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バトルショー

ごめんなさい

間違えて同じものを二つ載せて、わけのわからないことになってしまってました

「さきほどの戦いを見た人も多いはずっ!」

 ここはあの出店がたくさん並んでいる広場。ざわざわと人がたくさん集まったとき特有のざわめきがあたりを覆っていた。

「そのさっきの戦いは今日の夕方に始まるバトルショーのデモンストレーションですっ!」

 大きな声を張り上げると、近くの人がこちらに顔を向けた。すると、つられるように一人、また一人とその波が広がっていく。

「さきほどの戦いに引けをとらないバトルをお楽しみくださいっ!!」

 あちらこちらで冒険者や街の住民と思われる人々が話している声がきこえる。

「二等銅貨一つだって。それなら大した金じゃねーな。みにいこーぜ」

「おい、俺さっきの戦いみられなかったんだよなー。だいぶ話題になってたし、これはいかないと」

「まじかよ。今からいい席とっとこうぜ」

「きいたか? 勇者が戦うんだとよ」

「なんでも裏路地のとある廃墟でやるらしいぞ」

 ほぼすべての人がバトルショーのことを話題にしており、街の人々の関心度が伺えた。

「それにしてもよく考えたわね」

 フィオとともに俺はバトルショーの告知をするべく、広場にいた。人のたくさんいるにぎわう広場では噂が走るよりも速く一気に伝わる。二人の仕事はすぐに終わり、暇を持て余してだらだらと会話をしていた。

「もともとフィオがいったんじゃないか。娯楽が必要だって」

「確かにいったけど、戦いをみせてお金を稼ぐとは思わなかったわ」

 フィオは道に転がっている石を蹴る。

「だって私、戦いなんていつでも飽きるほどみることができたもの」

 今度は地面を足でぐりぐりと掘り始めた。

「もしかして怒ってる?」

 フィオはずっと地面をみているため、その表情が読みとれない。

「別に怒ってないよ。ただ、悔しかっただけ」

「悔しい?」

 一度顔を上げ、こちらをみる。その顔は浮かない。

「私、子供たちを助けることばっか考えてた。けど、それだけじゃあだめなんだよね」

「ああ」

 そうゆうことか。確かにお金をあげたり、住む場所を与えただけではその場限りの策になってしまう。きちんと自立できるようにサポートすることが本当に子供たちを救うことになるのだろう。

「けど、フィオは子供に戦いなんてさせちゃだめっていうと思ってたけど……」

「そんなことはないわ。そりゃあ魔物と戦うっていうなら危ないからできるだけしてほしくはないけど、人間ならそんなことにはならないもの」

「ライデンとかだと危なさそうだけどね」

「そうなったらあたしたちが守ってあげましょう」

 フィオは真顔でそんなことをいう。

「ぷっ! はははっ。冗談だよ、冗談っ」

 思わず吹き出した。まるで夫婦みたいだ。

「恥ずかしかったけど言ったのにっ」

 顔を真っ赤にしたフィオが背中の槍に手をかけて……、

「ぎゃああああっ!!」



「貴様らは何をやってるんだ」

 エルザが不機嫌そうに、と思ったら声は不機嫌そうなのに顔が輝いてた。好奇心が抑えられないのか、うずうずと足が今にもこちらに詰め寄ってきそうなほどに揺れている。

「どうしたらこうなる?」

 右足にはぽっかりと槍のささっていた痕があり、俺はフィオの肩をかりて足を引きずっていた。

「はは。事故、みたいな?」

「なぜ疑問系なんだ」

 槍を手にしたフィオはそれでも傷つけようとしたわけではなかった。ただ、そこに微妙に掘られてへこんでいた地面とちょうどいい位置に石があっただけ。石につまづき、体勢を立て直そうとしたら地面のへこみに足をとられて再びバランスを崩し、そして持っていた槍でまた体勢を立て直そうとしたらちょうどそこに俺の足があったという不幸。つまりは事故だ。フィオはそれから罰が悪そうに隣で肩を貸してくれていた。

「まあいい。あとで詳しく聞こう」

 本来なら、なんでそんな偉そうなんだよと思っているところだが、そうすると俺の左足も事故にあいそうだからやめておく。

「フォルよ」

 えっ。もしかしてバレた?

