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NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第1章『現実世界にて』
8/26

Lood..006 始まる終わり(3)

 突如響いた声に皆が振り返る。するとそこに立つのは、白髪混じりの髪をオールバックにした男性と、黒髪をきっちりまとめ、おだんごに結あえた20代半ばの女性が1人。2人はビシっと決まったスーツ姿。


妙な威圧感すら感じられる2人……その2人を見た夏輝(なつき)愛莉(あいり)、そして飛依斗(ひいと)の目が丸くなる。



「しゃ…社長…」

「親父…」



そう呼ばれた白髪混じりの男性――…それはこのトイズ・クランピアの社長であり、飛依斗(ひいと)の父親でもあった。


するとその社長の横に立つ女性が、静まる室内に「コツコツ」とヒール音を響かせながら、呆然と立つ愛莉(あいり)の元に歩み寄る。間1メートル程で止まる女性を見るなり、怪訝な顔つきとなる愛莉(あいり)。それは敵意すら感じられる雰囲気であった。170センチの愛莉(あいり)と同等の長身に、綺麗に整った顔立ちの女性。愛莉(あいり)の表情に気づきつつも、まるで相手にしない素振りで、小脇に抱えたタブレット端末機を差し出した。そしてその左手首には何故か、夏輝(なつき)達と同じ腕時計が光っていた。



「これはどういう事かしら?副室長の愛莉(あいり)さん」

「【実織(みおり)】…」



実織(みおり)と呼ばれた女性――…それは社長秘書にして、愛莉(あいり)の中学からの同級生でもある人物。


彼女が差し出したタブレット端末機の画面を見ると、そこに映し出されていたのはとあるニュース番組だった。そのニュース番組のテロップに書かれていた文字に驚きの声が上がる。



 《緊急速報》

大人気のゲーム『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』の回線遮断 18万人仮想現実世界に漂流か!?



「なっ…何よこれ…」

「それはこっちのセリフよ」



そう言って実織(みおり)はタブレット端末機についたボタンを押す。するとその画面は、日本の3Dマップに被さるようにスクリーン表示となり、全員の目に触れられるようになった。それを見るなり、瞬間的にザワつく室内。これを見た夏輝(なつき)の表情が強張っていく。



「どうして情報が外に……まさか、もう犠牲者が…!?」

「それはまだ連絡はありません、室長」



夏輝(なつき)とも高校からの同級生ではあるとは言え、仕事上の他人行儀口調の実織(みおり)が答えた。



「まだ会社(こちら)には死亡者が出たとは連絡はありません。あるのは利用者やその家族…主にはマスコミからの状況説明の要求。現在も上層階にはマスコミ。そして電話が殺到しています」

「それならどうして情報が外に…」

「何やらマスコミに電話があったらしいですよ。『NOAH(ノア)の寿命は終わった。NOAH(ノア)は道連れとして、18万の命を呑み込んだ』と…」

「何…だって…」

「『NOAH(ノア)の寿命は終わった』って、何よそれ…」



情報は外には流していない…仮に回線が切れた事に誰かが気づいたとしても、『18万人』というユーザー数は、この管理ルームにいた人物しか知り得ない事。しかも『NOAH(ノア)の寿命は終わった』という言葉……何ともいえぬ恐怖感が背筋を伝う、夏輝(なつき)愛莉(あいり)



夏輝(なつき)室長」



すると社長が夏輝(なつき)を呼ぶ。



「これはどういう事か。そして真実はどうなのかを君に問いに来たが――…その前に。何故お前がここにいるんだ?飛依斗(ひいと)

「あぁ?……」



父親に問われるも、飛依斗(ひいと)は答えようとはしない。ただ舌打ちだけを返し、背を向けその場から去ろうとする。



「待たんか飛依斗(ひいと)

