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NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第1章『現実世界にて』
5/26

Lood..003 ようこそトイズ・クランピア(2)

 エレベーターに乗り込む3人。人、ひと、ヒトのエントランスからのエレベーターは混みに混んでいるが、下に降りるエレベーター内は夏輝(なつき)乃愛(のあ)愛莉(あいり)の3人だけ。



「ずいぶん混んでたけど…下に行く人いないんだね?」

「あ~そっか。乃愛(のあ)ちゃん地下にラボが移動してから来るの初めてか」

「はい。前は16階でしたよね?」

「そ。でも自然災害とかの被害を防止する為、メインコンピュータごと地盤の安定した地下に移動したのよ。メインコンピュータが落ちれば、人命に関わる大惨事になっちゃうし」

「大惨事、ですか?」

「現実世界と仮想現実世界の回線が切れて、ゲームに意識が囚われる。結果、脳死と同じ状態となる訳」

「うわ、怖…」

「まぁ確かに怖いが…でも大丈夫だ。予備のシステムが何重にも敷いてある。メインが落ちても支障は無いんだ、実は」

「それでも備えられる所は固めておかなきゃだからね。地下駐車場5階より下は、内部の人間でも許可書無しでは入れない空間。全てあたしら『NOAH(ノア)開発チーム』のもの。んで――…」



言葉を言いかけた愛莉(あいり)が、並ぶ夏輝(なつき)の肩に寄りかかる。



「その空間をまとめるボスが、乃愛(のあ)ちゃんの愛すべきお兄様って事」

「許可無しでは入れないって…私、部外者ですけど…入っていいんですか?」

乃愛(のあ)ちゃんは部外者じゃないわよ。適性年齢調査のテスター、やってくれたでしょ?つまりは関係者の1人って事。だからドーンと胸張ってけぇ~い」



ドスっ!っと鈍い音を発て、乃愛(のあ)の胸元に愛莉(あいり)の放つ、なかなかのパンチが炸裂。



「うっ…これは…張れない~…」





◆◆◆――…





 …―――ポォン




B7Fが表記され、エレベーターの扉が開く。夏輝(なつき)に続き足を踏み出す乃愛(のあ)が――…



「なっ、何これ!?」



っと驚きの声を上げる。その姿に、夏輝(なつき)愛莉(あいり)は互いに視線を合わせ、クスっと笑う。


乃愛(のあ)の驚き……それは突如目の前に広がった大草原の風景にだった。ここは地下のはずなのに…っと辺りをキョロキョロと見渡すと、



「あれ?これって…映像?」



その言葉通り大草原の風景は、あたかもそこに草や空などがあるかのように、立体的に映し出されているものだったのだ。見渡す限りでは四方20メートル程はあろう空間にも見える。



「すっご~い…」

「でしょ~?これあたしが作ったの」

「え?愛莉(あいり)さんがですか?」

「そ。あとこの先も」

「先?ですか?」



『先』とだけ告げ、歩き出す愛莉(あいり)。そして夏輝(なつき)も歩き出す。慌て後を追う乃愛(のあ)の前に、横幅2メートル程の小川が見え、木の橋が1本かかっている。もちろん映像ではあるが。


しかし人間の心理とは面白い。映像とわかっていても、足は自然と橋に向かうもの。その映像の橋に夏輝(なつき)愛莉(あいり)が足を乗せた瞬間、橋の向こう側と天井との間に、1匹の白毛の猫が現れた。リアルな猫と言うよりは、マスコットキャラクターとも思える、頭部を大きくした二足歩行キャラ。愛らしさ重視の容姿だ。夏輝(なつき)愛莉(あいり)を交互に見つめ、何かを考えているような仕種で「ニャ、ニャ」っと小さく連呼している。



「何これ、可愛い~」



突如現れた猫に驚きつつも、愛らしい容姿に思わず声のもれる乃愛(のあ)。その乃愛(のあ)の見つめる中、猫は突然ニッコリと笑うと、空中でクルりと一回転。



《人物認証完了ニャ~。おはようございますニャ、室長。お帰りニャ~あいりん》



まるで映画館の音声のように空間に響く猫の声。



「わっ、喋った!?」



突然響く声に体をビクつかせ、サっと夏輝(なつき)の後ろに身を隠す乃愛(のあ)



