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雪花狼  作者: 八月一日
4/7

4 バレタ秘密

「……何も聞かないの」


 ベッドの上で脱力して寝ている私。しかも窓からは満月じゃない中途半端な形の月が見えてる。まだ満月じゃないでしょうに。


「鏡香も、入っていおいで」


 さっきからずっと部屋の外からこそっと覗いてた鏡香。別にこっそりしなくてもいいのに。


「はぁ、満月までまだ余裕があったのに」

「雪花ちゃん、だよね?」

「それ以外の誰かに見える?」

「だって……耳生えてるもん」

「触ってみる?」


 今の私には頭に獣の耳がある。髪の色と同じ藍色の獣耳。

 鏡香はおずおずと手を伸ばしてきて耳に触れた。ちょっと触り方がくすぐったい。


「作りものじゃない本物よ。鏡香、狼男の話しは憶えてる?」

「うん」

「私がそれよ。満月の夜に獣人化する人外。それが私の、大神家の正体よ。ほら、鏡香も鏡也と一緒に帰りなさい。こんな気味の悪い家に泊まりたくないでしょ」


 はぁ、こんな事になるなら泊めなきゃよかった。そもそもいつもの獣化と違ってたんだからもっと慎重になればよかった。

 明日からどうしようか。鏡也達とはかかわらないようにして、出来る事なら口止め――


「やっぱり、帰った方がいい? いたらダメ?」

「化け物と一緒なんて、許可するわけないでしょ。鏡也と一緒に帰りなさい」

「雪花ちゃんは化け物なんかじゃないッ!」


 鬼気迫る感じで鏡香がグっと寄って来た。顔が近い……。


「ケモミミだよ! 愛するべきケモミミだよ!」

「う、うん」

「鏡香、お前下に行ってろ」

「えー、耳触りたい」

「頼むから、下行け……」


 しぶしぶと言った感じで鏡香が下に降りて行った。なんかいっきに気が抜けた……主に鏡香のせいだけど。

 そしてなんで鏡也がここに残ったんだろうか。


「何? 鏡也も耳触るの?」

「さわんねぇよ」


 獣化のせいでもあった痛みも引いてるから体を起こして鏡也と向き合う。


「で、用件は?」

「聞いてた」

「は?」

「聞いてたよ。お前の両親から」

「なに、を?」

「狼の話し」


 鏡也に話してた? うちの家系の、化け物の話しを?


「雪花のとこの親父さん、弟がいるだろ。その弟と俺の母親の妹が夫婦なんだよ。しかも、俺自身も雪花と幼馴染だったからな。今後の事も見据えていろいろと聞かされた。狼の事も、満月の事も」

「……」


 何それ。そんな話し、初めて聞いた……、じゃあ鏡也はずっと前から知ってたの?


「さっきの反応でわかるとおり、鏡香は知らない。あんな感じだからなんともなさそうだけどな」

「……」

「まあ、その状態じゃしばらく学校は無理だろ。口裏あわせとくから風邪ひいて熱が下がらないとでも言っとけ。じゃあな、鏡香は置いてく」

「……」


 頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 鏡也が部屋を出て下に降りていくけど、声をかける事もなくただ鏡也が出て行った部屋の扉をただ見てるだけ。

