女神
これも追加です
すみません
とても広い部屋だった。左右にはずらーっと重そうな甲冑が並び、赤い絨毯が一面にしきつめられている。そしてその部屋の一番奥に、たくさんのリュウとともにそれはいた。
「あなたが女神か」
それは答えない。ここからは薄い布一枚でへだたれており、座っていることだけが影でわかった。
「いかにも。わらわが女神じゃ」
影はぴくりとも動かない。ただリュウがこちらを見つめるだけだった。
「勇者と三人のイロの代表者と共に、この世の絶望の根元であった魔王を倒しこの国をつくった、か。何百年生きているんだ?」
「すまぬな。そんな事を話しにわざわざ来てもらったわけではない」
後ろでカチャリと音がした。
「フォル」
フィオがこちらを呼ぶ声がしたが、振り返らない。今、女神のいるところから視線をはずしたら、負けてしまうと思ったのだ。
「わらわはいなくなった、とあるものを探している」
その声には不思議な魔力がある気がした。ひきよせられるように前に進み出る。
「それは人間?」
ふんと女神は笑った。それがあまりにも人間臭くて驚く。
「人間。そう人間と呼ぶものかもしれんな。だが果たしてあれは人間なのか?」
自問自答するかのように女神はつぶやいた。
「フォルっ」
フィオに背中を叩かれた。
「何すんだよっ」
後ろを振り向くと目の前に甲冑があった。
違う。
甲冑に囲まれていた。その手には剣が握られており、それをこちらに構えている。
「どうゆうことだ」
女神のほうをみる。女神はこちらの様子がまるでみえるかのように言った。
「そんな顔をするではない。そこの娘よ。抵抗しても無駄じゃ。そなたらでは倒せぬぞ」
フィオがぎりっと歯を食いしばる。その手はちょうど護身用の短剣を取ろうとしていたところだった。
「手荒なまねをするつもりはない。ただ正直に話してほしいのじゃ」
「同じことをいって俺を問答無用で吹っ飛ばした奴がいたけどなっ!」
「それは知らぬ」
それにしてもなぜ俺に聞くんだ? 記憶ないから何も答えられないぞ……。
「がさつで野蛮。何かとすぐ、物事を戦いで決めようとする。急にいなくなる。笑顔が猟奇的」
背筋をなにか冷たいものが伝う。それって……、
「もしもこういう奴をしっているのなら、あまさずそいつについて知っていることを教えてほしいのじゃ」
「フォルさん、まさかそれって……」
「知っているのじゃなっ!」
レティの言葉に女神がすぐさま反応する。
「教えるのじゃっ。あやつは今、どこにいる!?」
20体あまりの甲冑がまるで女神の感情を反映するかのようにさらに距離をつめてくる。
「えっと、それは……」
教えるべきなのか。迷って後ろをみると、フィオがゆっくりうなずいた。
「少しくらい話しても許してくれるわよ。だってあなたとあたしたちの命がかかってるんだもの」
決心して口を開こうとした。パリーンと何かが割れる音がして、キラキラした何かが上から降ってくる。
「これは……」
手にとるとそれは何かの破片だった。不思議に思い、上をみる。
「エルザっ!」
みると割れた窓の横にエルザがたっていた。
「教える必要はない」
エルザはまっすぐに女神のいるほうをみる。
「ほう。今はエルザと呼ばれておるのか」
「逃げるぞ、フォル」
エルザは女神を無視して言った。
「わらわのそばにいてはくれぬのか?」
「なんどいったらわかる」
エルザはめんどくさそうに女神に顔を向けた。
「そうか、残念じゃ」
いったいエルザは女神とどういったつながりなのだろうか。
「では、これを使うか」
女神のそばからでてきたのはロープ。それは身をくねらせ、蛇のようにこちらに寄ってくる。
「うわっ。何あれ気持ち悪い」
フィオがいやそうな顔でそれをみた。
「これはすねーく君2。どんなものでも必ず捕まえるというすごいやつじゃ」
女神はうれしそうにいった。何も聞いていないのにベラベラとしゃべり始める。
「さらにすねーく君1の時にはできなかったことができるようになった。捕まえる対象がその場にいなくても一つだけ条件を指定してそれにあった者を捕まえることができるのじゃ」
「それはすごいですね」
レティが素直に感心する。
「じゃあ名前を指定すればいいんじゃないか?」
