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ミラルディア連邦

110話



 その後、ザリアには続々と救援が集まってきた。

「『烈走』のフィルニール、一番乗り!」

「あんた二番よ」

「なっ、なんか変な人間がいる!?」

 人馬隊を率いて駆けつけたフィルニールが、ヴィエラ太守フォルネと鉢合わせして目を白黒させている。



「おう、ベルーザ陸戦隊が来たからには何もかもぶっ壊してやるぜ!」

「魔王軍近衛師団所属、蒼鱗騎士団到着しました! ただちに防衛任務にあたります」

「あっ、ヴァイト様だー! 巨人と犬人の工兵隊、ただいま到着ぅ!」

「俺たちが石持ってきたですよ、ヴァイト様」

 リューンハイトからの援軍は顔ぶれも多彩だ。

 彼らにはザリアの城壁作りとその警備を担当してもらう。



「迷宮都市に『迷宮』のパーカーがいない、なんてことはないよね! だって僕は、この街の……」

 無視しておく。

「まあ、この街の出身じゃないんだけどさ。そもそも僕が存命だった頃は、ザリアってこんな形してなかったし」

 無視だ、無視。

「あの……ヴァイト? 今すぐ骸骨兵を七百ほど召喚するから、僕の話聞いてくれないかな?」

「もう少し欲しいかな」



 こんな感じでザリアの防備は整ってきたので、俺たちはようやく前太守メルギオの葬儀を執り行うことができた。

 シャティナの弔辞が過激すぎて参列者が若干引いていたが、父を暗殺された少女の怒りということで大目に見てもらおう。

 あいつ本当になんとかしないとダメだな……。

 フォルネが後の面倒を見てくれると約束してくれたので、俺とアイリアは軍勢を残してリューンハイトに戻ることになった。



 それから何日か経った後。

 リューンハイト太守アイリアの呼びかけに応じて、ミラルディア南部の太守たちがリューンハイトに集まってきた。



 最初に来たのは、工業都市トゥバーンの太守を務めるフィルニール。

「もうやだよ、人間の社会は難しすぎるよ……勢いでボクが太守だなんて言わなきゃよかった……」

「指導者は言ったことの責任を取るもんだ」

 愚痴を言うフィルニールだが、トゥバーンで新しい武具を仕入れて嬉しそうではある。

「みてみてセンパイ! 新しい鎧を作ってもらっちゃった! すごく動きやすいんだよ」

「ああ……よく似合ってるな」

 でもお前、どうせすぐ脱ぐだろ。



 続いて、古都ベルネハイネンからは太守代理としてメレーネ先輩がやってくる。

「あれ先輩、ベルネハイネンの太守は?」

「それが、『せっかく吸血鬼になれたのに、太守なんてクソ仕事やっとれるかーっ!』って言い出しちゃってね。王立図書館の仕事に専念するんだってさ」

 あそこの歴代太守は王立図書館長を兼務しているそうだ。確かに吸血鬼になれば不老不死だし、血だけ飲んでいれば健康を維持できる。研究などに没頭するには理想的だろう。

 しかしそれをメレーネ先輩がよく許可したな。

