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彼方へ

これで終わりです

 ここはどこだ? 奥深く、海の底にあった意識がすーっと浮き上がるのを感じた。ゆっくりと目をあける。見えたのは、女の人だった。50歳くらいだろうか。その顔や手に刻まれたしわがこの女がどれだけ苦労したのかを如実に表していた。

 俺……、確か約束を……

 何も思い出せない。これでよかったのだろうか。確か女の人と約束をした気がする。とても大事な約束。もしかしてこの老婆が? 何十年も俺を待っていたのか。俺はもう、何も思い出せないというのに。

 体を起こそうとして、動けないことに気づく。当然か……。何十年も寝ていたんだ。無理もない。でも、よかった。この老婆が約束の女の人だとすると、それは女が助かったということだ。俺は無事約束を果たせたらしい。本当によかった……。頬を涙が伝った。一滴、がんじがらめに縛られた檻を無理矢理こじ開けてでてきたような、搾り取られた一滴だった。

 違う。よかった、なんて思っていない。嫌だ。嫌だ、嫌だ! もっと大事な約束だったはず。俺は何にも果たしてない。本当は、一緒に笑っていたかった。もっと早く目覚めて、それで記憶も失ってないで。そんな幻想を夢見る。もう叶わないとわかっているのに。後悔しかない。どうしてもう少し強くなかったのか。そうすれば、もしかしたら今頃この女と幸せに暮らしていたかもしれないのに……。結局、俺は何も救えなかったのかもしれない。欲張りすぎたせいで、何一つ手に入れられなかった。

 再び老婆をみる。若い頃は美しかったと思われるそれは、今となっては陰を差し、疲労の色が強かった。髪の色も暗く、沈んだ赤色。赤黒いと言えるくらいだ。

 ……待てよ? 赤黒い? かすかな記憶の中の彼女はもう少し……

 そこでようやく老婆がこちらが起きたことに気づく。

「フィオ様っ。フィオ姫様っ!」

 老婆は俺の足下に声をかけはじめた。

「メイド長、どうしたの?」

 足下にいた女と思われる人が、眠そうな声で起きあがった。どうやら、座っていたらいつのまにか寝てしまったらしい。そこで気づく。さっき動けないと感じたのは、体全体を鎖のようなもので縛られているからだった。頑丈なそれは幾重にも巻かれており、自力で脱出は不可能だろう。暴走したときのためだ。暴走?

「彼が起きましたよ!」

 老婆がキーキーと興奮した様子で叫ぶ。

「みなさまに知らせてきますっ!」

 老婆はそういうと、あわただしく走り去った。

 首だけをおこし、足下にいるであろう人物をみる。その女の息をのむ音が、狭い部屋ではっきりと聞こえた。

「……フォル?」

 か細く、震えたその声は聞き覚えのある声だった。その瞬間、悟った。この女だ。この女こそ、俺がすべてを失っても救いたかった人。何かをしゃべろうとして、だが言葉がでない。どんな声をかければいいのかわからないのだ。

 ーー俺は、記憶を失っていた。

「あなた、自分が誰だかわかる?」

「……わからない」

 その言葉が女をひどく悲しませることを知っていたから言うのはためらわれた。

「そう……」

 かすかに思い出せるのは、女に話しかけているところだった。女は槍で攻撃をしてくる。それをかわし、地面に組み伏せた。女は泣いていた。

 それ以前の記憶がない。まるで黒く塗りつぶされたかのように見えない。

 再び記憶を追った。

 男が指を宙に這わせて、何事かを叫んだ。光が目に入る。その光から膨大な情報が溢れだしてくる。

 ーーーーっ!

 そこでは女が笑い、怒り、悲しみ、泣いていた。めまぐるしく流れる映像の中で、懐かしい思いがこみ上げてくる。ドアがけり破られるような音がした。ドタドタとたくさんの人が入ってくる。あぁ……。

「フォルは魔王じゃないわ。記憶も失ってる」

「そうみたいだね。魔王の覇気は感じられない」

「ずいぶんと早い目覚めだな。鎖を解かないのか?」

「あのままにしておけ。ではないと逃げるかもしれん」

「フォルさんっ。本当にありがとうございましたっ!」

 さっきまで静かだったはずの部屋は、一気に酒場なみのうるささになった。フィオが俺の手を握る。

「あなたの名前はフォル。これからよろしくねっ」

 どこかおかしな自己紹介だった。ふつうだったら訳がわからないだろう。

「よろしく、フィオ」

 ラファルガが持っていたコップを取り落とす。エルザだけは、にやにやとこちらを見ていた。

「ただいま、みんな」

 グレンが俺に見せた過去の映像。あれは、俺のすべてを一瞬で映した。だからこそ、俺は思い出すことができた。

 レティが何度もありがとうと言い始めた。ラファルガはレティの手を握ったまま、固まる。エルザはどこからか鎖を持ってきた。ティアスはそれを必死に止める。どこからかリュウが現れ、祝うように飛び回った。

 たくさんの色が飛んで飛び交い混じりあう。

 再び騒然とし始めた空間の中で、フィオと目があった。

「おかえりっ」

 太陽が飛び跳ねる。赤々と燃えるような髪が、目にまぶしかった。

最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。一応伏線は全然回収しきれていませんが、ここでいったん終わりにしたいと思います

。初めての投稿だったので、もしよかったら改善点や悪かったところ等のアドバイスをいただけたら嬉しいです。

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