 誰かが上にあがってくる足音がするけど、何かをしようとする気もしない。


「雪花ちゃん……?」

「……鏡、香?」

「……」

「ん、おいで」


 待てを解除された犬みたいに寄って来た鏡香はそのまま私に抱きついて来た。


「えへへ~触っていい?」

「はぁ、お好きにどうぞ」


 ふにふにと私の頭に生えてる獣耳を触ってる鏡香。そんなにいいものなのかね、これ。


「このまま、泊まってもいいよね?」

「ダメって言っても泊まるんでしょ」

「うん、泊まる」


 ぐちゃぐちゃの頭でも、今の鏡香の距離感は心地よかった。

 こんな化け物を、普通に扱ってくれる鏡香が。


*** *** ***


「~~♪」

「……鏡香、朝からなにしてるの」

「ケモミミを堪能してるの~」


 朝。頭部に違和感を感じて起きたら鏡香に膝枕をされ、ミミをいじられてた。朝から何してんの、この子は……。


「……」

「何?」

「雪花ちゃん。瞳孔が縦になってるよ?」

「獣化してる時はこんな眼よ。それと爪とか不用意に触らないでね。鉄でも削れるくらい硬質化してるから」

「そんな硬くなっちゃうんだ……セルフ包丁?」

「そんな便利なもんじゃないわよ、これ」


 鏡香の膝から体を起こして鏡台の前に行く。あらら、完全に獣化してる。

 髪の色と同じ色合いの獣耳が生え、髪質も少し猫毛になってる。瞳孔も縦にさけて鋭利になり、何気なしの歯を見れば犬歯が鋭利なものになってる。

 これで満月の3日前か……目測だから誤差はあるだろうけど。


「うー、今日は雪花ちゃんと買い物とか行こうと思ってたんだけどなー」

「……ごめん」

「いいよ雪花ちゃん。でも今日は雪花ちゃんで遊ぶからね!」

「却下」


 クローゼットを開けてとりあえずスキニージーンズとネルシャツを出して着替える。ん、なんか胸がキツイ……。


「雪花ちゃん……お風呂の時と比べたらなんか大きくなってない?」

「獣化のせいかしらね……今までこんな事なかったのに」


 ブラの紐を調節してみてもまだキツイ……獣化が解けても戻らなかったら買いに行かないといけないじゃないの、これ。

 胸元がキツイネルシャツを第3ボタンまで開けて着てジーンズを履く。うん、こっちはなんともない、あっても困るけど。


「ねえねえ、揉んでいい?」

「だめ。鏡香も着替え持ってきてるでしょ。見てないで着替えたら?」

「んー」


 昨日持ってきていたバッグから着替えを出してもそもそと着替え始めた鏡香。私はそれを見届けることなく下に降りて朝食の準備。

 食パンのストックがあるからフレンチトーストでいいかな。


「ホットケーキがいい」

「……」

「ほっとーき」

「言い直さなくていいから」


 タートルニットにレギンスパンツの格好で降りてきた鏡香の要望はホットケーキ。フレンチトーストの案は棄却された。

 材料あったかな……。

 棚を探してみるとホットケーキミックスは一応あった。卵も牛乳もあるしいけるかな。

 適当な配分で材料を混ぜて元を作って熱したフライパンに流し込む。余熱でやるなんて面倒な事はしない。普通に焼く。

 15センチくらいのものを量産していく……うん、生地も膨らんでるしそこそこの出来かな。

 付け合わせにバターとはちみつを用意して朝食は完成。


「はい、お待ちどうさま」

「ホットケーキ~」


 鏡香は嬉々として食べだした。私も椅子に座って食べる事にする。


「ねえ雪花ちゃん。獣化だっけ? それってどのくらいで治るの?」

「さあ? いつもなら満月の日のうちに終わるんだけど、今回は満月の3日前に獣化してるし……胸がなんか大きくなるとか今までにないことも起きてるからなんとも」

「じゃあしばらくはケモミミなんだね!」


 なんでそこでうれしそうなんだろうかこの子。なんかさっきからずっと私のミミを見てるんだけど……。


「あ、でもそれって帽子とかで隠せば外いけるんじゃないの?」

「キャップコーデしないから持ってないわよ」


 さて、暇な1日なにして過ごそうか……?


「鏡香?」

「取ってくる」

「は?」


 それだけ言って鏡香はホットケーキを食べていたフォークを置いて家から出て行った。取ってくるって、帽子を? マジで?


「……ニュースでも見よ」


 テレビをつけてチャンネルを適当に合わせていたら鏡香が戻ってきた。案外早かったわね。


「雪花ちゃん! いっぱいもってきたよ!」

「……うわぁ」


 鏡香が持ってきたのはニット帽、ストローハットにブレードハット……何種類もってるの?