「ハハっ、そんなに驚かなくても…これは人物認証システムに人工知能を加え、映像化させたものだよ」

「そうよ~。あたしが作った【プリメシア】の【プーたん】。可愛いっしょ~?」



っと乃愛(のあ)の顔を覗き込む愛莉(あいり)の横で、



「いい大人が『あいりん』に『プーたん』ねぇ…」



っと、呟く失笑をする夏輝(なつき)。するとすかさず入る愛莉(あいり)のボディパンチ。



「いい大人のチェリーに笑われる筋合いな~い」

「尻軽よりはクリーンでいいと思うけど…」

「『尻軽』『尻軽』って…あたしは別に――…」

「っもォーっ!またそうやってケンカするー。もういい加減にしてよ2人共」



睨み合いに突入しようとした2人の間に割って入る乃愛(のあ)



「もうお兄ちゃんは『童貞』!愛莉(あいり)さんは『恋多き乙女』!それでいいじゃん」

「ちょっと待て、僕だけ棘を感じるんだが…」

「『恋多き』って、結果軽いような…」

「もうその話題は終わり!それより愛莉(あいり)さん…」



っと、あと言わずで、己の顔の真横を指差す乃愛(のあ)。その位置には……



《誰ニャ…おたく誰ニャ…?》



『見る』と言うよりは『ガンつけ』…愛らしさなど皆無の表情で乃愛(のあ)を見るプリメシアがいた。



「あ~ダメよプーたん。彼女は夏輝(なつき)室長の妹さんよ」

《ニャニャ!?室長の妹さんかニャ?これは失礼しましたニャ》



驚きの仕種を見せ、クルりと身を返して頭を下げるプリメシア。



「じゃあ乃愛(のあ)も一緒に入っても大丈夫かい?プリメシア」

《了解ですニャ、大丈夫ニャ!室長さんの妹の乃愛(のあ)にゃん。ようこそなのニャ~!》



そう言うと、更にクルクルと回転し始めるプリメシアは、回転するままに奥へと飛び去っていく。おそらくは最奥の壁なのだろう。その位置でパっと7色の光を放ち、姿を消した。


すると次の瞬間。目の前に広がった大草原の景色、プリメシアの消えた位置から、重厚感たっぷりで両開きの石の扉が出現。そしてその石の扉はゆっくりと開いていく。


何が起きているのか!?っと丸々となった目をした乃愛(のあ)の肩に、夏輝(なつき)の手がポンっと乗る。



「こうしてプリメシアに認証され、プリメシア自体が鍵となり、入口ともなるんだ。さぁ行こう。この奥がメインの管理ルームだ」



そう言って乃愛(のあ)の背を押し、先へと促していく。


石の扉に近づくにつれ、風景は映像と言う限界が見えてくる。石の扉は普通のガラス扉。そのガラス扉をくぐり抜けると……乃愛(のあ)の目の前に広がるのは別世界。


ドーム状で周囲40メートル程の空間。中央に5~6メートルはあろう映写された3Dの日本地図が浮かんでいる。その日本地図には、各県ごとに何やら万単位の数字が書かれており、常にその数値は変化している。この日本地図を囲うように楕円形に連なるデスク。各所、空いたスペースに島のように組まれた円形のデスク。このデスク全てにパソコンがズラりと並び、ドーム状の壁を、四方40センチ程のゲームプレイ画面が100単位で囲んでいる。まるでタブレット端末の画面だけが浮かんでいるように、列を成して壁を回る。その室内を、スーツ姿や白衣を着た男女が慌ただしく動いていた。



「うわぁ…すごい…」



突然目の前に広がる別世界に、ポカーンっと口が半開き状態となる乃愛(のあ)。すると彼らの入室に気づいた1人の男が、小走りに寄ってきた。



「あれ?夏輝(なつき)先輩…どうしたんスか?今日はお休みなんじゃ…」

「あ、おはよう【(ひろ)】。今日はちょっと、な」



そう言いながら視線を真後ろに立つ乃愛(のあ)に向けると、(ひろ)と呼ばれた男が追って見る。


乃愛(のあ)と視線の合う(ひろ)は、160センチを少し越えたくらいの身長で、天然パーマがいき過ぎてアフロ化した小太りの男。



「妹の乃愛(のあ)だ。(ひろ)とは初めてだったよね?」

「そっスね。初めまして、乃愛(のあ)さん。おれ、お兄さんの大学時代の後輩だったんス」

「あ、はい、初めまして…あ、兄がいつもお世話になってます」



(ひろ)に向かい、深々とお辞儀をする乃愛(のあ)



