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「エレオラ戦記・その1」

131話(エレオラ戦記・その1)



 エレオラ皇女はロルムンド皇族の鎧とマントを身につけ、部下たちと共に高台に本陣を構えていた。

 眼下には数千のミラルディア解放軍が布陣している。

 彼らが包囲しているのは、城塞都市ウォーンガングだ。



「まずまず、といったところだな」

「槍を持って立っているだけですからな」

 傍らに控えていた中年の副官の苦笑に、エレオラも笑いを誘われる。

 解放軍はロルムンド式軍事教練を数日行っただけの、素人の集まりだからだ。

「不満そうだな、ボルシュ」

「あの程度の練度で戦場に立たせるのは、彼らにしても不幸です」

「貴官は優しいな」

 エレオラはそう言い、城塞都市ウォーンガングの城壁を眺める。



「なかなか良い城だな」

 ボルシュ副官がうなずいた。

「はっ。これなら殿下の獲物としても、なんとか釣り合うのではないかと思われます」

「本物のイオロ・ランゲぐらいが良いのだが、そうもいくまいな」

 ボルシュが苦笑する。

「殿下、今のお言葉を本国に知られたら、間違いなく軍法会議モノですぞ?」

 ロルムンド帝国にある「本物」のイオロ・ランゲは皇帝の直轄地、天領である。



 危険な発言だったが、エレオラは皮肉っぽい表情を浮かべた。手にした「魔撃書」の重みを確かめるようにして、副官に笑いかける。

「だがあのクソ忌々しいキンピカ離宮に、うちの大隊旗を翻す光景を想像してみろ」

「胸が高鳴りますな」

「だろう?」



 そこにミラルディア人らしい騎士が駆け込んでくる。

「エレオラ様、申し上げます! 元老院から和睦の申し出がありました!」

 するとエレオラは冷ややかな口調で告げた。

「降伏以外受け入れる気はないと伝えよ。今後は降伏の使者以外は追い返せ」

「は、ははっ!」

 騎兵鎧に身を包んだ伝令は、素早く一礼して立ち去った。



 エレオラは溜息をつく。

「今さら、こちら側に和睦を受け入れる意味があるとでも思っているのか?」

 別の幹部が笑う。若い女性だ。

「その程度の愚かさだからこうなるのですよね、姫様」

「その通りだ」

 エレオラは振り返り、居並ぶ幹部たちに向き直る。

 その瞬間、一同は背筋を伸ばし、直立不動で敬礼した。



 彼らにエレオラはこう語りかける。

「この戦い、解放軍の兵士たちは戦力であると同時に観客でもある。役者は我々、魔撃大隊だ。わかるな?」

「はっ!」

 全員の声が綺麗にそろう。

 ロルムンドの精鋭というふれこみで来ている以上、無様な戦いぶりは見せられない。異国の戦場で異国人のために戦う勇敢さ、そして圧倒的な強さを見せつける必要がある。



「我が大隊は名前こそ仰々しいが、たった百十二名しかいない。そして欠員は決して補充されない」

 ここでの消耗は避けられないが、ロルムンド人の部下は貴重だ。彼らはエレオラと一蓮托生、裏切ることはまずない。能力も高いし、できれば温存しておきたい。

 だがミラルディア人ばかりに戦わせていると思われるのもまずい。難しいところだ。



「かねてから伝えておいたように、本日をもって魔撃杖の第一種機密指定を解除する。派手に使え、貴官たち好みにな」

「はっ!」

 皆が敬礼すると同時に、ニヤリと笑う。

 とっておきの悪戯をたくらんでいる子供のようだ。



 エレオラは彼らの無事を祈りつつ、こう続ける。

「我々は、ロルムンド軍の強さを見せつける必要がある。なに、貴官たちならいつも通りで十分だ。むしろ張り切りすぎて死ぬなよ。遺族に『ナタリア殿は私にいいところを見せようと無茶をして戦死された。申し訳ない』などと詫びさせたくなければな」

 さっきの女性が顔を真っ赤にする。

「なっ、なんでそこ私なんですか!?」

「貴官が一番危なっかしいからだよ、ナタリア四等士官」

 幹部たちがどっと笑う。



「いい笑顔だ、諸君。期待しているぞ」

 どんな戦場でも、彼らがエレオラの期待を裏切ったことはない。

 きっと今回も期待に応えてくれるはずだ。

 だからエレオラは命じる。

「第二〇九近衛魔撃大隊、総員出撃せよ!」

「はっ!」

 全員のブーツが一斉に踏み鳴らされ、エレオラは部下たちの力強い視線を一身に受け止めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 100人ちょいの大隊か。消耗したあと補充再編されんかった事情持ちなんかな。
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