「何だよ、うっせぇな。部外者だから出てくだけだよ…関係ねぇからなぁ、オレは」

「『部外者』って――…アンタねぇ!」



この言葉に怒りを露にする愛莉(あいり)。だがすぐさま実織(みおり)の肘が脇腹を小突き、制止する。



「いった…!何よ…」

「社長のご子息様よ。口の利き方」

「何言ってんのよ、アイツは――…」

「知ってる」

「…――は?」

「全部知ってるって言ってるのよ」



そう言うと、実織(みおり)の視線は鋭く飛依斗(ひいと)に向いた。



飛依斗(ひいと)。お前が『部外者』だと?『関係無い』だと?」

「おぉ。真面目な会社には似つかわしくない、不真面目なドラ息子のボクは、さっさと退散させてもらいま~す。って事です、おとーさん」



振り返り、父をもバカにしたような表情を見せる飛依斗(ひいと)



「お前…よく『関係無い』と言えたな。この事態を招いておいて」

「はぁ?」

「全部聞いたぞ。ここを開けてくれた警備員に…お前がメインコンピュータルームに女性を連れ込み、メインコンピュータを落とした事を」

「ッ!?」

「以前から社員らに言っていたんだ。お前が社内で悪さをしたら、『すぐに報告しろ』とな」

「何だよそれ…!」

「社員からも、お前の素行に対する苦情を受けていてな…まぁ特に女性社員からが多いが…お前が会社に来ると、必ず何かをやらかしていく。だからだ」

「ハっ、だから何だってんだよ。今回の件はオレのせいじゃねぇ。オレを突き飛ばしたあの女。それと夏輝(なつき)室長に、ここの使えねぇ社員達(やつら)がヘマしたから起きたんだろ?だからオレは悪くねぇ…違うか?親父」



それに答えるように、社長の首は横に振られる。



「お前が女性を連れ込んだ。これも原因の1つ」

「おいおい待てよ親父…」



両手を広げ、首を左右に振る飛依斗(ひいと)は、「話しになんねぇ」っといったように背を向ける。その背を見る視線は、ゆっくりと夏輝(なつき)へと向く。



飛依斗(ひいと)のした事も原因ではあるが…この事態の収拾がついていない事については、夏輝(なつき)室長。君にも責任が無いとは言い切れぬ」

「…わかっています」

「待って下さい社長!責任ならあたしも――…」

「責任は全て僕にあります。全て…僕の管理不足です」



愛莉(あいり)の言葉に被せるように言った言葉に、社長の深いため息がつかれる。



「…っという事は、この報道はやはり本当か…」



メインコンピュータが落ちても、予備システムがある事は社長も知っている事。その為、どこか半信半疑だったのだろう。しかし夏輝(なつき)の言葉と表情から、全てが真実だと呑み込む社長。



「解決法はあるのか?」

「今ユーザーのID等を調べ、強制ログアウトを試みている所です」

「それで間に合うのか?18万人全員を救えると言うのか?」

「…全力でやってみます…」



頷かぬ夏輝(なつき)に、犠牲者が出る事が予測出来る。再びもれるため息。



「君は18万人だけでなく、この会社も殺したようだな…」

「社長!!」



この社長の言葉に、思わず声の上がる愛莉(あいり)



「何もそんな言い方しなくても!」

「会社も死ぬのは事実だよ愛莉(あいり)くん。こんな事態となって、会社を存続させる事など不可能に近い」

「………」

「君達には期待していたというのに、全く…やってくれたよ本当に…全ては終りだ…」

「はい…申し訳…ありません…」



愛莉(あいり)だって子供では無い。市民の命を脅かした事故を起こした会社の末路……取るべき措置は、その責任を背負う事。


謝罪以外に続く言葉が出ずに押し黙る愛莉(あいり)の顎を、突然タブレット端末機の角が襲う。



「いった!…な、何すんのよ」



愛莉(あいり)の顎を突いたのは実織(みおり)。小さなため息と共に、近くの椅子に座りパソコンに向かう。



「ボサっとしないでくれる」

「は?」

「何しょい込んでるんだか知らないけど、こんな少人数でどうにか出来ると思ってるの?」

「どういう意味よ…」

「どうせあなたの事だから、事が起きてからすぐ何とかしようと焦って、ろくに考えもしないで皆を煽り。勢いだけで作業をしてたんでしょ?」

「…え…」

NOAH(ノア)システムを、ビルのパソコン全部に繋げる。そうすれば、全社員でユーザーをログアウトさせる作業に入れるでしょ?」

「…あのねぇ。NOAH(ノア)システムは高度なプログラムから構成されてるのよ。開発チーム以外の人間が簡単に解除出来るようなものじゃ――…」

「ならマニュアルを作ればいいでしょ」

「マニュアル…?」

「作業手順のマニュアルよ。それがあれば、パソコンが扱える社員も作業に入れる。速度は遅いかもしれない。でも人手は稼げるわ。私が配信元になるから、マニュアルを教えてちょうだい」



