表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NOAH -ノア-  作者: 孝乃 (編集中)
第1章『現実世界にて』
4/26

Lood..002 ようこそトイズ・クランピア(1)

.




 …―――ドッスゥゥンッ!!




「ッ――ふぐォォっ!!」



 突如夢の世界から呼び戻す、腹部への衝撃に目覚める青年――【夏輝(なつき)


ベッド上から見上げる視界に映るのは、古くさい木目の天井と、肩を越えるくらいの栗毛の髪をした10代半ばの少女が1人。未だ腹部にかかる重圧は、その少女が乗っているからであろう。彼女の表情は、頬をプクっと膨らませた不機嫌そうなもの。全体重がかかっているだろう、ズッシリとした重圧は、この不機嫌な表情からくるものなのか……失礼ながら、重い。



「な…何だよ【乃愛(のあ)】…」

「『何だよ』じゃないわよお兄ちゃん。コレ!」



上に乗ったままの、乃愛(のあ)と呼ばれた少女が突き出してきたのは、ボクシングのヘッドギアと似た、グレーのバイザー付きの機具――【NOAH(ノア)】。



「…ん?…NOAH(ノア)がどうか――…あっ」



寝起きの夏輝(なつき)の目は、何かを思い出したかのようにハっ!っと見開いた。すると乃愛(のあ)は口を尖らせ、手にしたNOAH(ノア)と称した機具を夏輝(なつき)の胸に落とし、グっと押し付けた。



「前に約束したでしょ?私のNOAH(ノア)壊れたから修理してくれるって。さっき見たら、コレ壊れたまんまのヤツじゃん!」

「くっ…苦しいって…の…乃愛(のあ)…っ!」

「今日友達とクエストの約束してるのに~。これじゃあログイン出来ないってばぁ~」



そう言う乃愛(のあ)は、ヘルメット程の硬さのあるNOAH(ノア)で、何度も夏輝(なつき)の胸を叩く。



「痛っ!痛っ!ごめん!ごめんって乃愛(のあ)!」

「おーギブアップするかぁ?」

「…ギブアップだ…悪かったよ。忘れてたんだ、ごめん」

「むー…じゃあ早く起きて。そして会社に行こ。【トイズ・クランピア】に」

「はぁ?会社に?何で?」

「『何で?』じゃなーい。NOAH(ノア)修理の為ですー」



乃愛(のあ)が言った『トイズ・クランピア』――…それは日本を代表とする大手玩具メーカーの1つであり、夏輝(なつき)が勤務する会社でもある。



「おいおい…確かに約束守れなかったのは謝るけど、2ヵ月ぶりに取れた休みなんだ…会社は勘弁してくれよ…」



そう言って布団の中に顔を隠す夏輝(なつき)。するとすかさず!っといったように、乃愛(のあ)はその布団をガバッ!っと剥ぐ。



「ダァ~メェ~!行~く~のぉ~」



っと、再び夏輝(なつき)の胸をNOAH(ノア)が襲い始めた。



「ぐはっ!!痛っ!ちょっ…痛いって乃愛(のあ)!」

「行~く~のぉ~!」

「わっ、わかった!行くから――…痛っ!ギブ…ギブアップ~!!」




◆◆◆――…




 数分後……2人の姿は、お世辞にも綺麗とは言えなく、歩く度にギシギシと床の鳴る狭い玄関にいた。



「ふぁ~~あ…」



靴を履く乃愛(のあ)の後ろで、大きなあくびをする夏輝(なつき)。耳隠すくらいの寝グセでボサボサの黒髪を、ダルそうにボリボリと掻く。少しズレた眼鏡はそのまま。少々くたびれた感のあるパーカー、ジーパン姿の兄に、靴を履き終え振り返る乃愛(のあ)がため息。



「ちょっとお兄ちゃん…顔洗っても寝起き度100%じゃん。そんなんで車運転して大丈夫な訳?」

「じゃあ会社行くのヤメる?」

「行・き・ま・す~」

「いてててっ!ほっぺたつねるな、痛いからっ」

「これなら目が覚めるでしょ?」

「は、はい…覚めました…」



赤くなる頬を擦り、先に外に出る乃愛(のあ)に続く夏輝(なつき)