「いやいや、お世話になってるのはおれの方っスよ。パソコンオタクで、就職浪人してたおれを拾ってくれた大恩人なんスから」

「何言ってるんだ。この(ひろ)はシステムプログラミングのスペシャリストだ。NOAH(ノア)実用化は、彼がいなければ不可能だった。だからお世話になってるのは――…」

「あ~もう!童貞男2人が誉め合ってキモいってぇ~の~。BLかっつーの」



夏輝(なつき)の言葉を切り、何故か(ひろ)の腹にパンチする愛莉(あいり)



夏輝(なつき)室長は今日お休みなの。今日はNOAH(ノア)が故障した妹さんに、カプセルNOAH(ノア)を利用してもらう為に来た。OK?」

「え…あ、はぁ…」

「『はぁ…』じゃないわよ。あたしらの為に2ヵ月ぶっ通しで働いてくれた先輩の修理作業、下僕の小ブタちゃんが代わって上げなさいよ」



乃愛(のあ)の持つ故障したNOAH(ノア)を、(ひろ)に無理矢理渡す愛莉(あいり)



「げっ、下僕小ブタって、愛莉(あいり)先輩酷いっスよ~」

「うっさいポチ」

「今度は犬~!?」

「ほれ返事せんか、ポチ」

「ワォ~ン…」

「いや愛莉(あいり)、修理くらい――…」

「い・い・の~。アンタが2ヵ月頑張ってくれたお陰で、世界発売の基盤はバッチOK。あとはあたしでも出来るから、明日も休みなさい。乃愛(のあ)ちゃんログアウトしたら、帰りはあたしが車で送るから」



そう告げ、乃愛(のあ)の手を取りその場から歩き去ろうとする背に――…



「おい、愛莉(あいり)

「ほらお休み男は帰った帰った。寝る子は育つだよ~」



呼びかけるも振り向く事なく、後ろ向きで夏輝(なつき)らに手を振る愛莉(あいり)。戸惑いの表情で夏輝(なつき)愛莉(あいり)を交互に見る乃愛(のあ)は、ただ手を引かれるままに遠退いていく。



「ちょっ、ちょっと愛莉(あいり)さん?」

乃愛(のあ)ちゃんも高校生…子供じゃないんだから、たまの休みで夏輝(パパ)と一緒にいたいのわかるけど、今日くらい休ませて上げて。ね?」



離れていく夏輝(なつき)を横目に、乃愛(のあ)は一拍置いて「うん」っと頷いた。



「よし。たまにはこの愛莉(あいり)お姉さんも頼りなさい」

「それなら…愛莉(あいり)さんがホントのお姉さんになってくれれば、もっと頼れるのになぁ…」

「おっ?それいいねぇ~。そしたらあたしは玉の輿じゃ~ん♥」

「…ホントにそれだけかな…」



っと乃愛(のあ)が呟いた瞬間…愛莉(あいり)はピタっと足を止め、体ごと振り返る。そして乃愛(のあ)の鼻をギュ!っとつまんだ。



「ふぎゅ~!」

「勘繰り過ぎだぞ~お嬢さん……ま、その辺は夏輝(アイツ)次第じゃない…」

「え、じゃあ――…」

「うるさ~い」

「ふぎゅ~~っ!」

「…――ったく…ところで、約束って何時から何時までなの?」



ようやく解放された鼻を涙目で擦る乃愛(のあ)



「えっと、12時から17時くらいまでです」

「17時くらいなら…あたしも仕事終わってるかな。んじゃ、その後カラオケでも行こっか?」

「あ~行きます行きます~!」

「はい決定。ログイン時間まではまだあるし、いろいろ見学してく?」

「はい、お願いします!」



楽しげに歩き去っていく2人の後ろ姿に、夏輝(なつき)(ひろ)は向き合い、互いに鼻で笑い合う。



「優しいっスね、愛莉(あいり)先輩」

「ちょっと強引でもあるけどね…」

「それが愛莉(あいり)先輩のいい所っスよ。じゃあ先輩、あとはお任せ下さい」

「…いいのか?」

「修理くらい楽勝っスよ」

「ありがとう、(ひろ)

「そのお礼、おれより愛莉(あいり)先輩に言うべきじゃないっスか?」

「ハハっ、そうだな。今度飯でも奢ってやるさ。…だいぶ高くつきそうだけどね」



同意の意味を込めた口笛を吹く(ひろ)の肩を叩き、夏輝(なつき)は辺りを見渡す。



「今日【オージロウ】は来てるのか?」

「はい、来てますよ。今はモンスターのモーション撮影やってると思います」

「そっか。じゃあちょっと覗いてから帰る事にするよ。頼むな、(ひろ)

