第2話
どこかに嫁ぐか商売を始めるか軍に入るかの道を歩むことになるだろう、という私の予想がある。
なので、今のうちに自分ことは自分でできるように、まずは部屋の掃除からと、今日思い立って実行したのである。
その結果が、屋敷中のメイドを騒然とさせ仕事を増やし、高価そうな花瓶を割ってしまったという惨めなものだったのは、ひとえに私がぼーっとしていたせいである。
考えていたのは、私の家が、誰に、どうして襲撃されたのかということだ。
私には優しかった両親や兄だったけれど、実は恨みをものすごい買っていたのかな?ということや、政治的な背景が何かあって狙われることになってしまったのか?というようなことを考えていた。
後は、最初は悲しんでいた私だけれど、1月も経ってしまったら悲しみも薄れてきた。そんな自分は結構薄情者なのかな?とも思ってしまった。
元々、悩みも大して無くて能天気だったせいか、家族からも使用人からも変わり者と言われていたが、人並みに人情はあったつもりだったので、そういう部分でも少しショックを受けてしまった。
まぁ、そういうことを連々と考えていたせいで、集中力が散漫になってしまっていたのだ。
治療を受けて、ぐるぐる巻になった手を見ながら、そんな自分をとりあえず戒めていたところに、お世話になっているルイス家の一人娘でもあるクロエがやってきた。
「ロゼッタ!怪我したんですって!?」
クロエの大きな声がしたかと思うと、後ろからいきなり頭を抱きかかえられた。
急いできたのか少し息が上がっているのは、中々愛らしい。
同じ年のはずなのに、私の頭に押し付けられているクロエの胸の成長具合を見て、背の小さな私とは全然違うのは腹立たしいのだが、今日のところは目を瞑っておくことにする。
「掃除をしようとして手を怪我慕って聞きましたわ!ロゼッタは使用人みたいなことをしなくていいのに!」
「でも、お世話になっているんだから…少しくらいは仕事しないとって思ってさ」
「お客さんは仕事しなくていいんだよ! それに…ロゼッタは今くらい自分のことを優先してていいのに」
たぶん心配してくれているからこその発言だとは思う。
でも、この状況で黙って大人しくしているのは、私にとって我慢できなくなってきているのだ。
その最初の行動が掃除、というのはショボイけれど、世間もなにも知らない私なので、何から始めればいいかまるで見当がつかなかったのである。
そんな同い年に子供扱いされ、少しイラっとしつつも、その後クロエと2人でおしゃべりしながら優雅にお茶会をした。
甘えてばかりで、そんな温い環境に慣れすぎている自分は、ダメなお嬢様だと思う。
本当に私は何をしたいのだろうか?
最終目標は決まっている。犯人探しと襲撃理由を知ることだ。
しかし、それをどうやれば知ることが出来るのか皆目検討もつかないでいる。
「ねぇクロエ、私これからどうするべきだと思う?」
お茶会で私もクロエも落ち着いてきたところで、少し聞いてみることにした。
「一緒に勉強したり稽古したり、こんなふうに一緒に遊んでいればいいだけだと思うわよ」
「しばらくはそれでいいと思うんだけど、何年も他人の家で厄介になっているわけにも行かないじゃない」
「ロゼッタと私は小さい頃からの友達でしょ!?他人じゃないわ!」
「…世間一般の話だよ。家同士の仲がいいからこうやってお世話してもらってるけど、いつまでも元は領地を持っていた貴族の娘を抱えておくのって問題にならないのかなって」
「ウチの子になればいいと思うわ」
それはいくらなんでも甘えの限界を超えるレベルだと思う。
結局クロエからは建設的な案は出てこないままだった。
今はクロエと別れて、自室のベットに寝転んで、今後の身の振り方について考えていた。
知りたいのは、犯人や襲撃理由だけれど、やるべきことは自立をするにはどうすればいいかということだ。
てっとり早いのは、クロエも言っていたように養子になるか、どこかに嫁ぐこと。
でも、それは最終手段にしておこう。
自立するには、領地を取り戻すか、働いて給金をもらい自活するかのどちらかだろう。
前者は、なにかしら功績を挙げ、領地運営できるだけの権力を持たないことには領地を私が得ることは不可能だろう。
なので、選択するべきは後者だ、と思う。
けれど、こういう話はルイス家家長である、クロエのお父さんに相談しないといけない。既にこうやって、どこにも行くところがない私をお世話してくれているんだから。




