13.王の選択 Ⅰ
宴も終わり、人の足の途絶えた『赤紗宮』の間に わしは一人、佇み思案に耽っていた。
まずは考えねばなるまい。アランドを王位継承者のままにする為にも必ずやルチェルとやらと添い遂げさせねばなるまい。
しかも側妃や公妾も持つことさえ許されぬ。
それはルチェルにも言える事だ。
真に添い遂げねば刻印は烙印となり成長し、王子は追放の憂き目に合う……。
なぜ、誰も止めなんだ……。
繰り返し問うてしまうが、栓無き事か。
懊悩するわしの元に、神官長が歩み寄り
「王……。幾重にも誓約が成されており、ルードが科されたものなれば最早、難解を極め真の意味での理は我々にはとても……解せませんでした。申し訳ありません……。」
苦渋の顔で告げられる。
年老いて、唯一授かった我が子だ。
何に代えても、守らねばならん。
更に深く思索の海に沈む。
「父上!父上‼︎なぜ、人払いを⁉︎」
場にそぐわぬ大きな声を放ち、アランドが大股で入ってくる。
王子の胸当たりまでしかない小柄な女性も小走りで後を追って来る。
「父上、私の最愛の女性を紹介したい。」
わしの苦悩も知らず、輝く様な笑顔で言う。
天真爛漫で思い込むと、ただ実直なのだ。
親としての欲目ではないであろう。
どんな馬鹿な事を仕出かしても、可愛い我が子だ。
守らねばならん。
何と引き換えにしても……な。
わしは昏い目付きになり自嘲する。
「父上、私の最愛にして誓約により結ばれたリモーネ男爵の娘、ルチェル・リモーネです。」
晴れ晴れと告げられる。
ついと目を遣ると、優しい色合いのオーロラピンクの髪に白い肌を上気させ好奇心を覗かせる大きなピンク色の瞳に小さめの鼻、口と全てのパーツがバランス良く配置された庇護欲を掻き立てる少女が立っていた。
「国王様……私、ルチェル・リモーネと申します。
アランド王子をこの世の誰よりもお慕いしております。」
幸せそうに嬉しそうに言う。
「お慕い?もう妻なのに?」
「ふふっ。愛しておりますわ。」
王の前に居ながら臆する事なく愛を囁き合う。
無礼でいながら、誓約は成されるかと思い安堵もする。
「リモーネ男爵の娘か。」
影の薄い日和見な男を思い出す。
「まぁ!お父様の事を御存知でいらっしゃるの⁉︎
素敵だわ。国王様に知って頂けるなんて‼︎」
「ルチェル、国王様なんて。君にとっても義父上だよ。」
「あっ……私たら!」
「あの…お、義父上様。」
おずおずと、だが目を見、はっきりと告げられる。
悪くはない。
馬鹿な振りをしているのか。
胆力はある。
婚約者から奪い取れる女なのだ。
世間知らずの息子など一溜まりもあるまい。
だが頭の、回転は良い……か。
贅沢は言うまい。