俺の問いに、
「名など意味のないものじゃ。それはいつ変わるかわからない。曖昧で、不確定で、いつも混沌としておる。そうじゃろう、エルザよ」
妙にエルザというところを強調したな。
「だからわらわが指定するのは、わらわのす……す…………」
女神はしきりをはさんだ向かい側で、じたばたしながら何かを言おうとしてる。かなり苦しそうだ。
「わらわの、す……すきな……」
「早く逃げるぞ、フォル」
エルザは女神を無視する。
「でも囲まれてるよっ」
甲冑たちは逃がしまいとこちらをにらみつけている。
「中身は空だ。腰のつなぎの部分を狙えっ」
試しにひとなぎ。横に払った。甲冑は簡単にバラバラになる。
「すぐ復活するぞ。いそげっ」
剣を使い、窓目指してどんどん甲冑を斬る。
「フィオたちはっ?」
「知らん。私が迎えにきたのは貴様だ」
後ろを振り返ると、
「なにやってんだフィオっ」
フィオは立ち尽くしていた。どこをみるでもなくただ空をぼんやりと眺めている。
「あたしはいけないわ」
ぽつりとつぶやいた。甲冑は抵抗している俺だけを狙う。それをよけながらフィオの元へ急いだ。
「こんなところで道草くってていいのかよっ!」
だがその声はフィオには届かない。
「世界を救うんじゃなかったのかよっ! 人々を助けるんだろ?!」
「でもっ。あたしは、結局救えなかった。道端にいた人を見捨てたっ」
それは王都にむかっていたときのことをいっているのだろう。フィオはそれをずいぶんと気にしていたのだ。
「世界を救うとかいっておきながら。目の前にいる人すら救えない。あたし一人じゃ、こんなもんなんだっ!」
「じゃあ、俺が一緒に救うっ。フィオのことも、この国も。世界だってなんだって救ってやる!!」
甲冑をけちらして進む。
「だからっ」
ついにたどり着いて、フィオの手をつかんだ。だが、手を払われた。
「ーーっ」
フィオは泣いていた。ポロポロと涙が床に落ちて赤い絨毯を濡らす。
「あたしっ。あたしもいっていいの?」
「一緒に、行こう」
手を差し出す。
「レティは?」
「それなら上だよ」
俺が指さした方向にフィオが目を向けるとレティとエルザが見える。
「フィオ、早くいきましょうっ」
レティがたのしそうにいった。
「す……す…………」
女神はまだやっていた。
「ほら」
再び手を出す。今度はそっと握ってくれる。
「いくぞっ」
甲冑をけちらして進む。出口を目指して。次の入り口に向かって。窓にたどり着くと、まずフィオとレティが外にでた。エルザがそれに続いてでようとすると、
「くっ。仕方あるまい。すねーく君2よ。わらわが指定するのは黒髪じゃっ」
女神はふんぎりをつけたのか高らかに言う。その言葉にいやな予感を感じた。すねーく君2は俊敏な動きでこちらに向かってくる。
「さすがだ、フォルよ。皆を逃がすため、ここに残って足止めをしてくれるのか。ごくろうだ」
エルザは最悪の笑顔を浮かべて俺を蹴る。そのまま落下。再び赤い絨毯に足をつけてしまった。
「意味はないぞ。わらわが指定したのは黒髪。黒髪は今、勇者とそなたしかいないのであろう?」
エルザはなにもいわずに去ってしまった。すねーく君2はまっすぐ俺のほうにやってきて、
「捕縛シマシタっ。条件ハ黒髪っ」
そのまま俺をその体(?)で締め付ける。
「でられ、ないっ」
その力は強く、完全に捕まってしまった。
「そなたはいったい……」
ひとつの甲冑がこちらに歩み寄り、フードをはがす。
「ほう」
女神は感心したようにいう。どこからみているのか。たくさんのリュウがこちらをみているだけだ。
「そなたか……」
「俺のことを知っているのかっ?」
「すまないがわらわが教えてやれることはない。止められておるのでな」
すねーく君2がほどける。
「え?」
「行け。あやつ以外に興味はない」
女神はそういうと本当に興味をなくしたように黙ってしまった。甲冑も動かない。
窓までいくと、ふいに風がふいた。薄い布が風で揺れて、一瞬女神が見える。
世界が白に変わった。
リュウに囲まれていたのは白装束に身をつつんだ少女。白い髪、白い肌、そして透き通るように透明な金色の瞳。何色にも染まっていないきれいな色。
ーー子供?