「貴様の足……」

 やだよ。やっぱりエルザは心が読めるのか……?

「もう治ってるぞ」

「死にたくないーっ! ってあれ?」

 右足を動かしてみると、

「痛くない……」

「うそっ。穴もふさいでるっ」

 フィオは足に巻いてあった布をていねいにとると驚きの声をあげた。二人で狐につつまれたような気持ちになってると、後ろの方からレティに声をかけられる。

「みなさん。始まりますよ」



 そこは廃墟の中の大きな空間。元はかなり大きな屋敷だったのか、その広さは広場にも負けないほどだ。天井に穴がぽっかりと浮かんでおり、日の光があたるその空間だけ人の入ってはいけない神聖な何かを思わせた。その空間の周りにはところ狭しと人がおり、その数は街の人々全員がいるのではないかと思ってしまうほどである。その空間にたたずむフードとそれに向き合う二人のアカ。アカはそれぞれが武器を持っており、それを構える。槍のほうがその槍に炎を宿した。駆け出し、フードに向かって炎槍をふるう。フードは構えずにただ立っていた。観客の息をのむ声が聞こえた。ボウッと音がして突如として現れた水の塊にあたり、炎槍がただの槍と化す。気づくと剣を持ったもう一人のアカが後ろに迫っていた。ふりあげた剣はフードの視界に入ってなくて、それはあたるかのように思われた。観客も意外にあっけなく終わるのを見て、興ざめしたようにそれをみている。だが、剣はフードの背中に当たる前に剣自身が吹っ飛ぶ。皆が驚き、そのフードをみていた。二人のアカも例外ではなく、今起きたことが信じられないようだ。観客は盛り上がりをみせ、その熱気は瞬く間に広がった。口笛を吹いて感心する者。足を踏みならす者。皆がこの興奮をどう表にだせばいいのかわからないのか、その場は混沌とし始めた。そしてフードの頭の上に炎の塊が出現して、どんどん大きくなり始める。それは一気に回転を始めると弾のようにすこしずつ噴射された。弾は地面をえぐるように飛び出し、アカへと襲いかかった。

 二人のアカが破れた。



「いやあ成功したっ」

 フィオの顔は物事をやり遂げたすがすがしい表情をしていた。それは俺も同様だ。

「そうだね」

 俺らは裏に入り、そこいらの座れそうな場所に腰掛ける。

「それにしてもフォルはアカだったんだ。一緒だねっ」

 フィオは終始ご機嫌で、ニコニコとこちらに話しかける。その顔はずっとみていたいほど可愛く、無垢だった。

 だから気まずい。嘘をついてるから。

 俺の髪は今、赤色だ。けど俺は本当は黒色。

 エルザに頼んで、髪を赤色に変えたのだ。最初、エルザにいったとき嫌な顔をしたが黒髪を群衆にみせるわけにはいかないとしぶしぶ了解してくれた。

 エルザが俺に渡したのはブラッド・ティアという赤い液体。それは髪を染めることができるらしい。効力はかなり長く、一ヶ月くらい。それまでは水で洗っても、何をしても大丈夫だ。ただ、特殊な場合があるとのことだ。本当に特殊なので気にする必要はないといっていた。

