27.招聘⁉︎ 受けて立ちましてよ Ⅱ
王城に着くと、名だたる貴族達から嘲笑と白い目つきで迎えらます。
情勢はこちらが悪いのかしら。
「フィリア様 」
彼等の目つきから庇う様にソーヤが私の前に立ちはだかります。
「大丈夫。甘やかさないで 」
不敵に笑います。
守ってくれようとするソーヤが嬉しいです。
味方がいるのは力になりますからね。
公爵令嬢らしく、毅然と背筋を伸ばして城内を歩きます。
「あら。フィリア様!」
呼び止めたのは輝くばかりの笑顔に着飾った
「ルチェル……様 」
「様だなんて。私はしがない男爵令嬢。生まれは平民よ。ルチェルと呼んで下さいな 」
屈託無く私の両手を取り
「私達、一緒に王子様を好きになった仲じゃない 」
は……?
いつ、私が、王子を、好きだと⁉︎
顔が強張ってきましたよ。
この状況もバカ王子のせいですからね?
「フィリア様、お顔が恐くなっていますよ」
こそっとソーヤに言われます。
私としたことが ‼︎
慌て笑顔を作り
「ルチェル様は正式に王子様と誓詞をされました。行く行くはドルセニスの王妃様ですわ。しがない私如きでは尊き御身を呼び捨てになんて出来ませんわ 」
「そう、残念だわ。この後、審問よね? 私はフィリア様の味方ですからね 」
可愛くウインクされると足早に去って行かれました。
「ルチェル様には嫌われていたかと思っていたのだけど、王子様と結ばれてから変わられたわね 」
「ええ。変わられましたね 」
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あの女!あの女!あの女!あの女‼︎
死ねばいいのに。
早く死んでくれたら、私の王城生活はもっと楽しくなるわ。そうでしょ?何をしても、比べられるのはもう沢山なの。
フィリア……全てを持って生まれた公爵令嬢。
「ルチェル?どうした、もうすぐ始まるぞ 」
輝く若い金獅子。
この国の王になる男。
限りない優しさで私を甘やかしてくれる。
「王子……。先程フィリア様にお会いしましたわ 」
「あの女にか⁉︎ 何かされなかったか?」
「大丈夫。お友達になりたいと言ったの。貴女の味方だとも。でも、断られました。所詮、平民出の準男爵…… 」
「言うな‼︎ ルチェルは私の唯一だ。あの女にはそれ相応の報いを約束する。悲しまないでくれ。笑っていてほしい。私の妃……」
最後は王子の方が泣きそうです。
繊細。王子位は肩の荷が重いのでしょう。
大丈夫。私を王妃にして下さるのなら、私も貴方を甘やかしてあげるわ。
「王子こそ、私の唯一です。私には貴方しかいないのです 」
「ルチェル……」
王子の顔が近くなり、何度なく重ねた唇が落とされます。
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控えの間に通され、ソーヤがお茶を淹れてくれます。
「フィリア様、来客です 」
「どなたかしら 」
お父様は国の要職につかれているから、既に審問の場に行っていらっしゃるでしょうし。
「フィリィー 」
たった数日ぶりですが懐かしい声。
「祭司長様‼︎ 」
「立たないで。座ったままでいいんだ 」
そう言って祭司長様は隣に座られます。
隣ですか⁉︎ 向かいでしょう⁉︎
「フィリィー」
真剣な声音に文句は飲み下します。
「なぜ、私に助けを求めない?」
は……?
ここにも居ましたか。
「助けなんて必要ありません。私は王家に恭順の身です。王子がはっちゃけてしまい、話が大きくなりましたが、私は王に事実を伝えるのみですわ 」
「王城には不穏が渦巻いている。この審問では何が起きるか分からないんだよ。私は貴女を守りたいだけなんだ。誓いをしてしまったから、フィリィーが真に私の介入を望んでくれないと私は動けないんだ 」
悩まし気ですわ。切切と訴えて下さいますが、日の光が窓を通し祭司長様の銀糸の髪に乱反射し……眩いです。潤んだ紫の瞳も、不敬ではありますが女性と見紛うばかりです。私が男なら骨抜きにされていますわ。
思わず、はい。介入して下さい。と、言ってしまっていたかも。でも……神々しい美しさも男性であれば、私、耐性ついてますからね。ソーヤ然り。
ん?顔を上げると見慣れない方達が。祭司長様の護衛でしょうか。
「…… 」
なぜか黒髪の美青年に睨まれます。
それを隣の方が窘められています。
そうです。リュファスの神位に近しい祭司長様です。
「祭司長様。私は祭司長様の介入は一切望みませんわ。お引取りを」
私にかまける必要はありませんわ。
「私にはソーヤが居てくれますもの。それで十分ですわ 」
「ソーヤか 」
「公爵令嬢、そろそろ審問の場に罷り越し下さいませ」
城の次官に声を掛けられます。
私は祭司長様に会釈をしソーヤを連れ次官の後に付きます。
「相変わらず、人の心を傷付ける」
ぼそりと、本当に小さく黒髪の青年に呟かれました。
?嫌を感じましたが、私の思考は審問へと向けられていたので深く考える事はありませんでした。
彼が夢に出てきた名前が思い出せない少年と似ていた事も、この時の私は気付けませんでした。
次官は重い扉を開き
「リトレイア公爵令嬢、お着きにございます 」
慇懃に答え私達を通しました。
正面には王と王妃。
その横には憎しみに満ちた王子の顔に憂いを帯びたお顔のルチェル様。
左右に物見高い貴族達が厳しい目で私達を見据えています。
「っ」
物々しい雰囲気に心臓が凍ります。
「フィリア様」
ソーヤに優しく囁かれ、意を決した私は前に進み出
「ドルセン王、並びに王妃様、私フィルトーレ・ダリアース・リトレイアは招聘により罷り越しました 」
問われる場ですからね。
最上位の礼を致します。
「ーーうむ。フィリア公爵令嬢、なぜここな場所に呼ばれたかも解っておるな 」
「はい 」
「では裁きを始めよう」
「王‼︎ お言葉ですが、そこな公爵令嬢は学院で起こった事実を話されに来たのですぞ。裁くなど‼︎
罪人ではあるまいに 」
強く言って下さったのはカジット侯爵でお父様と親しくして下さっている王の右腕とも称される公正な右大臣ですわ。
王の物言いに場に緊張が走りますがカジット侯爵のお取りなしに私はホッと致しました。




