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さらば

次で最後です。


「あら、ラファルガがやられたよ。びっくりだね」

 別に驚いていないような声でそんなことを言うティアス。

「へっ。こんな手を使ってくるとは。変わったな」

 ラファルガは倒れたまま動かない。どうやら天井を見ているようだ。

「これでカメリアの人たちが助かるね」

 フィオが安堵のため息をつく。そうだ。だが、魔物の村は助からなかった。すべての人が悪人だったわけではないのに。

「何でこんなことをするんだ。魔物の村だって、他にやりようはいくらでもあったのに」

 こいつらの答えはわかっている。その方が早いからだ。より早く、より効率的にいくのが勇者。小より大を救う為。小も大も同じ命なのに。

「君たちは何を勘違いしているんだ?」

 ティアスが驚いたようにこちらをみる。

「勘違い? お前等は消したんだろ? 何が勘違いなんだよ」

「僕たちは別に人を殺しているわけじゃないよ」

「人を殺してないって、じゃあ魔物の村は?」

「あそこはあまりにも凄惨だったから消しただけだけど」

「それならあそこにいた人たちはどうしたっ。まさかどこかにいなくなったとかでも言うつもりじゃないだろうな」

 なんだか混乱してきた。いやな予感がする……。まさか俺らがやってきたのはすべて無駄だったのかもしれない。

「一から説明しよう。僕らは風を使って早く移動することができた。だから、すぐにカメリアに向かったんだ。そこでグレンがいないときを狙って潜入。ガルーダをそそのかして王都へと向かわせた。これが魔物の村にいた集団だ」

 ティアスはゆっくりと要点だけを説明する。

「そうしつつ、君たちのことを見張っていた。今回の計画においてどう動くかわからなかったからね。そして君たちがラビテリアにくるのと同時に、エルザさんの力を借りたんだ」

 エルザの? エルザは最初から黙ったままこちらを見ていた。どうやらすべてを任せる気らしい。

「彼女は人の心が読めるからな。集団の中で、誰が無理矢理やらされていて、誰がこの状況を楽しんでいるかを探ってもらった」

 ラファルガが寝たまま言う。そろそろ起きないの?

「って、それ本当だったんかい!」

 ずっと嘘だと思ってた……。まあ、それにしては読めすぎていたから変だとは思っていたけど。

「貴様のは顔にでてただけだぞ? フォルよ」

 そんなばかな! 今のも読まれてたじゃんか!!

「見極めたあと、強制されていた旅人を解放。他の旅人は捕まえた。そのあとに魔物の村を消したんだ。カメリアの街も力が強くなりすぎたから街を解散させるために街自体を消すつもりだったんだよ」

「やっぱり俺らのしたことはただの邪魔だったのか……」

 ーーいや、違う。そもそもレティは止めたかったのだ。無駄ではない。だが、レティが覚悟を決めて何かをしないと結局このまま終わることになってしまう。

「ところでラファルガはいつになったら起きるのかな?」

 ティアスの問いにラファルガは、

「それがな、ちょっと打ち所が悪くて痛いんだ」

 はっはっはと笑うラファルガ。あの汚い戦法でいったために、受け身をまともにとれなかったのだろう。

「少し休めば大丈夫だと思うから、ちょっとまっててくれ」

「大丈夫ですか? 私でよければ治療をしますが……」

 レティが遠慮がちにラファルガの元へ近寄る。おおっ。いい感じ。

 これからも会えるんだ。ゆっくり近づいていけばいいのではないか。

「まだ聞いてないことがある。俺のことについてだ。俺は誰だ?」

 けじめをつけるためにもここで知っとかなければいけない。

「君は、ーーーー魔王だ」

 長い沈黙の後で勇者が口にした言葉は、空気全体に染み渡るようにじんわりと伝わってきた。今までずっと知りたかったこと。それがわかり、すっきりするようだった。心の中のつっかえがコロコロと転がり、奥へと消えていくようなそんな感じだった。フィオのほうをみる。その顔を見て、申し訳ない気持ちになった。フィオもやはりわかっていたのだ。わかった上で、一緒にいてくれると約束してくれた。それが申し訳なくて、でもうれしかった。フィオはこっちを向いて、