外は昼前なのか?日が高い。6月の梅雨の季節とは相反した晴天の日。見渡す町並みはのどかな下町風。夏輝(なつき)の家のような瓦屋根の古風な家が多い。だがそんな平屋の庭先に停められた車は、下町風景にはそぐわない外観を醸し出す、海外製の高級な赤いスポーツカー。


助手席側に走り、「早く早く」と手招く乃愛(のあ)の姿に、ため息を吐きつつも口元に笑みを浮かべる夏輝(なつき)


静かな町並みに響くエンジン音と、砂利道をタイヤが通る音を鳴らし、ゆっくりと発進していく車。




◆◆◆――…




「やっぱこの車、我が家には――…てか、お兄ちゃんには似合ってないね」



からかうような笑みを浮かべ、スポーツカー特有の低い天井を擦る乃愛(のあ)



「そんなのわかってるよ…こんな寝ボケ顔の男には、真っ赤なスポーツカーなんて不釣り合い、ってね」

「ちょっと卑屈すぎだってお兄ちゃん。でもまぁ…そのカッコじゃ~そうかもねぇ~」

「言ってくれるが、僕の記憶が正しければ、この車を買おうと言ったのは乃愛(のあ)だったはずだけど?」

「だって……真っ赤なスポーツカーは、お父さんの夢だったじゃん」



急に静かなトーンに変わる声色に、夏輝(なつき)はチラっと乃愛(のあ)を見た。ゆっくりと流れる景色に向き、物言わぬ乃愛(のあ)の後頭部に、ひと言「そうだな」っとだけ返す。


それからしばらく沈黙が続き、下町の町並みから徐々に都市化していく景色。すると再び乃愛(のあ)が口を開く。



「お父さんとお母さんが亡くなって、もう10年…か…」

「ちょうど今の季節…大雨の日の交通事故だったよな…」

「うん……でもすごいね。お兄ちゃんは」

「何だよ、急に」

「高校に通いながらも、夜もバイトして…小さかった私のめんどうを見てくれた。そしてお父さんの夢を代わりに追って、実現させたんだね…このNOAH(ノア)で…」



乃愛(のあ)は修理の為に持ってきていたNOAH(ノア)を、ギュっと抱き寄せる。



「何だよ急に…そんな話しして」

「だって3ヵ月後には、このNOAH(ノア)――…【Network(ネットワーク) of(オブ) Adventure(アドベンチャー) Hall(ホール)】が全世界で売られるんだよ?世界中の人達が楽しんでくれたら、お父さんの夢…本当の意味で叶っていくんじゃないかな、って」

「ハハっ…お陰で休みが無いんだけどね」

「それもお父さんの為でしょ」



苦笑いの夏輝(なつき)の肩を、バシッ!っと叩く乃愛(のあ)



「うわっ!運転中だぞ、危ないな~…」

「はいはいごめんなさいねー」

「全く……ところで乃愛(のあ)。『友達』って、まさか男友達とかじゃないよな?」

「うわ出た…」



若干カブせ気味で、ため息混じりの返しをする乃愛(のあ)



「何が『出た』だ。僕は――…」

「あ~はいはい。『兄として心配してる』んでしょ?もう耳タコですー」

「なら男か女かを――…」

「クラスの友達。クラスといえど女子校。だから女友達。OKですか?夏輝(なつき)捜査官」

「ならいいが…ゲーム内でも――…」

「『変な男にはついていくな』、でしょ?これも耳タコォ~…」

「いやでも――…」

「それ以上言ったら怒るよ」



前を向いていてもわかる、横顔に刺さる鋭い視線。続く言葉を言おうと開いた口を、小さなため息と共にゆっくりと閉じる兄、夏輝(なつき)だった。




◆◆◆――…




 30分後――…景色は高層ビルの建ち並ぶオフィス街へと変わっていた。夏輝(なつき)乃愛(のあ)の姿は、とあるビルの前にあった。


ビルまでは2~30メートルは離れているというのに、見上げるには首を痛めそうな程の高さの円形のビル――トイズ・クランピア。


日曜日だというのに、ビシッ!っとキメたスーツ姿の人々が多数行き交う中…パーカー姿のラフ過ぎる服装の夏輝(なつき)は、よそ行き格好をした乃愛(のあ)に比べて非常に浮いている。これにはさすがに恥ずかしいのか、乃愛(のあ)は顔を伏せ気味に辺りをチラチラと…