鋭く見つめるはこの視線に、思わず黙り込む愛莉(あいり)。その姿に実織(みおり)は大きなため息を1つ。



「目先の時間で焦り過ぎ。ほんの数分で終わる作業で、少しでも作業規模を広げるのが得策じゃない訳?」

「それは…そうだけど…」

「はぁ…やっぱり、私がチームに残ってた方がよかったのかもね」



そう言って実織(みおり)は結ったおだんごの髪を解き、肩を越える髪を揺らす。そしてわざとらしく左手首の腕時計を整えてみせる。



「社長。私はここに残ります。"元上司"の不始末、処理してから戻ります」

「不始末ですって…!」

「あと、飛依斗(いとこ)のした事も……よろしいですか?社長」

「ん…あ、あぁ…」



頷く社長を確認し、表情を引きつらせた愛莉(あいり)を見る実織(みおり)



「あなたは物事に対して感情的。及び無作為で突発的な行動ばかり…それに夏輝(なつき)君。普段は計画的で冷静沈着な指揮者(コンダクター)。でも1度動揺すると一気に崩れ、愛莉(あなた)みたいな人にすぐ流される……頭が良くても、2人して"人間"が弱いわね、あいかわらず」



この前半の分析に、思わず頷き「お~当たってる」っと呟くのは大次郎(だいじろう)。しかし当の愛莉(あいり)は表情を引きつらせ、実織(みおり)の座る机を叩き、その顔にグっと迫る。



「誰の人間が弱いって…」

「何?図星かしら?IQ200の頭脳を持った、天才の愛莉(あいり)さん。こんな事件になるなんて、腑抜けちゃったのね。私が秘書課に異動して張り合いが無くなったのかしら?」

「張り合い?うぬぼれないで。アンタごときの凡人に、あたしが張り合うとでも思ってんの?」

「…そうね。私は所詮凡人。天才のあなたには何も敵わない…私がどんなに努力しても、勉強しても。何もしてない…遊んでばかりのあなたが必ず先を行く。それが気に喰わないのよ…」

「同感。あたしもアンタが気に喰わない……あの時、アンタがあたしにした事…忘れたとは言わせない」

「あれは私じゃない…あなたが勝手に孤独(ひとり)に墜ちただけでしょ?」

「アンタ…人間として終わってるわね…」

「何を言っているのかしら。この件で終わるのはあなた。しかも…孤独な高校時代を支えてくれた、愛しの夏輝(なつき)君と心中。喜んで応援するわ」

実織(みおり)…アンタねぇ!!」



実織(みおり)に掴みかかろうとした愛莉(あいり)を制止したのは夏輝(なつき)だった。



「何よ夏輝(なつき)!離してよ!」

「よすんだ愛莉(あいり)

「でも――…」

「今は揉めてる場合じゃない!」



睨み合う両者の距離をとらせるように愛莉(あいり)の体を引き、自分が実織(みおり)の前に立つ。



実織(みおり)さん」

「…何かしら?」

「ログアウトの作業。お願い出来ますか…?」



夏輝(なつき)の目を見つめ、小さく頷く実織(みおり)



「室長の頼みでしたら、断る理由はありません。喜んで」

「ありがとう、実織(みおり)さん」

「…――ふふっ。別にお礼はいいわよ。じゃあマニュアルをお願い、夏輝(なつき)君」

「うん、ありがとう」



夏輝(なつき)も頷き返し、実織(みおり)の元に近くの女性社員を向かわせた。


その中、愛莉(あいり)は未だ感情が抑えられないのか、荒い息遣いで実織(みおり)を鋭く見つめていた。その愛莉(あいり)に向き直る夏輝(なつき)



