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20.深夜、夢の最中に目覚めましたわ ーフィリア視点ー

「ちょっ……待っ、何で私が巫女なんですかっ ⁉︎ 」


なりたい人がなればいいんです ‼︎

私はなりたくないっ ‼︎


まさかの公爵令嬢、叫んで逃亡。


いや、ただのフィルトーレなんですけどね、私。


脇目も振らず走っていたら神殿内でぶつかりました。


涙でぐしょぐしょの私に一方、巫女のお姉様方に騒がれる氷の祭司、冴え冴えとした美貌を誇る神兵長。


何か言い返さないと女として、負けた気がします。

幼女こどもですが。


睨んで大きく息を吸い込んだ瞬間、硬質化した雰囲気が和らぎました。


私を抱き上げて、ぽんぽんと優しく背中をたたかれます。冷たい顔をしているのに伝わる熱は温かくて、頭もよしよしと撫でられます。


幼女こどもの扱い、わかってますね ‼︎


あやされて、ほだされた私は、本神殿の巫女長の所までお持ち帰りされていますからね。


それからは、巫女長や神官長からお小言の嵐ですよ。


私の聖性は祈れど祈れど無尽蔵むじんぞうで底を感じませんでした。


その度に、聖性の有り難みを説かれて、ここぞという所で光らせる様に言われました。


少し羽目を外そうものなら、慎みを持てと怒られるのも御免ごめんでしたわ。


遊びたい盛りの幼女こどもをこんな所に閉じ込めて。

ドルセニスに返してくれない大人達。


反抗心しかなかったかもしれません。


夜、皆が寝静まってからあらゆるものに祈りました。

少しでも消費出来る様に。還俗出来る様に。


動機は浅はかでも、聖性は本物。


神殿内でも恩恵おんけいこうむってる人はいるよ。と、日焼けした肌に黒髪で、瞳は神鳥の羽に見られる美しい青みがかった鮮やかな緑色をした男から突然、声を掛けられました。


屈託くったくない無邪気な笑顔。


戒律がとても厳しい神殿にいて、何にも縛られていない自由な人。


あなたが望むなら、あなたが嬉しいと喜ぶなら


「もっと真面目に祈ろうかな ? 」


「ぶはっ! 真面目に祈らなくて、こんだけ光纏えるのは、すげぇーーぜ。」


少年らしいてのひらで豪快に頭をくしゃくしゃにしてきても、なぜかしら憎めない。不思議な子。

名前は何だったかしらーー ?


「………ヤ。」


あれ ? 思い出せない ? そんな馬鹿な…。


何度も私が引いた境界線を飛び越えて、心をほぐしてくれたよね ?


確か二つ文字なの。


「あなたは……。」


何だろう、焦燥感 ?

胸に去来きょらいする痛みは、どうして ?

私、何か、したのーー。





「ーーっ。」


じんわりと纏い付く様な汗に衣服が張り付き、不快感を感じます。

まだ動悸どうきが収まりません。


「夢……なのよね ? 」


問うても誰も居ないもの。


知恵熱でソーヤに寝かされたのに、今では寒気がしてきます。


身震いすると、ドア越しにソーヤのくぐもった声がします。


「フィリア様。ハーブティーをお持ちしました。」


「入って。」


入室と同時に、部屋に明かりがともされます。


「フィリア様、うなされておいででした。」


「部屋外まで、聞こえてた ?」


「人払いはしています。」


「側付きのリナまで ⁉︎ 」


こんな時は駆け付けてくれるのに。


「私では、力不足ですか。」


「そんな事。」


ある訳ないじゃない。


憮然ぶぜんとした態度になっちゃうわ。


「巫女見習いの時と巫女に使命された夢だったわ。」


「そうですか。」


透き通り、甘く香るカモミールティーに温かなミルクを注がれてサイドテーブルに置かれます。


「忘れちゃいけない名前を、忘れてるわ。」


あら、ちょっと悔しくて鼻声になったわ。


「忘れるべき名前だったのでしょう。」


静かに言われました。


カップを手に取ると、花の様な香りが鼻腔びこうくすぐり、適度な熱さが喉をうるおしてくれます。


「美味しい。」


涙が音も無く、流れました。




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