「いつものお兄ちゃんだから気にならなかったけど…会社(ここ)ら辺に来ると…さすがに、だね…」

「ん?何が?」

「よく平気な顔出来るよなぁ~…ホントそういうトコ鈍感だよね?お兄ちゃんって」

「だから何が?」

「はぁ…だから彼女出来ないんだよ」

「ぐっ…!う、うるさいな…今は仕事が大事なんだ。彼女とかは必要性が無い。それだけだ」

「はいはい……スーツとかで決まってる時はカッコいいと思うんだけどなぁ~…やっぱ普段からもっと気にした方がモテると思うよ、お兄ちゃんは」



呟くようにそう告げ、乃愛(のあ)はゆっくりと歩き出す。



「特にその寝グセ頭。ちゃんと直して行くだけでも変わると思うよ」

「………」



あえて返事はしない。ため息だけをつき、先を行く乃愛(のあ)に続こうとした瞬間――…



「あたしもそう思~う♪」

「うわっ!」



突如、夏輝(なつき)の後ろから何者かが抱きついてきた。倒れる程ではないものの、おんぶの上半身だけバージョンの如く、夏輝(なつき)の首に廻す腕が相手を支える状況。


兄の驚く声に、「えっ!?何!?」っと振り返る乃愛(のあ)。驚きでハっと目を見開くも、すぐにその表情は笑みへと変わる。そして何者かに捕らわれた兄の元に駆け寄っていく。



「あ~!久しぶりです【愛莉(あいり)】さん」



愛莉(あいり)と呼ばれた、夏輝(なつき)の背に引っ付いた人物――…それは茶髪のボブヘアーの、目鼻立ちのしっかりした綺麗な女性。



「オっス、乃愛(のあ)ちゃん。おっ久ぁ~」



ノリの良い挨拶を返しつつも、夏輝(なつき)の背中から離れようとしない愛莉(あいり)。彼女の名と声を耳にした途端、夏輝(なつき)の表情は瞬間的に『無』となった。



「…コラ愛莉(あいり)…離れてくれ」

「お~?営業帰りの美女が抱きついてるのに~。ナっちんったら、照れてくれてもいいのだよん♪」

「誰が照れるか、君なんかに」

「あ~ん強がっちゃって…か・わ・い・い~♥」



っと、夏輝(なつき)の耳に息を「ふぅ~」っと吹きかける愛莉(あいり)



「っ…!!きっ、気持ち悪い事するな!それに『ナっちん』って何だ…初めて言われたぞ」



身震いと共に、愛莉(あいり)をなんとか振り落とそうと体を左右に振る。しかし本気で振り払えば愛莉(あいり)が怪我をしてしまうのでは…っと、軽く揺さぶる程度に。まぁそれでは離れる訳がなく、逆に――…



「あ~そうやって、背中であたしの胸の感触楽しんでんだぁ?むっつりナっちんちん」

「何をっ…!違う上に卑猥な呼び方するな。ましてや妹の前で変な事を言うな」

「アンタなら~、直に胸触ってもいいのよ~?ただしひと揉み1万円からでぇ~す♥」

「ふざけるな…いい加減離れてくれ」

「あ~はいはい。言われなくても離れますよーだ。そんなん冷たくされたら、いくらあたしでもいい加減キズつくっちゅーの」



そう言うと、ようやく夏輝(なつき)の背中から地面に降り立つ愛莉(あいり)。紺のスーツでパンツスタイルの姿もようやく見え、170センチ半ばの夏輝(なつき)より少し小さいくらいの彼女は、スラリと伸びた手足。出るとこは出てる!的な、モデルのような抜群のスタイルの持ち主でもあった。