数百年生き続けていると聞いていたから、もっとしわくちゃのばあさんだと思っていた。だが、その見た目は子供にしか見えなかった。透き通った瞳と目があう。だが、その目をみただけでこれが女神だとわかった。ありとあらゆるものを全部見ているような目。自分のすべてを見透かされそうで、怖くなる。一瞬しか目があっていないのに、まるで何年も見つめ合っていたかのようなほど長く感じられた。
ふと、女神が口を開く。
「名前など、愚かなものよ。何の意味もない飾りにすぎないというのに。名前をみるばかりに、物事の本質を見失ってしまう。ーーそなたはどうじゃ?」
答えなど見つからない。その言葉の意味をかみしめる間もなく、俺は走り去った。
……白色とは何色にもなれない悲しい色なのかもしれない。ふと、そんなことを思った。
「遅れてごめん」
狭い路地を駆けて、エルザたちと合流する。
「それよりもまずいわ。あたしたちが逃げ出したのがばれたの」
「どうして?」
走りながら話す。どこかで誰かの怒鳴り声が聞こえた。俺たちを追っている奴らだろう。
「エルザさんが盛大に暴れましたから……」
俺がいない間に一戦あったらしい。エルザはどこ吹く風で前を走っている。
「それでこれからどうするんだ?」
「西門からでる。勇者はそっちにいったからな」
「フィオたちはそれでいいの?」
「大丈夫。あたしたちも勇者を追っかける必要があるから」
それなら大丈夫だな。……大丈夫なのか?
「あっ」
ちょうど狭い路地から開けた場所にでたところにヴァルネスと兵士たちが道を立ち塞ぐようにいた。
ーー待ち伏せされていたか。
「ここから先は通さんぞっ。お前等二人を僕の姫、誘拐の罪で捕縛するっ!」
僕の姫って……。横でフィオが顔をしかめたのが見えた。
ヴァルネスの顔は怒りでゆがんでいた。燃えるような瞳が、闘志をたぎらせている。
「よくも我が妹をたぶらかしてくれたなっ!」
「違う、聞いてくれっ」
俺が弁解をしようとしたが聞いてはくれない。
「お前らぁっ! 手を出すなよ……」
暗い、低い声で言い放つ。最初に会ったときと、雰囲気が変わっていた。
「ちっ。やるしかないか」
剣を抜く。こうなったら強行突破するしかない。
「無茶よっ!」
フィオが叫んだ。だが、その声を無視して一歩前に進み出た。ヴァルネスも同じように前にでる。
「わかってるだろうな? フォルくん」
「そうですね、ヴァルネスさん」
しばし、にらみ合いが続く。緊張が体全体を伝う。剣を持つ手が震えた。
「いくぞぉぉっ!」
ヴァルネスが先に動いた。その手には何も持っていない。
「でたっ、ヴァルネス隊長の妹愛だ!」
「妹のためなら世界がどうなってもかまわないといっていたほどのもんだぞっ」
「あれが噂の……」
兵士たちは皆が離れ、こちらの様子を伺っていた。気づいたら目の前にヴァルネスがあった。
拳が迫る。それを反射的に避けた。そのまま、二回、三回と拳が繰り出される。ヴァルネスの回し蹴りをかがんでかわす。ヴァルネスがバランスを崩したところで俺は反撃に移った。ヴァルネスはフィオの兄だ。昏倒させるために、剣の腹の部分で殴る。だが、ヴァルネスはそれを後ろに大きく跳躍することによって避けた。
「ヴァルネスさん、そろそろいっちゃってくださいっ!」
地味な戦闘にしびれを切らした一人の兵士が言った。
「フォルっ、気をつけて。あたしの兄は、ライデンよりも強い」
「ははっ。忠告ありがとっ」
ライデンより強い? それはいわなくてもよかったんじゃないか。だってそんなことがわかったってただ悲しくなるだけだもん。そんな化け物、勝てるわけないじゃないか……。
「ふっ。昔はお兄ちゃんって呼んでくれたのにな」
ヴァルネスは悲しそうにフィオをみた。
なんか可哀想だな……。
ヴァルネスはその視線を俺に移す。その目には憎しみの炎が宿っていた。
「僕の妹をたぶらかして、僕から妹を奪った外道めっ」
元からヴァルネスの物では無かった気がするが……。
「ここを通りたくば、僕を倒すんだなっ!!」
はっはっは、とまるで悪役のように笑うと、ヴァルネスは目をつぶった。その手に炎が集まり始める。まばゆい光に照らされ、一瞬ヴァルネスが見えなくなった。
