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月華の姫将軍  作者: 久永 雅貴
15/61

act.15 副隊長と部下たち

本日2話目です。

お気をつけくださいませ<(_ _*)>

          * * *


「──よう、お疲れさん」


 上座の三人を大広間に残し、近衛兵百名が廊下を歩いていると、柱の陰から眠そうな顔が片手を上げて出て来た。

 百名全員の表情が険しくなる。好意とは真逆の反応。

 フリューゲルは全く気にしない素振りであくびをする。

 先頭を歩いていた『第一の勇者』が片眉を跳ねさせる。


「……副隊長。隊長の命令では、近衛隊全員集合だったはずですが?」


 苦虫を噛んだような顔。


「あー……俺は無愛想殿下に嫌われてるから。陰ながら参加」


 小指で耳掃除をしながらフリューゲル。

 今度は『第二の勇者』が嘲笑を浮かべた。


「なら、ずっとお隠れになられては?」


 近衛兵たちから失笑が漏れる。

 バカにされても、フリューゲルは全く動じない。クセの強い髪をわしわしとかく。


「俺もそうしたいんだけど、隊長に止められてねェ」


 心底おもしろくなさげに。


「どこぞの部下たちが役に立たないから」

「!!」×100


 近衛兵百名が一触即発へと空気を張り詰める。

 隊長や王太子殿下、さらに恐ろしい殺気を放つ侍従なら真摯に受け止めたりもできるが、このヤル気なしな副隊長に言われると無性に腹が立つ。


 そもそもエクラレーヌについて軍に入ってきた時から気に入らなかった。

 近衛兵百名のように純粋にエクラレーヌを慕う者も、公爵令嬢としてのエクラレーヌの利用価値を知る者にとっても、フリューゲルの存在は目障りだ。

 加えて、不真面目な勤務態度は、周囲のやっかみも多くなりやすい。

 近衛兵たちも何かにつけて嫌がらせをしたが、のらりくらりと避けられたりで、効果は皆無に等しかった。

 エクラレーヌの隊長就任に合わせてフリューゲルが副隊長に昇格し、大いに不本意ながらも上官になってしまったため、嫌がらせも鳴りを潜めていた。


「あんたらもバカだよなぁ」


 張り詰めた空気をものともせず、フリューゲルが心底呆れた声を出す。

 ぷつっとはち切れた空気に、近衛兵たちが怒涛のごとく返そうとするのを、フリューゲルが次の言葉で黙らせる。


「隊長、辞める気だったぞ。あんたらのせいで」

「……は?」×100


 あまりに突拍子もないことを言われた気がして、近衛兵百名は勢いを失した。

 思考能力が停滞気味になった近衛兵たちに、フリューゲルが続ける。


「隊長は、あんたらがサボるようになった理由は自分にあるって思ってたんだよ」


 ………………ある意味その通りだ。


「自分が隊長になったのが不満なんだと思ったんだ」


 …………むしろ大歓迎だ。


「殿下に会うって目的も果たしたし、隊長でいる理由もないしで、自分が辞めて円く治まるなら辞めてもいいかな、と」


 ……それは困る。


「んでもって、晴れて公爵令嬢に戻ったエクラレーヌ嬢は、いつも一緒にいた男前と結婚して末永く幸せに暮らしましたとさ」


 ──思考再起動。


「んなわけあるかあああああ!!!!!!」×100


 百名、全身全霊の怒声が廊下に響き渡り、窓は軋み、余韻が去った後も耳鳴りがやまない。

 だが、そんなものは些細と、口々に抗議の声を上げる近衛兵たち。


「男前って貴様のことか!?」「結婚なんて許せるか!!!!」「貴様を消して俺がっ」「おのれっ、一人で素敵妄想をっ」……etcetc。


 一気にまくし立てるものだから、ほとんどが何を言っているかわからない。

 発火元のフリューゲルはまともに聞く気がなく、またあくびをしている。

 そうした態度が、さらに火に油を注いでいく。


「いつも俺たちを見下しやがって!!」

「なぜ貴様が副隊長なんだ!!」

「いつも隊長の隣にいやがって!!」

「なぜ貴様ばかり頼られるんだ!!」


 常日頃から思っていることを口々に叫んでいき、怒号は尽きない。

 一度弾けると、どうにも収まりがきかないらしい。鬱憤を全て吐き出そうと些細なことでもフリューゲルにぶつけていく。


 熱気も最高潮に達した頃、その言葉は発せられた。


「──孤児のくせに!!!!」


 途端に近衛兵たちの罵詈雑言がぴたりと止んだ。


 嫌な沈黙が流れる。

 近衛兵たちのわかりやすい反応に、フリューゲルは口元に自嘲を浮かべた。


(まさか、今でも言われるとはねェ)


 この歳で孤児と言われるのも何だが、それ以上にその言葉を言う考えなしがいることに驚きだ。


 十年前、家族を一度に亡くしたフリューゲルは、エクラレーヌの祖父に拾われた。

 没落寸前の男爵家の次男坊なフリューゲルが、エクラレーヌとともに軍教育を受けていると、周囲から嫌がらせを受けた。ただ、そのほとんどをフリューゲルは何の気なしに受け流していたため、している側に鬱憤が貯まっていく。

 そして、その鬱憤が爆発した時、『孤児のくせに』と言われた。

 天涯孤独には変わりないから孤児といえば孤児だし、フリューゲルはいつものように流した。

 だが、別のところで火がついた。──エクラレーヌとその祖父である。

 直情的なジジ孫は、フリューゲルを孤児呼ばわりした輩と徹底交戦し、どんな手を使ったのか、相手が涙ながらに謝罪までしてきた。

 それから数日が過ぎて明るみになったが、派手なジジ孫の水面下でエクラレーヌの両親も、相手の家に『ちょっかい』を出していたらしい。

 フリューゲルを孤児扱いするとマーベラス家を敵に回す、と瞬く間に貴族内で広まった。


(なのに言うかねェ)


 フリューゲルが内心呆れを通り越して首を傾げる。

 あの台詞を聞くなり固まった近衛兵たちを眺めやる。きっと、マーベラス家の報復に畏れ戦いているのだろう。


(……まぁいいか。ぼちぼち、こいつらの相手するのもめんどいし。固まってる内にトンズラしますかね)


 何やら適当に結論づけて、フリューゲルが踵を返す。


 ………少し歩いて、本来の目的を思い出した。

 だから、少しだけ嫌がらせをしてみた。


 ぼそりと呟く。


「……エクラレーヌ嬢の右脇腹には三連ホクロがある」


 数拍ののち、怒りや欲求不満やらで廊下が喧々囂々となった。


 十年近く前の情報で大いに盛り上がってくれた部下たちを残し、フリューゲルは心なしか口元を緩めた。


 自分が十年かけてもできなかった、エクラレーヌの赤面と狼狽を簡単にやってくれたのだ。

 このくらいの腹いせは許容範囲だろう。


「……………………直情型には真正面から行けばよかっただけか……」


内容に対して、ひと言。

やっぱりバカばっかww

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