「あんまやってっと、お兄ちゃん大好きの乃愛(のあ)ちゃんに怒られちゃうしねぇ~」

「ちょっ、なっ、何言ってるんですか愛莉(あいり)さん!」

「おっと怒られちったぁ~」



両手を上げ、口元を『へ』の字にしてみせる愛莉(あいり)夏輝(なつき)はすぐさま乃愛(のあ)愛莉(あいり)の間に入り、「行くぞ」とトイズ・クランピアの入口に向かい妹の体を押し進む。



「いいか…愛莉(アレ)には関わるな。アイツは一種の汚染物だ」

「コラー夏輝(なつき)!聞こえてんぞー。誰が『汚染物』だ~?」

「玉の輿を狙うが故、成金達を喰い物にしている魔女だ。悪魔だ。耳を塞げ」

「うっさい童貞」

「ふぐぉっ!」



突如言葉と共に、夏輝(なつき)のお尻にカン○ョーがかまされる。



「なっ、何をするんだ!それに(妹の前で)どっ、童貞って言うなっ…!」

「ホントの事でしょ~?26歳にもなっても未経験者のドーテーさん♪」

「っ!…うるさい、僕は相手を選んで行動している結果だ。君のような尻軽じゃないんだよ」

「あ~軽いだなんて嬉しい誉め言葉。あ~り~が~と~」

「このっ…ホント性悪女だな…」

「あ~ら、童貞くんに女がわかるのかしら?」

「少なくとも君は理解出来る」

「はあ?童貞ごときに攻略出来ると思ってんの?あたしを」

「あぁ、女にしては珍しい単細胞生物は簡単だ」

「誰が単細胞ですってぇ~?」

「君しかいないだろ?」

「何ですってぇ…」

「何だよ…」




 …――ドスっ!




「「うっ!」」



睨み合う2人が、同時に襲う衝撃に、同じ呻き声を上げ、同時に脇腹を押さえる。衝撃のきた方に向くと、そこには両手の拳を突き出した状態の乃愛(のあ)が、不機嫌そうな表情で立っていた。



「も~いい加減してよ2人共。いい歳した大人が公衆の面前でする事じゃないでしょ」

「…ごめん…」

「ごめんなさい…」



10歳下の少女に叱られ、思わずシュンっと謝る大人2人。そして同時に視線を合わせ、「お前のせいで怒られた」っというように、互いに肘でつつき合う。



「ホラ、もういいから早く行こ。約束の時間きちゃうよ~」

「ん…あぁ、そうだな」



頷く兄の腕を引く乃愛(のあ)は、会社の入口に向かい歩き出す。続き歩き出す愛莉(あいり)は、小走りに夏輝(なつき)に並んだ。



「てかさ、今更だけど…何であんたら兄妹が居る訳?今日休みっしょ?」

「まぁそうなんだけど…少し前から乃愛(のあ)NOAH(ノア)の調子が悪くて、約束してた今日のログインが出来ないらしい。だから乃愛(のあ)NOAH(ノア)を修理して――…」

「あ~もういい…同じ名前がズラァ~り連呼っこね…もう想像はつくから大丈夫。乃愛(のあ)ちゃんの為に、アンタは職権乱用しに来た訳ね」

「言葉が悪いな、君は…」



苦笑いの夏輝(なつき)は2人と共に、既に目前となった自動ドアをくぐり、トイズ・クランピアのエントランスへと足を進めた。外観同様に円形で全面ガラス張りの内部は、直径は80メートル以上はあるのでは!?っと思わせる程広く感じられるもの。中央に設置された受付カウンターも円形で、360度対応可能なもの。10人以上はいるだろう受付も、既に待ちの人もいる程混み合っており、エントランス自体もなかなかの混み状態。


その中、7階分の吹き抜けエントランスに「うわぁ~…」っと息をもらす乃愛(のあ)