「これから、償えばいい。何かしたぶん、人を救えば、世界を救えばいいの。二人でならできる。きっとできるから……」

 ヴァルネスが王都の前で俺を飛ばしたのも、王都をでるときに空中へと飛ばした風も勇者たちの仕業だろう。俺は、魔だから。王都へは見えない壁があって入れない。進入するにはリュウのように、空から入らなければいけなかったのだ。

 あの暴走も魔王だから。イロを消せるのも魔王だから。そう考えればすべて納得がいった。

「何か音が聞こえないか?」

 次第に音は大きくなっていく。天井が揺れているのがはっきりわかった。

「これで終わりですよ。一緒にここに埋もれましょう」

 後ろで座っていたはずのグレンが不気味な笑い声で上をみた。

「自爆か……。まずいね、ラファルガくん」

「早く脱出しないとっ」

 ティアスはそれでも落ち着いていた。

「僕は今、罪人たちを閉じこめるのに大きな力を使っているんだ。だからイロは使えない。困ったね、ラファルガくん」

「あーもう、うるせぇ! 俺がやりゃーいいんだろ?」

 ラファルガは仰向けになったまま、手を天井へとかざした。すると崩落が収まる。音も消える。

 安心しきって、俺は周りをみるのを忘れていた。さっと影がラファルガへと近づく。何かの刺さる音がして、振り返った。ラファルガの上に覆い被さるようにのっかっているレティ。そしてレティの背中には槍が刺さっていた。槍をさしていたのはーー、フィオだった。考えるよりも早く、フィオの元へと駆ける。剣を抜いて、そっとあてがった。フィオは糸の切れた人形のように崩れ落ちる。槍も一緒に地面に落ちた。

「あたしが、あたしが……」

「フィオのせいじゃない。だから落ち着いて」

 フィオは俺の胸に顔をうずめるようにして、泣いた。フィオにかかっていた幻炎はまだ完全には解けていなかったのだ。

「この世にあるのは、絶望だけですよ!」

 グレンがその陰りのある瞳で俺をみる。

「グレン!! ふざけんなぁぁあああああ!?」

 俺は迷いなく剣を抜くと、グレンの元へといった。

「私が憎いでしょう? 許せないでしょう?」

 自分が、魔王へとなっていくような気がした。前にも感じた、どすぐろい何かが体の中を回り、この漆黒色の剣へと集まっていくような。

 殺せ、殺せ、殺せ。剣が俺を黒く染める。俺の意識と剣が混じりあい、境界が徐々に曖昧なものへと変わっていく。

「私は悪だ。あなたの大切な人をたくさん傷つけた。私さえいなければ、こんなことにはならなかった。私はいるべきではない。私は生きているべきではない。私を、……殺せ」

 その言葉に、すべて同調できた。今すぐにでも殺してやりたい。

 いや……、今すぐ殺してやろう。

「フォル、やめろ!? 罠だっ。奴はおまえを再び魔王として覚醒させるつもりだ! 剣に、呑み込まれるぞ……!」

 エルザの言葉など耳に入らなかった。とにかくこの男を殺したい。その衝動だけが俺を突き動かし、足を動かした。

「世話がかかるね」

 白刃がグレンを喰らった。

 一振り。それだけで跡形もなく、すべてが消える。そこに何かが存在したこと自体がなかったことになってしまったような、圧倒的な、次元の違うものだった。

「何をした!?」

 俺は目の前に現れたティアスへとつかみかかる。俺は感情を持て余していたのだ。すべてをこの剣に注ぎ、グレンへと解き放とうとした衝動は対象がいなくなったことで宙に浮く形となった。

「落ち着いて。あそこをみなよ」

 ラファルガに覆い被さるようにしているレティ。その背中の傷が痛々しかった。

「どうして、俺を助けた?」

 みるとレティのフードがはずれていた。ラファルガをかばったときに脱げたのかもしれない。

「ずっと、見てましたから」

 夜空にきらめく星空のようだった。蒼い幾重にも折り重なる星々。そしてすべての星に光を注ぐ蒼月。流れ落ちるようにして、ラファルガの顔にかかるレティの淡い蒼月の髪。一本一本の髪の毛が、それぞれ光り輝いているようにさえ思える。それはまるで流星群のように美しく儚かった。