 ついでにそれは貴重なもので残り一つしかない。そんな貴重なものを使ったおかげでバトルショーは成功した。フィオもうれしそうだ。

 これでよかったのだと思う。けど、心の中のもやもやは消えてはくれない。

「ここで観客の中から挑戦者を選びたいと思うっ!!」

 エルザの声が場に響きわたる。

「我こそはと思う奴は名乗り出ろっ!」

「あいつ何を勝手にっ」

 表にでて様子を伺うと、

「誰も、来ないわ」

「よかったぁ」

 フィオとともに、ほっと胸をなでおろす。だが、そこにエルザがつまらなさそうな顔をしてやってくる。

「つまらん!」

 やっぱり。

「何考えてんだよエルザ。もしガルがけがとかしたらどうするつもり?」

「貴様こそ何を考えているんだ、フォルよ」

 そこで一度エルザは言葉をきる。

「このまま永遠に貴様等がこいつらと一緒にショーをやるつもりか? 貴様の目的はなんだったのだ。結局それは貴様等がガキに依存させているということなのだぞ」

 やっぱりエルザはわかっていたか。

「それって……」

 フィオも気づいたのか俺のほうに目をやった。

「確かにバトルショーはいずれこういう形にせざるをえなかっただろうね。チャレンジャーと勇者、という形に」

「それだけではないだろう? あいつらは旅にでる必要がある」

「わかってるよ。いずれ街の人や旅人に偽勇者の仕組みはばれる。その前に街を離れ、違うところで再びショーをやることになる」

「どうするつもりだ。それは危険だぞ」

 フィオは俺らの話をだいたいは理解したのか、その顔は次第に真剣なものに変わっていく。

「じゃあまだ不完全なの?」

「そうなるな」

 エルザが答える。俺は顔もあげられない。なんとかなると思っていた。心の片隅に自分で認識しないように隠していたのだ。

 客席のほうから歓声があがる。

 ぞくっと身震いがした。

 あわてて再び観客のほうを見に行くと、

「俺様が、やる」

 そういって前にでたのは、

「よし、挑戦者。貴様、名は?」

「ライデン。最強の炎使いだ」

 それは最悪の相手だった。



 結果から言えばライデンが勝った。ガルとイグたちはがんばったがライデンのほうが一枚上手で、三つのイロに臆することなく冷静に戦いを分析。接戦だったが最後にライデンが決定打となるドラゴンのセイレイを使い、ガルはあえなく敗北。戦いは大いに盛り上がり、観客は大満足した顔で去っていった。

 その戦いの間もみなが気を張りつめ、ガルに危害が及ばないかを慎重に監視していたため、ショーが終わった今、フィオと一緒に適当なところに腰掛けて休んでいた。レティは何かの準備をするとかでどこかにいってしまい、エルザは監視というよりは観戦をして楽しんでいたため休む必要もなくて元気そうだ。

「だから俺様がこいつらの面倒をみるっていってんだよっ」

 そしてなぜかライデンが隣にいた。

「信じられるわけないだろっ。今の今まで俺らに喧嘩売ってたのに」

 するとライデンはバツが悪そうに顔をしかめる。

「あれは俺様も悪かったって思ってる。自分でもなんであんなことをしたかわからない。気づいたら夢からさめるように我にかえったんだ」

「どうだか」

 フィオは信じてない。かくいう俺もそんなこと信じてないけど。

「いいではないか。実際、ライデンはあの戦いでガルにあわせていた。盛り上げようとずいぶんとど派手に、それでいてけがをさせないように慎重に戦っていたぞ」

 そんな気遣いをライデンが? 気づかなかったぞ。フィオも同様に首をかしげる。そこにちょうどレティが帰ってきた。

「ガルたちは?」

「今は休ませてます。子供たちも皆、ガルくんのことを見守ってますよ。ところで今お話していたことですが……」

 レティはこちらに歩み寄ると、フィオの隣に腰掛けた。

「エルザさんの言うとおりですよ。ほらフィオ、ガルくんは目立ったけがをしていないですよね。身体をくまなく調べてもとくにけがはしていなかったし。とりあえず治療をして、今は休ませているけどすぐよくなりますよ」