「先輩は吸血鬼としては、太守の『親』ですよね?」

「そうなんだけどね。絶対服従ってこともなくて……難しい年頃の子を持つ母親の気分って、こんな感じなのかしら」

「知りませんけど……」



 人間側の太守も、続々とやってきた。

「ヴァイト殿、先日は世話になりました」

 ぺこりと頭を下げるシャティナ。ちょっとやつれているが、目はギラギラ輝いている。

「今後も、お世話になります」

「……わかった」

 あの目つき、確実に俺を戦術兵器として使うつもりだな。



「おうヴァイト、あのクソオカマも手懐けたんだってな!」

 海賊都市ベルーザの親分、ガーシュがやってきた。

 工芸都市ヴィエラ太守、フォルネがそれにかみつく。

「誰がクソオカマよ。根は繊細なくせに豪快な親分肌を装ってるあんたに、言われたくないわね」

「お前こそ、オカマ口調なら何言っても許されると思うなよ!」



 喧嘩している二人を、漁業都市ロッツォ太守ペトーレが一喝する。

「やめんか、ばかもん! 先代たちが見たら嘆くぞ! 今どきの若いもんは役者みたいなことをしおるがな、太守の仮面とはそういうもんではないわい」

 すると交易都市シャルディールの太守アラムがなだめに入る。

「ガーシュ殿もフォルネ殿も、太守を十年以上務めておられます。決して『若いもん』では……」



 するとペトーレがじろりとアラムを睨む。

「先々代の真似をして謀略家ぶって大恥をかいたおぬしが、一番心配じゃ。せめて自分に似合った仮面をつけんか」

「そーよ、オネエ口調ならズケズケ言っても案外大目に見てもらえるわよ。こっちになさいな」

「馬鹿野郎、太守稼業なんてナメられたらおしまいだぞ。強面で売って硬軟両面を使いこなすのがコツだ」

 俺は溜息をついて、彼らを会議室に案内することにした。

「彼の進路相談は後日シャルディールでやってくれ。こちらだ」



 まず最初に、ザリアの新太守としてシャティナが就任する儀式だ。

 本来なら元老院が執り行う儀式なのだが、もちろん今は関係ない。魔都の太守であるアイリアが儀式を執り行う。

 アイリアが何やら読み上げて、シャティナはその前でガチガチに緊張している。

 そしてペトーレ爺さんが残りの七都市を代表して、ここにいる全員がシャティナを太守として認めることを宣言する。

 最後にシャティナに太守の証として、ザリア太守の宝冠を授けることになった。



 俺はぼんやりと儀式を眺めていたが、不意にフォルネにつつかれる。

「何してんのよ、あんたの出番よ?」

「俺か?」

「魔王様が一番偉いんだから、魔王軍幹部が戴冠させないと意味ないじゃない」

「ああ、なるほど」

「それにあの子の後見人になるんだから、ね?」

「ちょっと待て、何の話だそれは」



 するとシャティナが俺を見た。顔が真っ赤だ。

「ヴァ……ヴァイト殿!」

「な、なんだ!?」

 全力で怒鳴られて驚いたが、シャティナは泣きそうな顔で俺に叫ぶ。

「わ、私を導いてくれ……ください!」

 なんで俺が?