「んー、これかな。いや、でもこれも合うなー……んー」

「先にホットケーキ食べたら?」


 ホットケーキそっちのけでフィッティングに精を出し始めた鏡香をなだめて椅子に座らせる。しかし、よくもまあこれだけ持ってきたもんだ。


「ねえ雪花ちゃん、もしね? もし、大丈夫そうだったら」

「近場ならね」

「うん!」


 これで同い年だって言うんだから世も末……じゃなかった、いろいろおかしい。




「ねえ雪花ちゃん、これとかどう?」

「それ、ハギレでしょ?」


 結果、あの中からケモミミのニット帽をチョイスして近場にあるショッピングモールに2人できてる。そして今、ランジェリーショップにいる。


「えー? でもかわいくない?」

「うん、鏡香が意外と露出趣味ってのはわかった。いっそのことそっちのでいいんじゃない? 透けてる奴」

「もう、わかってないなー。雪花ちゃん? こういうモロに見えてるのじゃなくて、こういうギリギリ感のある方がいいの! ほら、雪花ちゃんこれ試着して!」

「……え?」

「雪花ちゃんの胸、元に戻りそうにないし。ほら、いいからいいから」


 鏡香に押し切られる形で試着室に連れ込まれた。

 試着室と言う割には結構広い部屋で、2人ではいってもまだ余裕がある……というかこの広さの部屋がまだ何部屋もあるっていうことか。こんなもんなのかね、試着室って。

 鏡香に渡された下着を手にして立っていると、私の服に鏡香の手がかかった。


「……何?」

「脱がないと試着できないよ? それに目安で計ったからこれであってるかわからないから計らないと」

「それでなんで鏡香が生き生きしてるわけ?」

「いいからいいから! ほら、早く!」


 せかされるままに上着を脱いだ。

 今はストレートデニムにスリムフィットシャツ、それにニットの合わせ。その上にウールダッフルをはおってる。

 脱いだ上着はハンガーにかけて、シャツもカゴに入れる。


「うわぁ、谷間すごいね。それじゃ合わないかも」

「じゃあ試着やめて違うとこ回ろうか」

「それはダメ。着よ?」


 鏡香の意思は固く出られそうにない。

 はあ……。


「……」

「じろじろ見すぎ」


 着けてるブラを外してカゴにおくと鏡香がまじまじと胸を見てきた。確かに大きくなってるけど、そこまでまじまじ見なくていいでしょ。


「……揉んでいい?」

「だめ」

「む~……じゃあ計るから腕あげて?」


 メジャーを手によってきた鏡香に背を向けて腕をあげる。ひんやりとした感触が下乳付近にきてアンダーを計ってそのままトップ。

 手なれた感がある鏡香のメジャーリングはすぐに終わって、なんかへこんだ顔をしてる鏡香と対面した。


「……」

「なんで自分の胸揉んでるの?」

「……もげちゃえばいいのに」


 すごい恨めしそうな声で言われたんだけど……。


「目測でそれ選んで持てきたけどやっぱあわないや。持ってくるからちょっと待ってて」


 そういって試着室から出て行った鏡香。計ったサイズ聞いてないんだけど……まあ、持ってくる下着のタグ見ればわかるか。

 カゴに入れたシャツを羽織りにして部屋内にある椅子に座って待っていると、鏡香が帰ってきた。

 なんか派手な下着を持って。


「鏡香?」

「いろいろ持ってきたよ!」

「色も派手だけどなにそれ。ガーターとかいる?」

「え? 私の趣味で持ってきたんだけど」


 鏡香の……趣味?

 え? 鏡香の? これが?


「ふふふ……店員さんと意気投合して選んできたから、着ようか」


 下着を手ににじりよってくる鏡香。手で制しようにも獣化している今は出来ない……わかっててやってるでしょ、この子。

 壁際まで追いやられ、羽織っていたシャツも脱がされ、黒い笑みを浮かべた鏡香に追い込まれた。


「もう、こんなに大きいおっぱいなんて……いけないんだー」

「きょ、鏡香?」

「ふふ、ふふふ……」


 ジャンルとしてはセクシーランジェリーに分類されるものをあれやこれやと着させられ、ベビードールにテディ、後なんだっけガーターとか。Tショーツとか嫌がらせみたいなのばっか持ってきた……股割れとか鏡香を脅してでもやめさせたけど。

 散々鏡香の着せ替え人形をやって買ったのはシンプルなチェックタイプとドットタイプ、それと鏡香が無理やり会計にねじ込んできたブラにTショーツ、それとガーターのセット。もちろん鏡香から恐喝……折半させた。

 ランジェリー4点とはいえ、1万弱が飛んだ……。母さんに頼んで補正の時給あげてもらおうかな。

 裾上げしてないパンツの裾の縫いあげ、まつりとかチェーンとかで縫いあげるバイトっぽいものをやってる。試作品のパンツとかで。

 まあこの話は置いといて。

 何故か上機嫌な鏡香と歩き回ってたどり着いたのはクメールだったりする。今日来てるモールも鏡也と来たとこだったり。


「私は……デミオムライスとフレーバーポテトでしょ、後オニオンスープ。雪花ちゃんは?」

「相変わらずよく食べるわね……。ミートドリアとマッシュポテト。あと自家製パンで」


 手早くオーダーを済ませていつものごとくパンを取りに行く。もうパンを取りに行くのも手なれたもんだ。

 鏡香もついてきてパンコーナーに行くと、皿の種類を替えたのか大皿が置いてあった。鏡也仕様かな……。

 とりあえずその大皿に2人分のパンをあれこれ入れて席に戻った。


「そのチーズのパンいっつも食べてるね」

「それ、鏡也にも言われた」

「兄妹ですから」


 訳のわからない宣言? をされたけど気にせずパンをつまむ。大皿な分、いつもより多めに取ってきてるから料理が届くまで持ちそう。


「雪花ちゃん、このネックレスありがとうね」

「それ買ったの鏡也でしょ?」

「お兄ちゃんにこんなセンスないの、妹の私が知らないわけないでしょ?」


 ばれてるじゃないの。てか、センスないって評価されてんのね、鏡也。


「ねえ雪花ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんと付き合ってるの?」

「……え?」

「だってよく一緒に出かけてるでしょ? 買い物行ったり映画行ったりして」

「幼馴染なんだからそれくらい普通でしょ?」

「女っ気がないからてっきり付き合ってると思ってたんだけど、違うんだ。義姉ちゃんってのもよかったのになぁ」

「それはそれでいろいろおかしいでしょ。話が飛びすぎ」

「義姉ちゃんだよ? いろいろしほうだいだよ?」

「私になにする気よ……」

「お風呂入ったりガールズトークしたり、ベッドでいちゃいちゃしたり」

「最後のがおかしいわね。最後」


 これで同年代なんだから……うん。

 その後は鏡香の電波を受信したようなトークを聞きながら届いた料理を食べて店を出た。



4話です。おっ(ry さて、今回も鏡香といちゃいちゃパートですが、ランジェリーショップです。お(ry

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