愛莉(あいり)…」

「何を言いたいかはわかってるわよ…今はそんな事言ってる場合じゃないって事も…」



そう言いつつも、モヤモヤした気持ちに整理がつかない。荒い鼻息を大きくはき、「先に行く」とだけ告げ、不機嫌そうにログアウト作業に向かう愛莉(あいり)



愛莉(あいり)…"あの時"の事は実織(みおり)さんじゃなく、僕に責任が――…」

「やめて」

愛莉(あいり)…」

「お願いだから言わないで…"あの時"の事、夏輝(なつき)の口から聞きたくない…もう忘れたいの…」

「………」



返す言葉もなく、無言になる夏輝(なつき)。その夏輝(なつき)を、一瞬横目でチラっと見る愛莉(あいり)。そして周囲に聞こえぬ声で、



「…実織(みおり)の味方もしないでよ…バカ…」



小さく呟いた。


どこか寂しげな愛莉(あいり)に、何かしらの言葉をかけるべきか…っとも思ったが、現状の最優先事項はログアウト作業。夏輝(なつき)は何も言えず、ゆっくりと視線を愛莉(あいり)から社長に向けた。



「社長。今から全力で事態収拾にかかります。たとえこの先、何万人を救えたとしても、1人でも犠牲者が出るというなら僕は咎人です」

「…わたしには、会社を守るという義務がある」

「わかっています。僕を犯人として扱って頂いて構いません。どうか会社を――…父がいた場所を守って下さい」



そう言って頭を下げる夏輝(なつき)



「…会社を守ると言う事は、同時に社員を守る事でもある。夏輝(なつき)君、君も社員だ。だから粘ってはみるが…無理だと見なした所で、切らせてもらうぞ」

「はい…ありがとうございます」



再び頭を下げ、自らもログアウト作業に入る夏輝(なつき)


その様子を、未だ関係無いといった表情で見ている飛依斗(ひいと)に向く社長。



「お前も償わねばならないだろう、飛依斗(ひいと)

「あ?…冗談じゃねぇ…」



舌打ちと共に床へ唾を吐き捨てると、出口に向かい足を進め出す。



「コラ飛依斗(ひいと)!どこへ行く!」

「おい誰か出口開けろって。オレは関係ねぇんだ、こんなトコいても時間の無駄だぜ。ほら早く開けろ」



っと、社員証でしか開かない扉を蹴飛ばそうとした瞬間、プシュ!っと音を発てて扉が開いた。そして駆け込んできた人影に飛依斗(ひいと)の蹴りが炸裂。蹴りがヒットしたその人影――…それは蹴られたスネを擦りながら、余す片足でケンケン跳びをした(ひろ)だった。



「いってぇ~!」



何故か外から来た(ひろ)に、皆の視線が集まる。



「ひ、(ひろ)?…どうして外から?」

「あたたたた~…――あ、夏輝(なつき)先輩!ユーザーを一気に救える方法、見つけました!」

「何だって!?」



(ひろ)の声に、全員総立ちで驚きの声が上がる。



「いったいどうやって…?」

「コレっスよ」



そう言うと(ひろ)は、ポケットから1つのUSBを取り出した。そして小走りに夏輝(なつき)の元へ向かい、そのUSBを手渡した。



「これは…?」

「完成してから見てもらおうと思って、先輩方には黙ってたっスけど、これ『裏面』のデータなんス」

「『裏面』…?それをどうするつもりなんだ?」

「現時点で、現実世界と仮想現実世界の回線は切られてるっス。けど、このデータをNOAH(ノア)システムに読み込ませ、『ゲームクリア』という条件を満たした瞬間、今あるゲーム世界を新たなデータ上に創り変える。そうすれば、1度回線の切れたユーザーデータを移動させる事が可能なはずっス」



