16.ルチェルの回想 Ⅰ
『あんたなんて、産まれてくるんじゃなかった‼︎』
取り敢えず、記憶の中の姉妹は私に冷たかった。
毎日、否定されてご覧よ?可笑しくなるから。
『成長しないねぇ。早く売り飛ばしたいから、せめても少し肉付けな。』
叔母から、溜め息と共に呟かれる。
食事なんて、兄弟に取られて無いもの。
『媚びも売れねぇのか。生意気な面してっと
買い叩かれんぞ!笑いもしねぇ、泣きもしねぇ。気味悪ぃガキだ……。』
しばらくしたら、売られるからか最近、あたしの父親とやらは私を打たないわ。
『産んでやったんだ。感謝しな。腹が減ったって?
』
黴びて萎びた豆を床にぶち撒けられ
『好きなだけ、食いな!たんと食べて明日、あたしらに大金置いてきなっ‼︎‼︎それが、あんたの存在意義さっ‼︎‼︎ 』
これが、私を産んだとか……。
笑いが込み上げるわ。
膿んで爛れた場所には居られない。
売られる事にも甘んじない。
だって、私の価値は私が何よりも知っているもの。
痩せ細ったガキを買う大人なんて、犯罪者しか想像出来ない。
燻んだ髪色を笑われて、使い捨てにされるなんて、真っ平ごめんだわ。
私は薄汚れて黒いし、目に生気もないし、身体だって栄養が足りてなくて鶏ガラみたい。
でもね、知ってるの。
私ーー、素材は良いのよ?
貴族に産まれていたら、伯爵家や公爵家に望まれる位にね。
頭の回転だって、悪くない。
人買いが来る前に、売られる前にーー
私の過去は消しておかないと……ね?
決行前に空腹で倒れる理由にもいかないから
床に転がる黴びた豆は拾い集めた。
黴びは手で拭えばいいし、萎びて固くなったのは口に放り込んで唾液で柔らかくすればいいわ。
何日かぶりの食事は、土臭くてじゃりじゃりしていて吐きそうになった。でも、いいの。
これは過去になるから。
いない、なかったものになるからーー。
あたしは満足してる。