「はい、お疲れ様っス」



(ひろ)に言葉を残し、歩き去る夏輝(なつき)は、愛莉(あいり)乃愛(のあ)とは反対方向に歩いていく。




◆◆◆――…




 乃愛(のあ)達と別れた夏輝(なつき)は、ミーティングルームの並ぶ通路を歩いていた。2~30人は楽に入れる1室。その1室1室は区切られてはいるが、通路からはガラスで内部は丸見え。休みである夏輝(なつき)の姿に2度見する者や、いち礼する者。それぞれだ。


その通路の1番奥……ガラスではない、まるで非常口のような扉に手をかける。



「どれ、ウチの演技派俳優は何をしてるか…」



ワクワクした感情を抑えきれない…っといった表情で扉の中へと進むと――…



「見よっ!!これがレッドタイガーの交尾!だっはァーっ!!」



下品な笑いに合わせ高速に腰を前後に振る、全身黒タイツにモーションセンサーを付けた、190センチ近くはあろう大男がいた。



「………」



この光景に言葉を無くす夏輝(なつき)。しかしその室内は大爆笑。グリーンの幕の前に立つ大男を囲む10人程の男女が、続けて始めたおかしな踊りを見て更に爆笑。


するとそのおかしな踊りをする大男が、扉の所から無表情に見つめる夏輝(なつき)の存在にようやく気づく。



「おぉ!?夏輝(なつき)じゃねぇか!?何してんだよ?」



全身タイツの大男は、「あれ?室長?」っと驚く人らをかきわけ、小走りにやって来た。そしてタイツの頭の部分を外し、キラリと汗の光るスキンヘッドを覗かせる。白い歯をむき出しに笑う、人懐っこい笑顔だが、どこか締まりの無いその顔つき。そして全身タイツだからこそよくわかる、ガチガチに鍛えられた筋肉質な肉体を持つ彼。全ての特徴を総称すれば、『頭は弱いが肉体派のお調子者』。まぁそんな所だろう。



