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人狼への転生、魔王の副官  作者: 漂月
本編

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248/415

「リュッコとパーカーの秘密作戦」

248話(リュッコとパーカーの秘密作戦)



 オレは下水道の通気口をよじ登りながら、袋の中の兄弟子に声をかける。

「パーカー、生きてるか?」

 袋の中から楽しそうな声がする。

「死んでるに決まってるじゃないか」

「あんたって結局、生きてるのか死んでるのかどっちなんだよ?」

「どっちなんだろうねえ」

 どっちでもいいか。



 通気口は人間には狭いが、オレにはちょうどいい。穴はいいな、落ち着くぜ。

 ちょっと臭いけど。

「それにしても、なんで通気口なんか空けてるんだろうね。街が臭くなるじゃないか」

 袋詰めになったパーカーがそう言うので、オレは教えてやる。

「腐った匂いってのは、火を近づけると燃えることがあるんだよ。特にクソの匂いはな」

 火気の取り扱いは注意が必要なので、オレも最低限のことは知っている。



 よいしょよいしょと縦穴を登りながら、オレは説明を続けた。

「ヴァイトが教えてくれたんだけどよ。どっかの街の下水に煙草の火を落としたバカがいてな、下水口のあちこちから火が噴き出したんだとよ」

「そいつは壮観だねえ」

 しかしオレにはひとつだけ、気になってることがある。



「でもそれがどこの街かは、あいつも教えてくれなかったんだよな。オレが知る限り、ミラルディアの街じゃなさそうなんだが」

「君に場所を教えたら実験しに行くからだろう?」

 まあな。

 新しい武器のネタにできそうだし。



 そんな話をしているうちに、オレは通気口の出口にたどりついた。地面に突き出した煙突から、オレはよっこいしょと降りる。

「なんだよ、こんな町外れかよ」

 城壁近くの広場だ。衛兵たちの練兵場だな。もう日が暮れた後だから、今は誰もいない。

 オレは背負い袋を逆さに振って、中身を取り出す。

「うわっ、いててて……痛くないけど」

 パーカーの部品がバラバラ落ちてきた。

 勝手に組み立ててくれるから楽でいいな。



「君といいヴァイトといい、兄弟子への敬意がまるで感じられないんだけど」

「別にそんなもん求めてねえだろ?」

「うん」

 嬉しそうに言いながら、パーカーはコキコキと骨を鳴らす。

「さてと、うまい具合に空き地だね」

「まあ、クソの臭いが湧き出してくる場所だからな。こんなとこに住むヤツはいねえよ」



 するとパーカーはこう言った。

「では少し、本気を出すとしようかな。先生と共同開発した、僕の奥義をお見せするよ」

「おう、やってみろやってみろ」

 どうせ死体を呼び出すぐらいだろ?

 案の定、パーカーはいつも通りに骸骨どもを呼び出す。



「暗きゲヴェナの門より来たれ、我が友よ」

 だがなんだかいつもと様子が違う。

「おいおい、今日の骸骨はなんだか偉そうだな」

 ボロボロの法衣をまとったのや、壊れた王冠を被ったのが、ぞろぞろ湧いて出てきやがった。

 待てよ、こいつらなんか見覚えがあるぞ?



「なあおい、こいつらもしかして死霊術師じゃねえのか?」

「ああ、そうだよ」

 パーカーは空き地に召喚した数百体の骸骨どもを数えながら、オレを振り返った。

「僕は死者を即座に召喚できるけど、さすがに数百体が限界なんだ。魔力が枯渇しちゃうからね」

「十分すげえよ」

 まず骸骨どもを即座に召喚できる時点でおかしいんだよ。



 パーカーは印を結びながら、こう続けた。

「でも呼び出した死者たちに骸骨兵を召喚させたら、僕個人の魔力なんか関係ない。さあ始めろ、我が友よ。卓越した技を見せろ」

 パーカーが手をサッと振ると、骸骨の死霊術師どもが不気味な唸り声をあげ始めた。複雑な身振りも伴っている。

 もしかして、こいつら死んでも死霊術が使えるのか?