「きたれ、我がセイレイ。我が女神っ!」
女神、という言葉にお腹の中がもたれるような変な感じがした。白い髪、白い肌、何を考えているのかわからない子供の姿をしているあの女神を思い浮かべる。あの女神をセイレイにしたって言うのか? 何を考えているのかわからない、あの女神を? 次第に大きくなる炎は小さな子供のようなものへと、その形を変えていく。やはり、あの女神を……。
「きたっ。妹への一方的な愛を力に変えて編み出した、一方通行の炎とおそれられているヴァルネス隊長のイロだっ」
「武器を持たず、イロのみの攻撃に特化したというやつか」
「まじかよ。ついにあれが……」
兵士の歓声とともに、ヴァルネスのセイレイがじょじょにその姿を露わにする。
「すごい……。本当に、ーー妹が大好きなんだなっ!」
それは、フィオを完璧に再現したものだった。10歳くらいの幼少期の頃のフィオだろう。ところどころに幼さが残っており、今にも泣きそうな顔だった。
「なんでこんな幼いんだよ」
だが、ヴァルネスは悲しそうに、
「フィオが僕に心を開いてくれていたのはこの頃までだったんだ。大きくなるにつれて深刻なお兄ちゃん離れが……」
「なんてけなげなんだ、隊長はっ!」
「うぅ……。俺、感動しましたっ。一生ついていきます!」
「なんてこった……」
かなり怖いな。セイレイは完璧にイメージできないとその力を発揮できない。最近フィオの複雑な心を理解するのが難しくなったから、今のフィオをセイレイにできないのかもしれない。
「さあ、フィオ。奴を倒そう」
愛おしげに自分のセイレイに話しかけるヴァルネス。はたからみたらかなりぞっとする光景だ。だからフィオに嫌われるのではないか?
「どうしてフィオを連れていくんだ?」
心底不思議そうにヴァルネスは聞いた。君には関係ないだろうとでも言うように。
「フィオがそれを望んでいるからだよ!」
ガルたちといたとき、フィオは言っていた。世界を救いたいって。
「何を言う。フィオはここにいるのが一番幸せなんだよ」
当然のように言う。本人のことを何も知らないで。何も考えないで。
「ふざけんなっ。お前は、お前はフィオの本当の気持ちを聞いたことがあるのかよっ!! フィオは、旅をするんだ!!!」
「ふざけているのは君だよ。それは本当にフィオが望んでいることなのか? フィオがそういったのか?」
「…………」
確かにフィオの口から旅をしたいとは一度も聞いていない。
もしかして俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
フィオのことを知ったように勘違いしていたのかもしれない。
「でも、それは……」
「ほら。フィオはそんなこと、一言もいっていない。君がいったことをそのままお返しするよ。君はフィオの本当の気持ちを聞いたことがあるのかい?」
不敵に笑うヴァルネス。俺は言葉がでない。フィオはずっと俺のことを嫌っていた。本当はこんな旅をしたくなかったのだ。剣をもつ手が震える。今になって迷ってしまった。望んでないことを無理矢理やることは、助けることにはならない。
「ち…………う……」
「何だって?」
ヴァルネスが問う。今のは俺じゃない。後ろから……。
今のは、
「ち……が…うって、違うっていってるでしょーがっ!!」
フィオが大空に、もう闇に包まれた空に向かって、闇を吹き飛ばすように声をあげた。
「あたしは、旅がしたい! それで、人を救いたい! 世界を救いたい!! だからっ!」
フィオがありったけの声を闇に放った。それは炎となり、闇をかき消す。
「倒してっ、フォル!!」
それと同時に俺の心の中にあったもやもやも一緒に消えた。
「まかせろっ。俺が、フィオを助ける! そんでフィオは世界を助けろっ!!」
剣をぎゅっと握った。体に、力がみなぎるようだった。
「それでも僕には勝てない」
ヴァルネスのセイレイが、宙に浮かぶ。その体から、無数の槍が放たれた。
「ーーっ」
それは数え切れない数の炎の槍。炎の槍は、一度空に広がる。すべてが俺をとらえていた。
「いけ」
