32.公爵令嬢、退場 Ⅱ
なぜだ⁉︎
なぜ笑える‼︎
裁きの間にて王である父が何かを言い場を締める。
なぜ、誰も何も言わない⁉︎
無礼な公爵令嬢が私を馬鹿にしているんだぞ!
渾身の思いを込めて睨んだのだ。
お前を必ず追い落としてやると。
『あなたはなにができるの』
初対面で言われた言葉だ。
私は何でも出来る。
『どうして』
私が選ばれた人間だからに決まっているだろう。
なぜ、そんな事も分からない?
よくそれで、巫女が勤まったな。
いや、世間知らずだからこそか?
だが、あいつは直ぐに本性を現す…いや、思い出す必要もないか。
禁錮だと? 塔に三カ月だと? 笑わせるな。
生温い。父上は老いられた。
フィルトーレ公爵を
「……様 」
「……様 」
「ル、チェル? 」
「王子……」
ルチェルは悲しげに困った表情をすると、私の腕を掴み背伸びをし顏を近付ける。
「ルチェ……」
どうしたのだ、と腰を落とすと軽く私の口に触れ舌を出す。
「っ 」
何を……。
「血の味ですわ、王子。力を抜いて下さいな。お口を開けて。中が切れてしまっています」
ああ、私は知らず知らず噛み締めていたのだな。
「手も 」
「な……」
「開けて下さいな。フィリア様の事はもう良いのです。フィリア様の事で王子が傷つくのは駄目です、絶対。私が許しませんよ? 」
首を傾げ、眉尻を下げ笑む。
いつも、いつも、ルチェルは私の澱みを綺麗にする。
ルチェル無くしては私は私では居られないのだ。
フィリアではあの女では駄目だ。
罪を罪とも思わない傲岸な公爵令嬢。
フィルトーレ。
この国にお前はいらないんだ。
私とルチェル以外には誰もいなくなった裁きの間で私は誓おう。
フィルトーレを断罪し、私達の幸せを成そうと。
私はルチェルに笑いかけ、柔らかで光沢のあるピンク色の髪を手で優しく梳く。
柔らかな肌触りに人心地つき、ルチェルの顎を上げ唇を重ねる。
当たり前だが、このままでは済まさない。
フィルトーレを追い落とす。
次に目見える時はーー。
また暗い感情が蠢くが今は抑える。
燃え盛る憎しみを吞み下す。
今はルチェルの愛しさを優先すべきなのだと。
淡く艶やかに微笑むルチェルの腰を抱き寄せ、私の部屋へと向かう。
王城の通路には物欲しげな目線を送る貴族令嬢達にその親、親戚共。目を光らせ私の動向を探り、手を差し伸べ様とする者。権力欲に絡んだ汚い目付きだ。
通り過ぎ様に、暗に近寄るなよと目線をだし威圧する。悪いが貴族達(お前たち)に割く時間などない。
私は無能は嫌いなんだ。
フィルトーレを地に這い蹲せられない無能共が、私とルチェルの時間を奪う等、あってはならないのだ。
ドルセン唯一無二の王位継承者である私に近付き、甘い蜜を吸いたいなら、わかるだろ?
足早に通り過ぎる。
私が王になれば、粛清の嵐か。
無能は私の治世には必要ないんだ。
ルチェルは吐息を零しながら、呟く様に話す。
「王子、駄目です。私以外にも優しくして下さらないと。私が王子をもっともっと好きになってしまいます」
「王子は皆様の王子ですのに 」
頬を染め可愛いらしい事を言うルチェルに胸が熱くなる。
ルチェルに出会い、誓約をして良かった。
今生では離れる事はしない。いや、来世もか。
そう理解した。
刻まれた祭司長からの重誓約。
神をも認め、私達に言祝ぎを与えられた。
早く、彼女を妃にせねばならない。
父と母に相談せねばな。




