1 幼馴染とショッピング
冬が嫌い。
寒いし肌も荒れやすいし、着る服にも気を使う。
それに、空がどの季節に比べてもダントツに澄んでる。澄んで澄んで、澄みきっていて、私はそんな冬の空が大嫌い。
見たくないものがはっきりと見えるから、見えてしまうから。
そして今日も、その見たくもないものが夜でもないのに姿を見せている。
「何しかめっ面してんだよ」
「うるさい」
「うるさいとは、また御挨拶だな。雪花」
話しかけてきたのは近所に住んでる幼馴染、黒塚鏡也。
相手にするのも面倒だから鏡也の横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。
「何」
「どうせ暇なんだろ。付き合えよ」
「いやよ、めんどくさい」
「……妹の誕生日、何買えばいいかわかんねーんだよ」
「はぁ、わかったわよ」
あてもなくぶらついてただけだし、鏡也が気のきいた物を選べるかといえば否となるは見えてる。
鏡香、鏡也の妹とはちょくちょく出かけてるけどその時に欲しいものがって言ってたし、誘導しようか。
「ほう、今日はミニスカに黒ストか。ショートパンツでランガードがチラ見してたのもよかったけど、これはこれでッ!?」
「どこみてんのよ、アホ」
しげしげ、といった感じで観察してきた鏡也の脚を踏みつける。そして踵を使ってねじる。
脚が無駄に長いと見えないはずのランガードが少し出てしまうのが欠点。しかもちょうどその格好をしてる時に霧也と遭遇した事があったんだけど、まさかそんな風に見ていたとは……もうすこし踏み込んどこ。
「いてぇって!」
「ほら、行くんでしょ」
オーバーに痛がってる鏡也を置いて先を歩く。
頭上には青白い半分だけの月が依然としてそこにいる。
*** *** ***
「た、たけぇ……」
「アクセサリーなんて全般的にこんなもんでしょ。さっさと払う」
鏡香が眼を着けていたアクセサリーに誘導して会計に行かせるところまで完了。さて、この後どうしようか……。
「もう昼時か。なんか食いに行くか?」
「じゃあサリア」
「……おう」
散財したあとのサリアは堪えるらしい。まあ一番安くて1200円くらいだしそこそこにする店なのもあるけど。
「……クメールでいいわよ」
最高で800円で済む洋食店。300円追加で自家製パン食べ放題がつけられる。大食漢の鏡也でもここなら満足でしょ。
ショップ階の2階から3階の食堂階に移動して目当ての店、クメールに入る。
「トマトとチーズのリゾットと……鏡也は?」
「デミソースのオムライス。それと自家製パン付けてください」
店の前のウィンドウであらかじめ決めておいたメニューをオーダーして、鏡也がパンを取りに席を立った。
店の奥に常温管理されたパンコーナーがあってそこから好きなのを取るシステム。来るたびに定番物以外はかわってるからサリア以外だとよくここには来てる。
まあ、実際は安いからだけど。
「こんなもんか」
「どんだけ取ってきてんの」
大皿2枚分のパンをもって帰って来た。
コーン、ツナ、パンプキン、レーズンを使ったパンと切り分けてチーズと和えられたチースト。それらが2皿分。
鏡也はそれらのパンを普通に食べ始めたけどさっき頼んだオムライスもある。それでもこの大食漢は平気に平らげるだろう。
各いう私もトーストをぱくついてる。クメールの定番になってるだけあっておいしい。
「ここ来た時そればっか食ってるよな」
「おいしいんだからいいでしょ?」
一皿はコーンとかのパンが乗った皿。もうひとつの皿がチーズトーストが乗った皿。ここに来た時私が好んでこれを食べてるから、取ってくる時はこういう配分で取ってきてる。
ちまちまとトーストを食べてたら取ってきてた分を食べ終えたらしく、追加分を取りに行った。
「ほんと、よく食べるわねぇ……」
パンを取りにいった鏡也を待っている間にオーダーした料理が届いた。私が頼んだリゾットは鉄板のせいか溶けたチーズとトマトソースがグツグツと言ってる。鏡也の頼んだオムライスはそんなこともなく湯気がでてるだけ。
熱々なのはいいけど、猫舌の私には多少キツイ。
「お、届いてんじゃん。ただきまーす」
山盛りに追加のパンを取ってきた鏡也は椅子に座ると、パン皿を置いてオムライスを食べ始めた。私は私で食べれそうな所をスプーンで削って食べてる。中心部に近いところは熱くて無理。
「あー、うまい。なあ雪花、猫舌なのに鉄板系いつも頼むって意外とマッ」
脚の小指付近を踏みつける。ぐりぐりと波状攻撃も忘れない。
誰がマゾだって? バカ鏡也。
鏡也は結果的にあのあともう一回パンを取りに行った。もちろんオムライスも完食した。
食後、館内を適当にブラついて服とか雑貨を見て回って店を出るとあたり一帯は薄暗くなっていた。
相変わらず頭上には半分だけ覗いた月がいる。暗くなった分、一層と青白さをました月がそこに。
「雪花、今日はあんがとな」
「いいわよ、別に。鏡香によろしく」
よる所があると言って鏡也とは途中で別れた。
そこからは死に物狂いで家路を急いだ。脚力に物を言わせて近道、裏道を走り抜けて。
「はぁ、はぁ……」
誰もいない家に入って部屋にかけ込んで、胸を掻き抱くように体を縮こめてベッドに身を投げる。
痛む体を、骨格を、縦に割れようとする眼をきつく瞑ることで否定した。
「……きょう、やッ」
ついに『雪花狼』投稿です。(੭˙꒳˙)੭
もともと短編で書いていましたが、いつものごとく長編に自然とシフトしてこんな具合です。
一応10話くらいで完結予定で仕上げてるんですけど、伸びそうですねぇはい。予約投稿で今書きあげてる7話までやっとこうかなと。週一でいいかなぁ。
感想などまってまーす(੭˙꒳˙)੭
投稿間隔も早い方がよかったらコメくださいっす。