「お前は……!」

 ラファルガの目が大きく開かれるのが見えた。レティの頬にそっと手をよせるラファルガ。

「ずっと探してたんだぞ……。てがかりはほとんどなかった。……俺は名乗ったがお前の名前は知らなかったから。まさか姫だったとはな……」

「約束、覚えていますか?」

「忘れるわけない。お前のことを忘れることは一度もなかった」

 いきなりの出来事であっけにとられていた。こんな形でレティの願いが叶うとは。

「やっぱりきれいだな。きれいな色だ」

 ラファルガは愛おしそうにレティの頭をなでる。その後、ゆっくりとレティの体を地面に寝かした。レティの傷は決して浅くはなかった。

「レティは助かるのか?」

「助からない。もう無理だ。一日保つか保たないかだな」

 エルザが素っ気なく言う。そのエルザの態度について注意をしようとして、やめた。今気休めにしかならないことを言ってもしょうがない。的確に正しい状況を伝えることで場の混乱を防ぐ狙いがエルザにはあったのだろう。それでも、何かいやだった。せっかく会えたのに。約束を忘れていないってわかったのに。

「一日で王都まで連れていけば、……助かる。王都にいけばイロが活発に使えるようになるから」

 フィオが泣きはらした顔を賢明にあげて、言った。けど、それは無理だ。ここからいくらがんばっても五日はかかる。

「ラファルガの風を使えば……」

「確かに僕らの風を使えば王都までぎりぎり一日でいける。けど、ラファルガにそんな力は残っていないと思うよ」

「すまない。魔物の村や移動でだいぶ力を使っちまった。王都までは、力が保たない……」

「ティアスは?」

「僕もできないよ。今罪人共を閉じこめているからね。それを解くわけにはいかない。この人たちは強い旅人だ。ふつうの物理的な檻では逃げられてしまうんだ」

 ティアスも無理となると、いよいよ手段がなくなってきた。

「あたしのせいで、レティにこんな目を……」

「フィオは悪くないですよ。だから自分を責めないで」

 もう絶望的だった。

「いこう。ここもじき、沈む」

 ラファルガがレティから離れる。

「おい。あきらめんのかよ!」

「どうしろというんだ。もう無理だと結論がでただろ」

 ラファルガの言葉には自分に対する怒りが含まれているように感じた。自分の弱さを認めながらも、その弱さを克服しようとしない。そんなのくそだ。

「考えろよ。どうして手に入れたい物をそんな簡単にあきらめるんだ!」

 そうだ。考えろ。すべてがうまくおさまる、最高の方法を。

「世界には、できないと決まっていることがあるんだよ。願いが叶うなんて甘いんだ」

 願いが叶う? 願い。そうだ、俺は過去に願いそして今がある。

「叶うよ。レティを助ける方法はある」

 俺の確信めいた発言にラファルガの体が反応する。

「どうやってだ……?」

 その声は震えていた。そこで初めてラファルガもレティの助かる道を探していたことを知る。

「ティアス、俺は何かを代償にすれば願いが叶うんだな?」

 夢でみたこと。俺はすべての記憶を代償にとてつもない何かを願ったのではないだろうか。

「そうだね。確かに君はその剣に代償を捧げることで、その代償に見合った願いを叶えられる。けど、何を代償にするつもりだい? 君の持ち物じゃないといけない」

「記憶だ。今まで旅をしてきた、その記憶」

「本気か。すべてを忘れてしまうということだぞ」

 エルザはまじまじと俺の顔を見つめる。これはもう決めたことだ。変えない。

「できなくはないけど、せいぜいラファルガの力を回復する、くらいの願いしか叶わないよ」

 すべての記憶を代償にしても、叶うのはその程度。

「お前はイロが使えれば、レティを王都まで連れていけるのか?」

 でも、それでもいい。助けるって決めたから。

「這ってでも、連れてくさ」

 まるでそれはバトンのようだった。死ぬ気で走って、次の走者にすべて(バトン)を託す。

「かっこわるいな。俺の力じゃあ、レティの傷を癒すこともできない」

 ラファルガに託すだけだ。

「それがフォルがフォルである理由だ」

 エルザはいつもの残忍な顔で笑った。



