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33.配流の塔

配流の塔は、数十階に渡り上に伸び、先に行く程細く鋭くなっている。

砂状に劣化した箇所も無数に見られる赤茶けた煉瓦造。鬱蒼と繁る木々に塔に絡まる蔦。


一種独特とした異様な風態を醸し出している。

綺麗好きで潔癖と噂されるドルセン王の統治している建造物とはおおよそ思われない。


一階には頑丈な鉄扉が据えられ両脇には屈強な兵が配置されている。

重い扉が軋みながら開かれると、果てなく続く石造りの螺旋階段を登り、最上階へと案内される。


フィリアは平静を装ってはいたが、とうに息は上がり、高いヒールの履いた足はガクガクしていた。


(な、長いわ! 何の嫌がらせなの、これは…)


だが、ここは名家の公爵令嬢。

顔には余裕の笑みを浮かべ静々と足を進める。


これが、嫌がらせだとするならば、巫女時代を思い出す。早くから、祭司長様ルードから聖性を見出されていたフィリアは他の神官や巫女達から謂れのない可愛がりを受けていた。


皆、親切な顔をして近づき笑顔で人を堕とすのだ。

何も分からない純真な小娘であればとうに聖性を失い放逐されていたかもしれない…が、フィリアは難なく躱し何事もなかったかの様に振舞っていた。


馬鹿にはなりたくない。

馬鹿と一緒に堕とされるのだけは勘弁。

自分の意思外で巫女に祀り上げられ、国の期待さえ込められ送られたのだ。


自分のヘマは例え、人からの横槍でも自らの手落ちになるのだ。ああ、なんて煩わしい。


我ながら可愛くない子だったわ。


後見を名乗るソーヤが現れるまでは。



あくまでも貴族が入れられるのが前提だから粗末ながらも生活に必要な物は揃っている。と、聞いていたけれど…これは…。


ベッドに机、椅子、使い古された絨毯には染みが各所に散らばり敷かれている。

絶対に降りられない高さだからこそ、窓は付いているけれどご丁寧に鉄格子入り。


罪人の入れられる地下牢と比べると雲泥の差で天国とも言える。


塔にてする事は巫女時代と変わらない?

日に十二度リュファス神に捧げる祝詞を諳んじ、拝礼をする。食事は二度。

それ以外の時間は神殿所有の写経本をひたすら書き上げる事。


家族からレースの差し入れがあれば、刺繍を施し孤児院のバザーで売られる事。


お腹を括るしかないわね。


無事、3ヶ月後に出られる様に敬虔な信徒になりましょう。


え?何、懺悔?

慇懃無礼な態度の士官がノックも無しに扉を開け、私を睨め付ける。


私、嫌われています?初対面ですのに。


士官からの言葉は7日に一度、ドルセンの司祭の前で懺悔せよ、と。


「まさか、まさか聡明な公爵令嬢でございますフィルトーレ様が思ってはいないでしょう?」


細い身体に痩けた頬、糸を引いた様な瞳から覗く色は濁った灰色。

笑んでいるのに、底知れない仄暗さを感じさせる相貌。


昼間だと言うのに、汗ばむ陽気なのに、ぞくりと鳥肌が立ちましたわ。


悪意の塊……。


「思ってはないでしょう?」

重ねて言われる。


「出られるなんて、思ってませんよね?」


士官は私の返事を聞かずに身を翻し、螺旋階段に消える。


重い音のする鍵もしっかりと掛けて。


「…………。」


鉄格子越しの窓外に目を遣る。


思いませんわよ?

ソーヤに会いたいなんて。

もう心寂しくなったとかも思いませんわ。

子供ではありませんもの。


レースの差し入れは明日からでしょう。


私は用意されていた、欠けてヒビの入ったグラスにデカンタから水を注ぎ喉を潤します。


禁錮3カ月の初日から躓いてはいられませんものね。

リュファス神にしっかりと祈りをささげ拝礼します。


こういう事は切り替えが肝心なのですわ。







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