 そう思ったが、シャティナは必死な口調でこう続けた。

「あなたがいてくれたおかげで、私は死ななかった! ザリアを守れた! でも私にはまだ、ザリアを守る力がない! だから、だからお願いします!」

 凄い勢いで頭を下げられてしまう。



 こうなったらもう断れないよな……。

 俺は溜息をついて、アイリアから宝冠を受け取る。

「シャティナ殿には確かに後見人が必要だ。一番身軽な俺がやるのが、ちょうどいいだろう」

「あ……ありがとう、ヴァイト殿! いや、ヴァイト師匠!」

「師匠はやめてくれないか!?」

「でも私に、太守としての知恵を授けていただきたいのだ! ヴァイト先生!」

 それも嫌だな。

 困惑していると、フォルネが横から俺をまたつつく。

「早く受け入れないと、どんどんエスカレートするわよ?」



 シャティナは俺を真剣なまなざしで見つめている。

「後見人なら親も同然だ。ち、父上と呼ぶ覚悟はできている。どうだ、ち……父上?」

 顔を真っ赤にして上目遣いにそんなことを言われると、気まずさで俺が爆発しそうだ。

「その呼び名は亡きメルギオ殿に申し訳ないし、責任が重すぎる。先生でいい」

「やった! ありがとう、先生!」

 はしゃぐシャティナに、フォルネがにっこり笑いかける。

「あら、よかったわねえ。後見人の上に師弟だもの、ヴァイト殿は決してあなたとザリアを見捨てないわよ」

「ああ、感謝します! フォルネ殿のおかげだ! 例の件も約束する!」

「……あのね、そういう余計なことは今言わなくていいのよ?」

 しまった。このクソオカマの策にハメられたか。ザリアとヴィエラの関係強化に使われたようだ。油断も隙もないな。

 だがそれに文句を言う暇もなく、シャティナが俺に何度も頭を下げている。

「先生、今後もご指導よろしくお願いします!」

「わかったから、とりあえずじっとしてくれないか。冠を被せられない」



 ふと気づくと、フィルニールが俺を見ている。

「ふーん、へー、先生かあ……」

 なんだか嫌な雰囲気なので、俺は彼女に釘をさす。

「お前は俺の後輩だろ?」

「うん、同門だもんね! ヴァイトセンパイ!」

 なんでそこで優越感に満ちた視線なんだ。

 シャティナがそれにかみついてきた。

「ヴァイト先生の一番弟子は私だぞ、フィルニール殿」

「うっ!? いいな、それ……」

「二番弟子の座なら、まだ空いているぞ」

「あ、じゃあそうしようかな……」

 勝手に弟子入りするんじゃない。

 大事な儀式が、だんだんほのぼのしてきた。他の太守たちが楽しげに目を細めている。親戚の集まりみたいだ。

 立場上、俺は最年少の二人をたしなめることにする。

「子供同士で何を馬鹿なことをやっているんだ」

 その瞬間、二人の声がそろう。

「子供じゃない!」

 なんなんだ。



 こうして空位だったザリアにも、新しい太守が誕生する。

 二人ほど魔族が混ざっているが、とにかくこれで八人の太守が集まった。

 すでに事前の打ち合わせは終わっているので、アイリアが宣言する。

「我ら八都市は魔王軍と共に『ミラルディア連邦』を結成することを、ここに宣言します」

 八人の太守が書類に署名し、最後に俺が魔王軍を代表して署名する。

 これでとうとう、ミラルディア南部の八都市は新しい国家として正式に生まれ変わることになる。

 魔族が安心して暮らせる、そんな国だ。



 続いてアイリアは、評議会の設立を宣言した。北部の元老院に対抗する南部の最高機関だ。

「今後は各都市の太守が評議員となり、連邦の方針について相談することになります。評議会の決定は魔王陛下の認可をいただいたのち、実行に移されることになるでしょう」

 大事なことは、人間と話し合った上で決める。

 それが魔王ゴモヴィロアの方針だ。この統治形態の素案を考えていたのは、亡き先王様だという。

 師匠は政治方面にはまるで疎いから、ちょうどいいかもしれないな。



 ただこの評議会、俺が納得いかないことがある。

「アイリア殿、その評議会はどうしても俺がいなくてはダメなのか?」

「誰かが魔族の権益を代表しないといけませんから」

 メレーネ先輩やフィルニールはベルネハイネン市民やトゥバーン市民の代表である。魔族の代表ではない。あくまでも市民の利益を優先させる義務があった。そのへんの線引きはきっちりしてもらう。

 となると「魔族全体の代表」はやはり必要だ。

 魔王ゴモヴィロアは形式上ではあらゆる権力の頂点に君臨しているので、魔族代表の評議員にはその腹心……つまり俺が就任することになる。

 一応、納得はできる。

 しかしだ。



「これ以上、俺にあれこれと役職を載せるのをやめてくれないか? 俺は気楽な副官でいたい」

 アイリアがにっこり笑う。

「魔王軍の中では、魔王陛下の副官でいらしてくださいね。魔王軍の外では、評議員として活動していただきますよ」

「うむ……」

 逃げられそうにない。

「評議員には領地の有無に関わらず『卿』の呼称が与えられます。ヴァイト卿、今後もミラルディア南部の発展に力を貸してくださいね」

「わかった……」

 俺はただ、気の合う仲間たちと気楽に暮らしたいだけなのに。

 頑張れば頑張るほど気楽じゃなくなってくるのは、いったいなぜなんだろう。

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