 やがて空間のあちこちが歪んで、骸骨兵どもがガシャガシャと現れた。古王朝時代の古めかしい甲冑を着込んだ連中だ。

「おいおい、こいつらも骸骨を即時召喚できるのかよ」

「なんせ古代の達人たちだからね。最前列左から順番に、密葬師ウィクリア、キルゴール悪霊公、汚泥のペデドトク、骸骨王ユグスフォリトス……」

「魔術書に載ってる有名人じゃねーか。しかも若干アレな連中ばっかりだぞ。これ全部そうなのか?」

「説得するのに苦労したよ」

 普通は説得どころか、呼び出すこともできねえよ。



 オレは完全に呆れ果てて、このイカレポンチの見本市を眺める。

 地獄の釜から蘇った悪霊どもは、後から後から骸骨兵を召喚しまくっていた。

 広場に入りきらない分が表の道路にまで溢れ、あちこちから悲鳴が聞こえてくる。そりゃ驚くだろうよ。

「もう軽く千は超えてるぞ。まだ呼ばせるのかよ」

「そうだね、一万ぐらいは呼びたいかな」

「帝都が骨で溢れちまうぞ」



 パーカーは肩をすくめてみせた。

「なんせ、帝都を大混乱に陥れる必要があるからね。まだまだやるよ」

「おいおい」

「心配しなくても、攻撃命令は出さないから」

「そういう問題じゃねえだろ」

 やべえ、こいつはちゃんと見張っとかねえと大変なことになる。

 オレは袋から自分用の魔撃銃を取り出し、安全装置を解除した。



「あのクソ外道どもは、ちゃんとお前の言うことを聞くんだろうな?」

「もちろんだよ。徹底的に力の差を見せつけておいたからね」

 何をしたんだ、何を。

「ああでも、支配下に置いているというよりは友人として招待した感じかな? かなり無理を言って集まってもらってるから、あんまり何度も使える術じゃないんだ、これは」

 何度も見たい光景じゃねえよ。



 道路に溢れ出した骸骨兵のせいで、そこらじゅうが大騒ぎになっている。

 だがパーカーのやつは平然として、骸骨兵に指示を出してやがった。

「第一隊は北門への陽動攻撃、第二隊は宮殿を包囲せよ。第三隊は南門を攻略する。第四隊、第五隊は市街に散開し敵を混乱させろ。進め!」

 こいつ、兵の扱いに妙に手馴れてんな。

 もしかして生前は貴族か軍人だったのか?



「さてと、南門を占領しに行くとしようか。内側からなら簡単に開くから、楽でいいね」

「まあそうだろうな……」

 まさか骸骨一匹がこんなに増えるとは、誰も思ってなかっただろうな。

 オレも思ってなかった。



「おいパーカー。ヴァイトのヤツは、この作戦を許可してるんだろうな?」

「もちろんさ。市民や味方の兵士を傷つけるなと、しつこく言われてるけどね」

「あいつらしいな」

 オレが笑うと、パーカーもカタカタと笑った。



「でも誰がボリシェヴィキ公の手下なのか、僕には見分けがつかないからね。骸骨兵に攻撃してきたとしても、職務熱心なだけの衛兵かもしれない。だから人間には一切攻撃しないよう命じてある」

「じゃあ反撃せずに、数の力で城門を開くつもりなのか?」

「骸骨兵も、素手で人間を取り押さえるぐらいはできるからね。邪魔する人間は拘束させてもらうよ」



 パーカーはそう言って、骸骨の死霊術師どもに高らかに命じた。

「もっとだ、もっと呼び出せ。冥府を空にしろ。今宵は亡者の宴、死霊術の祭典なるぞ。生者の都を死者で満たすのだ」

「やっぱお前怖いよ!」

「ははは、君やヴァイトたちがいてくれる限りは大丈夫さ」

 本当にこれ大丈夫なんだろうな、ヴァイト?


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― 新着の感想 ―
もうこの人は死者に近いんだろうな、、、
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