そう言う(ひろ)の視線に、徐々に頭の整理のついていった夏輝(なつき)の目が見開いた。



「…――そうか…そういう事か!ゲームクリアをし、アップデートするという事か!」

「そっス。一か八か、これでやってみるしか――…」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」



理解し合い、盛り上がる2人の間に愛莉(あいり)が入り込む。



「あたしの頭が追いついてないんだけど?先に行かないでくれる」

「俺もだぞ、夏輝(なつき)



愛莉(あいり)の後ろから声を出すのは大次郎(だいじろう)



「バカにもわかるように説明してくれよ」

「そーよ。あたしはバカじゃないけど、一応」

「一般人と張り合うな、女狐」

「うっさいミクロン脳ミソ原始人」

「お前っ…あいかわらず口悪いな…」

「お~人間様の言葉が理解出来るのだなぁ~?すごいぞーゴリたん」

「人から退化さすなコラ」



何故か睨み合う愛莉(あいり)大次郎(だいじろう)に、小さく息をはく(ひろ)が口を開く。



「いいっスか?お2人方。RPGゲームにはよくあるっスよね?クリアする事で現れる、新たなステージ…更なる強敵の待つEXステージが」

「あぁ、あるな。裏面ってやつが」

「だから裏面(それ)が何だって言う訳なのよ?」

「だから、この『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』の表面(メイン)ボスの『シュショーン』を倒したら終わりの世界クリアし、裏面のある世界に変えてしまう。って事っス」

「世界を変える――…あ~!そっか!」

「…ん?」



理解した愛莉(あいり)に対し、大次郎(だいじろう)の表情は無。(ひろ)愛莉(あいり)を交互に見ながら、「どういう事?」っと繰り返す。その様子に口を開くのは夏輝(なつき)



「つまりはオージロウ…回線の切られた今の『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』は、稼動しなくなったエレベータ。でも上の階に行かないと家に帰れない。だから、稼動出来る裏面データを付け加えた『Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)』と言う名の新しいエレベータに乗り換える、という事だ」



これには「あ~なるほど!」っと手を叩く大次郎(だいじろう)。その姿に愛莉(あいり)が鼻で1つ笑う。



「ようやく理解とは、さすがクマゴロウ」

「人かペット名か微妙な名前はヤメい……でもよ、夏輝(なつき)。わざわざクリアしなくても、現実世界(こっち)からクリアしたって事には出来ないのか?」

「それは無理っスよ、大次郎(だいじろう)さん」



問いに答えたのは(ひろ)。「何でだ?」っと返す大次郎(だいじろう)に、続き返すのは夏輝(なつき)



「今ユーザーが囚われたゲームの世界は、プログラムの土台によって保たれている」

「…ん?…んん??」

「さっきのエレベータとは違うが……例えるなら、その土台となってるプログラムは、海に浮かぶ1隻の船だと考えてくれ。今NOAH(ノア)は、プログラムの船に18万人を乗せて航海中だ。ゲームをクリアした事にするって事は、今乗っている船…プログラムを1からやり直さなければならない。つまり、海の上で船を解体する事と同じ事だ」

「そんな事したら、全員海に溺れちまうな」

「そうだ。だから、言わば増築に近い事をするんだ」

「増築?」

「現船体を維持したまま、新しく造った船体を繋ぎ合わせ、その新しい船体に乗客を移行させる。つまり、今あるゲーム世界をクリアする事で現れる、新たなゲーム世界にユーザーを移行させる…新たな世界に創る事で、切られた回線を復活させるという事だ」

「そんな事出来んのかよ?」



その答えは、データを持ってきた(ひろ)が握るもの。皆の視線が(ひろ)に集まる。



「…トータルで言うっスよ。この成功確率は50%っス」

「ごっ、50%!?どういう事よ、それ!?」

「なら1から説明するっスよ。現NOAH(ノア)の世界は回線が切れてるっス。つまり、データ更新はされない世界となっている…これがどういう事かわかるっスよね?夏輝(なつき)先輩」



(ひろ)の視線に、ゆっくりと頷く夏輝(なつき)



「…ゲームルールの適応外。『GAME(ゲーム) OVER(オーバー)』=『死』」

「なっ…!?」

「ゲーム中の生命(いのち)を表すライフゲージが0になれば、自動復活せずに、現実世界でも死ぬと言う事か…」

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