1.夢の中からこんにちは
目が覚めると夢の中だった。
違う。そうじゃない。そんな頭がおかしいような事を言いたいわけじゃない。だから白い眼で見てるそこのキミ、やめなさい。けれど、夢とは思えないほど頭は冴え渡り、にもかかわらず夢としか言い表せないような光景が目の前に広がっていたのだった。
昨日何か変な物を食べただろうか? いや、そんな事はないはずだ。春海の手料理は食べてない。何より、それでどうにかなるような体なら、すでにダース単位でこんな体験をしている。つまり臨死体験でもないらしい。もしも数日越しの遅効性のトラップだったら、今度こそデコピンじゃ済まさねぇ。
頭の中は疑問符の嵐が渦巻いているが、現実(これを現実と思えるかは別として)を直視しないわけにはいくまい。
どこを向いても真っ白な空間に、見覚えなどあるはずもなかった。病室だってもう少し何かあるだろう。ましてやフワフワと宙に浮いているとは理解不能を通り越して思考放棄の域だ。無重力空間というのは案外こんな感じなのだろうか。地面がないうえに景色も一色だから、動けてるのかもわからない。やっぱり夢だな。明晰夢という言葉だってある。なら、目が覚めることを待とうじゃないか。
ゆったりと構えていた俺に、突然大音量で雷が鳴り始め、カッと光ったかと思えば景色が宇宙に変わった。
すげぇ、流石夢。気が利いてる。
《 入江彰人よ。我は神だ。 》
ゆっくりとした口調、落ち着いた雰囲気のある声がどこからともなく響き渡った。
え、なんか壮大な演出ってこのため? てか自分で神って言ってるし。そう言えば悟りを開いたら夢に神様を見るんだっけか。ヤべぇ、俺ってばこの年で悟り開いちゃったのか。俺まだ高二だよ高二。
《 黙れ。これは夢ではない。 》
うわ、命令口調だよ。ガラ悪いなこの神。敬う気も失せるわ。まあ、もとからこんな妙ちきりんな神なんか敬い奉る気なんか欠片もなかったけど。姿も見えないに声だけエコーで聞こえると、デパートのアナウンスのようで威厳の欠片も感じないというか。
って、ん? 俺、口に出してしゃべったっけ?
《 我は神だ。ヒトの考えることなどお見通しだ。 》
あー、夢だもんな。その辺はご都合主義ってことね。はいはいわかりましたよ。そもそも声に出したのか、思っただけなのかも曖昧だし。それより、この声頭に響くんですけど。絶対起きたら偏頭痛だろ。これ確定的。
「神の話を聞け」
「よし、じゃあ聞いてやろうじゃないか」
神だなんて言う戯れ言なんか信じちゃいない。だが、ようやっと対等なところまで降りてきたんだ。夢くらい好きにさせろ。なんたって、これは俺の夢だ。今決めた。
宇宙空間のように見えるというのに、再び雷鳴が轟き、目映い光が迸る。
あまりにも眩しい光に瞬き一つ。そうして、目を開くと。
視界に幼女が現れ、た?
ああ、この時の俺は知る由もなかったのだ。このカミサマ幼女が、俺の人生設計を予期せぬ方向に導くとんでも隠しキャラだっただなんて。