「レティがいうなら……」

 フィオは渋々といった顔でうなずく。

「レティの言葉はすぐに信じるんだな」

 それにフィオは心外だという顔で、

「あたしも全部を全部、レティの言うとおりにするわけじゃない。レティは医者。それもこの世界で一番腕のいい医者といっても嘘じゃないくらいのものだわ」

「フィオ、それはおおげさですよ」

 レティはおかしそうに笑う。

「それよりライデンさんの話をききましょう」

「そうだな。それから決めてもかわないだろう」

 とりあえずは話をきいてからだ。皆がライデンのほうに体を向けた。ライデンが重々しく口を開く。

「俺様はエルザの姉御に言われて……」

 突如、ライデンの頭にナイフが刺さる。ぶっ倒れたライデンをそのままエルザがひょいっとゴミのように軽々と持ち上げ、どこかにつれていった。

 ……しばらくすると何事もなかったかのようにライデンだけが戻ってきた。

「今なにが起こったの?」

「こっちがききたいよ……」

 一瞬の出来事に、誰もついていけてない。あいかわらずエルザがすることは突拍子もなく、でたらめだ。

「すまない。さっき言ったことは聞かなかったことにしてくれ」

 そういってライデンは話し始めた。

 自分は金がない。仲間が死んだため、魔物を狩って生計をたてることも難しい。命をかけて魔物を狩ることに恐怖を感じ始めたため、再びチームを作るつもりはない。これまで斧一つで生きてきたようなものだからこのままでは飢え死にしてしまう。そこでみつけたのがバトルショー。自分が協力すればバトルショーで稼ぐことができるのではないか。そう思ってショーに参加した。そしてこれからもバトルショーを一緒にやりたい。簡単にいうとそんな感じの内容だった。

「やっぱり信じられないわ。いつガルたちに危害を加えるかわからないもの」

「そんなことはないかもしれないね」

 俺とフィオの意見がついに割れた。

「だってライデンがガルたちに危害を加えても、得することはないもん。むしろ損するくらいだよ」

「どうゆうことよ」

 フィオがきっとこちらをにらむ。

「そうですね。さっきのライデンさんが戦ったときのショーはすごく盛り上がっていました。どこの街や村でやっても人気がでることでしょう。それなら、協力してやったほうが誰もが得するところです」

「お願いだっ。これ以外俺の生きる道はないんだっっ。エルザの姉御のーーーー」

 ぱしゅっという音がしてライデンが血に染まる。どこからともなく現れたエルザがライデンを再び連れ去ってしまった。

「俺ら、それでかまわないよ」

 そこにガルやイグたちがきた。

「ライデンさんはさっきもガルの様子を伺いにきてくれました。この子たちももうなついていますし、ライデンさんとなら一緒にやれる気がします」

 周りで小さな二人の子供が飛び跳ねているのを愛おしそうにみるナーヤ。

「それにおまえらはやることがあるんだろ? これ以上迷惑はかけられないよ」

「ガル……」

 フィオをちらりとみると少し涙ぐんでいるのがみえた。

 この子たちの決意を感じて、それを悟ったのだろう。

「よしっ、じゃあここでお別れだね」

 話しはとっくのとうに進んでいたのだ。俺たちの気づかない間に。もう助ける必要はないのだろう。

 この子たちは成長していた。

「こいつらのことは、俺様がしっかり面倒をみるぜ」

 ライデンが荷物を抱え、戻ってきた。

「もういくのか?」

「おうよ。ひとまずは東にどんどん進んでいきたいと思ってる。そこなら俺様の知り合いがそこそこいるからショーもやりやすいだろうな」

「本当にありがとうございました」

 ナーヤが丁寧にお辞儀する。

「早く行こうぜっ」

 ガルはフードを深くかぶり、少しこちらを向いたがそのままなにも言わずに去っていった。

 フードの奥できらりと何かが光る。

 そのままナーヤと小さな子供たちをつれていく。

「イグ」

 イグだけが残されてしまい少し迷ったのちに、小さくつぶやいた。

「あ、ありがとぅ」

 たったの一言だったけどその気持ちは十分に伝わった。

「おい」

 ライデンがこちらに来いと手招きする。ライデンのそばにいくと、小さな声で耳打ちされる。

「おまえらがどこに向かおうとしているのかは知らないが、西には行かない方がいい。あそこは今危険だ。俺様は元々、西の方では名のしれたギルドの副隊長をやっていた。だが、とある奴がきたせいでギルドは変わっちまった。それに馴染めなかった俺様は追放された。奴は何か不吉なことを企んでいやがる。西が、いやこの国がどうにかなっちまうほどの何かをな」

 その顔はやけに真摯で、焦っているようにも見えた。

「どうしてそれを?」

「お前はなにかと厄介ごとに首をつっこみそうだからな。数少ない仲間をつれて、ここらへんまで逃げ出したって言うのに俺様たちはキマイラにやられた。そしてそこにお前もいた。偶然か、必然か……」