「『何してんだ』はこっちのセリフだよ、オージロウ…」

「ん?何って、モーション撮り」



オージロウと呼ばれた男は、一瞬キョトンとし、サラっと返す。夏輝(なつき)は小さいため息をつき、頭をポリポリ。



「何のだ」

「レッドタイガーの交尾。あとサンドダンサーの踊り」

「…後者はまだいいが、交尾は要らない。脚下だ」

「え?何で?」

「どこで使うんだその動き。フィールド歩いてて、モンスターが交尾してたら引くぞ。おかしいだろ」

「そうか?リアリティーあっていいと思うがねぇ……つーかお前、何でいんの?今日休みじゃねぇーの?」

「まぁそれは――…そうだ。お昼一緒にどうだ?まだだろ?」

「あぁ」

「その時話す。終わったら声かけてくれ」

「あ~それならもう大丈夫だ。今日の分は撮り終わってんだ」



そう言って夏輝(なつき)の肩に手を廻し、その肩をバシバシ叩く。



「行こうぜ兄弟!『キヨ子食堂』へ!」

「それ社員食堂の事だろ…それにその全身タイツで行く気か?」

「ダメ?」

「ダメに決まってる」



じゃれ合うように言葉を交わし部屋を出ていく2人を、クスクス笑いながら見送る社員達。



「ホントあの2人って仲良いわね」

夏輝(なつき)大次郎(だいじろう)さんだろ?」

「あれ?でも室長、『オージロウ』って呼んでませんでしたか?」

「お前知らなかったんだ。大次郎(だいじろう)さんの『(だい)』を『オー』ってしただけのアダ名だよ。夏輝(なつき)はプライベートだとそう呼んでるよな」

「あと愛莉(あいり)さんもですよね」

夏輝(なつき)愛莉(あいり)大次郎(だいじろう)さん。3人は10年来の付き合いらしいからな…」

「へぇ~。同級生とかなんですか?」

夏輝(なつき)愛莉(あいり)は高校から大学までな。おれも一応大学から。でも大次郎(だいじろう)さんは1つ歳上で中卒。学校での関わりは無いよ」

「え?そうなんですか?」

「ただ高校時代、夏輝(なつき)とバイト先が同じだったんだとよ。んで意気投合、みたいな感じだな」

「室長かバイト?あんな優等生全開の人がバイトですか?似合わないな…」

「まぁおれも聞いた話しだが、夏輝(なつき)もいろいろと苦労人なんだよ。愛莉(あいり)も、大次郎(だいじろう)さんだって…な」

「苦労人?何がですか?」

「おっと喋り過ぎだな…知りたきゃ思い出話しは本人に聞け。他人がベラベラ喋る事じゃねぇしな。ホラ、早く片づけておれらも飯行くぞ」

「え、あ、はい」






◆◆◆――…





 どこからともなく聞こえる男と女の囁く声―――…



「どーよ、この美しい景色はよォ…」



時刻は正午。しかし声の響く空間は、闇の中に無数のイルミネーションが輝くもの。しかしそのイルミネーションは何かを象っていたり、特別な規則性を持つものでもない。青、赤、黄色のものが点々とし、点滅するものや常灯するもの、それぞれだ。


『関係者以外立入禁止』――加え『危険』の文字の貼り紙のされた、重厚感のある扉の中からの声はまだ続く。



「綺麗……でも大丈夫なの?こんな所に入って。鍵開けてくれた人困ってたよ?」

「あ~いいんだよ。こういう所に入れんのは、オレ様の特権ってやつ。こんな綺麗な中で――…」

「きゃっ!ちょっと!ドコ触ってんのよ!?」

「なぁに…この綺麗な景色の中で、楽しい事しようや」

「ちょっと…っ、ヤメてっ…!」

「んな怖がんなって、大丈夫…優しくしてやっからよォ」



暗闇ではっきりとは確認は出来ないが、何やらもみ合う男女。



「話しが違うでしょ!!ちょっと!ホントにヤメて!!」

「何だよ、お前が『NOAH(ノア)開発の現場見たい』って言うから、こうして連れてきてやったんだぜ?」

「言ったけど、こんなの聞いてない!」

(いて)ぇ!…っだよ、暴れんな…っ!暗闇に男と女で入ってんだ…お前だって想像出来んだろうが、男女のする事をよォ!」



もみ合う中、女の足蹴が男の顎を捉え――…



「ふざけんなバカァッ!!」

「ぐおッ!!」




 ッ――ゴオォォォンッ!!




蹴り飛ばすと共に、イルミネーションを放つ壁らしきものに激突する男の体。


瞬間――…




 …――ブウゥゥゥ……――――




まるで風を送るプロペラが止まっていくかの音を発て、イルミネーションが一気に消え、空間は暗闇となる。


すると突如、空間内の扉が開き、暗闇に光りが射し込んだ。



「大丈夫ですか!?すごい音が――…うわっ!」



扉を開いたのは1人の若い男性警備員。その警備員を突き飛ばし、1人の女性が室内から飛び出し走り去っていく。



「おいコラァ!!待てクソ女!!……チっ、ノリの悪い女だぜ…」



続き出てきたのは、肩を越える金の長髪で、所々にシルバーアクセサリーを多数付けた、言わば『チャラい』と呼ぶに相応しい容姿の20歳前後の男だった。


突き飛ばされた警備員は尻もち状態から、女の後に出てきた男を見上げる。



「【飛依斗(ひいと)】さん…何の音ですか?今の…」

「あぁ?あのクソ女がオレの事蹴り飛ばしやがって…」

「だ…大丈夫ですか?」

「ん?あぁ……まぁいいわ。またいい女連れてくっから頼むぜ」

「もうヤメましょうよ…ここはメインコンピュータルームですよ…本来は立入禁止なんですから、もし何かあったら――…」

「あ~うっせぇな!オレに説教かましてんじゃねぇよ、警備ごときのお前が」



蹴られた顎を擦りながら、舌打ちをして扉の元から去っていく、飛依斗(ひいと)と呼ばれた男。その背を見送りながら立ち上がり、暗闇の室内に目を向けた警備員。その目がみるみると丸くなっていくと共に、体は小刻みに震え始める。そして室内に駆け込み、辺りを見渡す。



「う…うあぁぁぁッ!!」



突然の悲鳴に、飛依斗(ひいと)は驚き立ち止まって振り返る。するとそこには警備員の姿は無い。「何事だ?」と引き返す飛依斗(ひいと)



「っだよ、びっくりすんじゃねぇか…」



真っ暗闇のメインコンピュータルーム内に佇む警備員の背に、飛依斗(ひいと)は舌打ち混じりに返す。


今までイルミネーションにも似た光を放っていた機材に触れ、小刻みに震える警備員の体。



「メ…メイン…コンピュータが……メインコンピュータが…」

「あ?メインコンピュータがどうしたんだよ?」

「メインコンピュータが……止まってる…!!」

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