「久しぶりに来たけど、やっぱりすご~い…」

「でしょ~?まぁまぁ、遠慮なさらずにど~ぞ」

「君の家かよ…」

「うっさい。職権乱用ヤローがガヤるな」

「職権乱用じゃない。僕がNOAH(ノア)を修理してる間、4階のプレイブースの【カプセルNOAH(ノア)】でログインしてもらうだけだ」

「あ~あの棺桶みたいなヤツね」

「例えが悪い。あれは酸素カプセル風NOAH(ノア)だ」

「へいへい。しっかし、そのプレイブースは使用料1000円。加えて1時間2000円…学生さんには厳しいぼったくり価格よねぇ~」

「それは会社が決めた事。僕は無料でもいいと思うが――…」

「あ~はいはい、会社だって商売。言いたい事はわかってるって。てかさ、今日はそのプレイブースのメンテナンス日よ。忘れてた?」



その言葉に、「え?」っと互いに見合う兄妹。そして愛莉(あいり)に集まる視線。



「あらら…その様子じゃあ忘れてた訳ね。ま、そしたらラボのカプセルNOAH(ノア)使ったら」

「…いいのか?」

「ダメな訳ないっしょ?アンタ開発者よ。つーかそんなん、開発者権限で新品と交換とかでよくない訳?」

「それこそ『職権乱用』だ。まぁ交換の方が早いとは言ったんだが…」

「いいんですよ愛莉(あいり)さん。このNOAH(ノア)は、お兄ちゃんが作った第1号なんです。だから、このNOAH(ノア)でクリアするまでは手離したくなくて…」



そう言って、手にしたNOAH(ノア)を見下ろし笑みを浮かべる乃愛(のあ)。すると突然、歩くままに愛莉(あいり)乃愛(のあ)に抱きつき頬を擦り寄せる。



「ぬぉ~想いを大事にする健気で可愛い~妹よのぉ~♥この腹黒眼鏡の妹とは思えませんなぁ~」

「誰が腹黒眼鏡だ…それに早く離れてくれ。大事な妹が(けが)れる」

「あ~ん乃愛(のあ)ちゃん、お兄たんがイジめる~」



さすがの乃愛(のあ)も苦笑い…とりあえずは「よしよし」っと愛莉(あいり)の頭を撫でた。この光景に、ただため息をつく夏輝(なつき)



「はぁ…学生時代、こんな同級生(きみ)と首席争いをしてたと思うと、何かゾッとするよ…」



そう呟き、エントランス奥にあるエレベーターに向かい歩き始める。後に続く愛莉(あいり)はクスっと笑い、前を行く夏輝(なつき)のフード部分を掴む。



「ふっふ~ん、テスト関連の通算成績…26勝21敗183分。結果はあたしの勝ち~」

「結果そうだが…IQ200の天才に、凡人が挑んだ成績だ。十分評価に値するんじゃないのか?」

「評価どころか、正直"恐怖"以外のなにものでもないわ…それに『天才』と呼ぶなら、高校生でNOAH(ノア)の原型…人類初で仮想現実世界を創り上げた方が天才の名に相応しい。そんな天才(アンタ)にライバル視してもらってただけで光栄よ」

「僕は天才なんかじゃないよ。本当に相応しいのは、人類では敵わないと言われた、将棋やチェス…各種ボードゲームプログラムを7歳で負かし。わずか10歳で難解な公式を解きまくり、世界中の数学、物理学者らを黙らせた君の頭脳の方だと思うけどな」



この言葉に愛莉(あいり)は意外そうな表情を浮かべつつも、気を良くしたように夏輝(なつき)の腕に抱きついた。



「お?おー?何だ急に優しい発言。惚れたか?あたしに」

「離れてくれ。そして起きてるなら寝言は言わないでくれ」

「寝言じゃない~。NOAH(ノア)開発で億万長者のアンタは、あたしの玉の輿候補の1人よ?」

「辞退する」

「住んでる家はボロいけど、それはあたしに豪邸をプレゼントしてくれる為の貯蓄の1つって訳よね?」

「違う。あの家は両親と暮らした家。だから手離せないだけだ。それに言っておくが、共にNOAH(ノア)システムを構築してくれた君の頭脳は尊敬する。だが人間的にはNGだ」

「愛がなくても最初だけ…まずは遊んでみなさいよ。アンタの童貞、あたしで捨てても――…」

乃愛(のあ)、エレベーターは下のボタンを頼む」



表情筋は微動だにしない、完璧な無表情で乃愛(のあ)だけを見る夏輝(なつき)。さすがの愛莉(あいり)もうなだれ……



「あ~ん…ナっちん華麗なスルー…」



.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