「この剣が何かはわかるかな?」

 俺の周りを囲むようにして皆がたつ。その円の中心には俺とラファルガがいた。

「悪魔、だよ」

「悪魔? 悪魔の剣が魔王を呼ぶのか?」

「これは概念としての悪魔。すべての悪魔というのかな。その悪魔に代償を捧げると、もしその代償が願いに見合っていれば願いが叶う。そして戦いが始まる」

 じっとりとした空気が、のどにへばりついてくるようだった。

「これは願いとは無関係だ。悪魔は願いを叶えてくれるけど、それと同時に君を魔王にするために闇へと引きずり込もうとするんだ。戦いに負ければ魔王になる。絶望をまき散らし、再びあの悲劇が起こる」

 数百年前に起こったといわれるヴァルネスから聞いたあれか。

「悪魔に勝てば代償は払われ、君は記憶を失うだろう。そしていつ目覚めるのかわからない、眠りにつく」

「それって悪魔に負ければ代償が払われないということか?」

「そうだ。悪魔が肩代わりしてくれて君は記憶を失わない。だからもし君が起きていたとき、記憶が残っていれば君は魔王になった、ということだ」

 どちらにしろ、最悪。俺が助かることはなさそうだ。魔王になるということは、暴走して破壊の限りを尽くすということだろう。魔王になるわけにはいかない。

「本当にいくの?」

 フィオが問いかける。憂いのあるその顔はそれでも太陽のように美しい。

「大丈夫。ちゃんと戻ってくるよ」

「伝説の中のヒーローっていうのはヒロインをかっこよく救うものよ……」

 フィオは泣きじゃくりながら、言った。

「どうして、あたしじゃだめなのかな。あたしが全部いけないのに」

「そんなことない。元々は俺が悪いんだ。それにレティが死んだらフィオは一生苦しみ続けるだろう?」

「せめてっ、せめてあたしも一緒に……」

「レティにはお前が必要だ。大丈夫。俺はきちんと戻ってくる。悪魔になんかやられない。俺の意志の強さを見せてやる」

 そういって笑う。できるかどうかわからないが、せめてフィオの前ではかっこつけたかった。

「フォルさん。私は大丈夫ですよ」

「そんなこというなよ」

「でも、本当に大丈夫です。もう私の夢は叶いました」

 レティはラファルガをみて言う。

「好きな人に気持ちを伝えられましたから」

 ラファルガは何も言わずに顔を背けた。

「おいっ、ラファルガ」

 肩をつかもうとしたら、手を振り払われる。

「ははっ。ひでー顔だな」

「うるせぇ」

「だから私は……」

「それ以上言うな。レティがいなくなったら、みんな悲しむ。俺は死ぬわけじゃないよ」

「記憶を失うってことは……」

 勇者は何かを言おうとしたが、それを止める。わかっている。それくらい。記憶を失うということは、自分を形成していたすべてがなくなるのと一緒。死ぬのと変わらない。姿形を受け継いだ別人だ。

「もし君がこの記憶を失いたくない、大切なものだと思えば……。その思う分だけ、その価値が高まる。だから、今ここで話している記憶は失わないかもしれない。もっと少ない量の記憶だけで、すむかもしれないよ」

「気遣いありがとう」

 だがこの記憶が残ったとしても、次目覚めた俺にとっては意味がわからないのだろうな。

 つまりそれは、気休めにもならないということだ。

「それじゃあ、始めようか。その剣を自分の胸にさしてくれ」

 言われた通りに剣を抜いた。まがまがしいほどのこの黒色に愛着すら覚える。

「まかせたぞ」

 ラファルガが肩を軽く殴る。それだけで伝わった。一気に剣を突き刺した。不思議と痛みは感じない。

「エルザ、俺は以前何を願ったのかな?」

 エルザは驚いたようにこちらをみた。だがすぐに残忍そうな顔に戻ると、

「知らんな。世界征服でも願ったのではないか?」

 ははっ。そりゃーいいな。叶うわけない願いで、すべての記憶をなくしたのか。

「フォルっ。あたし、待ってるから! ずっと、ずっと待ってるから! だから、……」

 視界がかすむ。どんどん黒く染まっていく世界のなかで、赤く輝く太陽をみたーー。

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