 ライデンはどこか遠くをみつめるように言った。

「でも、東のほうへ行って大丈夫なのか?」

 魔物が活発に活動しているのは東のほうではなかったか。

「むしろ今は東のほうが安全だ。それに国からたくさんの兵士が派遣されているからな。東の魔物を駆逐するために、ここ数年、かなりの数がきてるみたいだぞ。それもだいぶ落ち着いてきたし、大丈夫だろう」

「そうなのか?」

「ああ。むしろここが一番危険かもしれない。ここらへんが一番魔物の出現率が多いんだ。あのキマイラもそう。もっと東に進めば、安全だ」

 そんなもんなのだろうか。

「死ぬなよ」

 ライデンは噛んで含めるようにそういった。

「ああ。子供たちを頼む」

 その一言を最後にライデンは少し離れたところで待っていたガルたちに向かって歩き始めた。

 去っていくガルたちの背中を送る。視界からみえなくなるまでずっと見つめていた。

「いっちゃいましたね」

「うん。あっという間だったな」

 フィオは返事をしない。

「フィオ……?」

 フィオの顔をのぞき込むと、

「よかった」

 何かを振り払うかのように顔をさっとあげる。きらりと光ったそれはガルのものと同じ。

「ところでなんであなたはガルを助けようとしたの?」

 ぽつりとフィオがつぶやいた。

「えっと、何でだろう?」

 なぜ俺は助けたのか? それは助けたいと思ったから。じゃあなぜ助けたいと思ったのか。

 今までただ自分がやりたいと思うことをやってきた。だからその明確な理由を考えてもみなかった。

 しいて言えば、ラファルガに負けたくないと思ったから? だが、途中からそんなことどうでもいいと感じていた。

 やはりわからない。困惑した顔でフィオをみると、

「あたしね、この世界を救いたいんだ。この国の人が、誰もが幸せに笑って暮らせる、そんな世界をつくりたい」

 フィオはまっすぐにこちらをみた。その言葉には力がこもっていた。

 世界を救う。果たしてそんな大それたことができるのだろうか。

「あたしは旅をする。この世界を救うため。人々を救うために」

 言葉がでない。それは意志だった。揺るぎない意志。炎のように燃える透き通った瞳が、俺の心をまっすぐ射ぬく。

 それもつかのま、ふっとその意志が消える。気づくとすでにいつもの顔に戻っていた。

「じゃあ治療しよっ、フォル」

 不自然なほど元気な声で明るく振る舞う。

「治療?」

「これです」

 レティにつれてこられたのはガルたちが休んでいたところ。そこには人ひとりが余裕で入るくらいのおけに水がたっぷりと入っていた。

「これは癒水ゆすい。浄化、疲労回復の作用があるんです」

「これはすごいんだよ。ちょっとしたけがとかだったらすぐに治っちゃうの」

「ほんとかよ」

 そんな水、存在するのか。

「まあ、試してみなって。実際にやればそのすごさがわかるよ」

 そのままフィオにとんっと押された。

「うわぁっ」

 バランスを崩しておけに体ごとつっこむ。

 じわっと頭のてっぺんから足の先まで冷たい何かに包まれた。嫌な感じはしない。むしろ安心する。体にたまっていた疲労感がすーっと抜けて、心地良い幸せな気持ちが体をかけめぐっていく気がした。

 バサァーッという音とともに全身を浸かっていた水から頭を出す。

「ふわぁーっ。きもちぃー」

 立ち上がり、おけの中をでた。

「いやあ、ありがとう。これはすごいな」

 本当にすごかった。朝から散々いじめられて体も心もボロボロになっていたはずなのに、今はそんなことがなかったかのようなほど体が軽かった。感謝の気持ちを再度伝えようと前をみると、レティもフィオも不思議そうな顔をしていた。

「どうしたの?」

「フォルさん、髪……」

 フィオが口をわなわなさせて、

「あなた、クロカミだったの!?」

 へ? レッド・ティアの効果はまだ消えてないはず……だと思っていた。特別な場合。エルザの言った一言を思い出した。癒水か……。

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