより幸せそうなのが一番許せない。まあ、あたしのテクを持ってすれば冒険王様だってイチコロだろうし、せいぜい今は短い幸せ噛み締めてろってね〜。
はあ、久しぶりにこんなに喋ったわ。あたし、誰かに全部ぶちまけたかったのかも。その、ありがとう。あたし、明日から貴方に守ってもらおうかなぁ。
……「勘弁してくれ」?どーゆー意味よぉ!前言撤回!あんたなんかそこらのゴリラ女がお似合いよ!
肩を怒らせて立ち去る電波女を見送り、聞き役に徹していた男は深く深く溜息を吐いた。
「お疲れ……」
「本当だよ……。何だよあの女、妄想逞しすぎてついていけねえや」
「ただのビッチだと思ってたらとんでもねえ爆弾抱え込んでやがったな」
周りでさり気なく聞き耳を立てていた冒険者達が口々に男を労わる。
「諜報員っつーのも大変だな」
「いや、ここまでのは久々だぞ」
男は生温いエールをグイッと呷る。
それなりの数存在する諜報員の中で、押し付けに押し付け合い、押し付け合戦に敗北したのがこの男だ。悪い意味で有名な6人組の要の女、胸糞悪い話しか聞けないだろうと思っていたら案の定だった。
「それにしても……マスター狙いたぁ無謀だな」
「あの女、マスターに嫌われてる事気付いてなかったんだな。ある意味才能だぜ」
「あの坊ちゃん達もある意味被害者だったってー事かね」
「いや、『悪役令嬢ちゃん』に国外追放なんて大罪人向けの罰を与えたんだ、同罪だろ」
「それで?あいつらはどうなるんだ?」
1人の何気無い問いによって、酒場は少し静かになった。
「決まってんだろ。ギルドマスターもやる時ゃやる男だ。かの国にも送り返せねえ、この国で迷惑撒き散らすってんだから処分一択だろ」
わっ、と冒険者達が沸いた。彼等も、度重なる尻拭いに嫌気が差していたのだろう。
ーー後に受付嬢な悪役令嬢はこう語る。
「わたくしを陥れたとはいえ、こうもあっさり亡くなってしまうと……いや、わたくし達もそのつもりで送り出したのですけど。
……こんな時、どんな顔をしたら良いのでしょうね」