すべての槍がこちらめがけて一直線につっこんでくる。俺はそれを無視して、ヴァルネスの方へ走った。地面を蹴って、低い姿勢で地を駆ける。
それはまっすぐ。
そのまま、跳んだ。すべての槍を無視して、セイレイをきった。
すると、炎の槍も一緒にセイレイが消えた。
「そんなっ?!」
ヴァルネスは、何よりもセイレイが消えたことに驚いた。否。自分のセイレイ(フィオ)が消えたことに驚いた。ヴァルネスはセイレイ(フィオ)のいたところに手をのばす。
消えてしまわないように。
自分のフィオが。力の源が。原動力が。愛が……。
それにかまわず、首に手刀を落とした。
「隊長っ!」
こちらに目もくれず、兵士たちがヴァルネスに駆け寄る。
「いこう」
フィオは大きくうなずいた。
「これでよかったんだろうね」
「ああ、ごめん。イヤな役をやらせてしまって」
声は倒れたままのアカから聞こえた。白剣はそれに申し訳なさそうに謝る
「かまわないよ。まあ、またあの子には嫌われたけどね」
「ふん。前から嫌われていただろ」
翠色の目のレイピアが暗い路地の壁に背中をつけて床を睨む。
「協力してもらったのにそんないいかたしちゃ失礼じゃないか」
「大丈夫だよ。言われなくてもやるつもりだったし」
さっきまで倒れていたはずのアカが、ぴんぴんした様子で立ちあがった。その横にはフードをかぶった二人組がいる。
「あいつには失望したよ。お前が言うからすごい奴だと思っていたのに、ただの甘いガキだった。……それよりもあいつは何をしているんだ?」
「僕もわからないよ」
「出口とは逆方向だ。僕と戦ったあとだというのに、彼も元気そうだね」
三人がみているのは一人の獲物だ。それは狩るためか、それとも巣をみつけるためか。走り続ける獲物を追い続けている。獲物が壁に到着した。それは私たちが越えられない壁。かなり高い。羽根があるからぎりぎり通れるが、それがないと考えたらぞっとする。獲物は壁にぶつかった。ほう。同族か。いったい羽根のないものがどうやってこの鳥かごの中に入ったのか。
「助けるのか?」
「そうだね。意識を集中させて。ゆっくりやれば大丈夫」
レイピアが手をかざす。すると壁に激突した獲物が、宙に浮かんで、そのまま深い青空へ飲み込まれていくようにどんどん高くあがっていった。
あれは、なんだったのだろうか?
そう疑問に思いつつ、やることをやってフィオたちとの待ち合わせ場所につく。そこには、ドレスから動きやすそうな服に着替えたフィオたちがいた。
「あれ? その服はどうしたの?」
「なぜかここにあたしたちの服と、旅の装備一式がおいてあったの。それよりあなた、大丈夫なの?」
フィオがこちらに駆け寄る。ヴァルネスが気をきかしてくれたのかな? ってそんなわけないか。自分でいって、自分の考えに苦笑する。
「ずいぶん遅かったではないか」
エルザが寝ていた体を起こした。
「何をしていたんだ?」
「ちょっとね」
急用を思いだし、少し東の方へ一人で行っていたのだ。ここは西の出口だから正反対で、だいぶ時間がかかってしまった。
「それよりも、フォルさんかっこよかったですね!」
レティが無垢な笑顔で言う。だが、その目はあきらかにフィオをみており、何がいいたいのかがわかった。
「何で二人ともこっちをみるのよっ!」
まずい。俺もいつのまにかフィオをみていたらしい。体は正直だ。俺もフィオが何をいうのかが気になっているのだ。フィオは顔を赤らめて、
「ってゆうか、フォルは恥ずかしくなかったの? あんなことをいって」
……。うわぁあ。さきほどヴァルネスにいったことを思い出す。
俺が助けるって……。
それに女神のときも色々いった気がする。
何言ってんだよ。今考えたらだいぶ恥ずかしいぞ、これ。
「えっと、じゃあ知り合いからはじめましょう。……よろしくお願いしますっ」
おそるおそる手を差し出した。拒絶されるかもしれない。そんなことを考えたら、怖くなってくる。けど、手を差し出した。一歩前に進む為に。
「あたし、知り合いになんかなりたくないわ」
え……。
震えていた俺の手をそっと握るフィオ。
「友達から、よろしくお願いします」
その手を今度はぎゅっと握り返した。




