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女大公様とわたし  作者:
女大公様とわたし
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女大公様のご不調

 ここ何日か、女大公様の体調が不安定であらせられる。

 いつも早起きのエレオノーラ様が侍女に起こされてもぐずぐずとされていたり、朝食をお残しになったり。

 かと思うと、普段以上にお召し上がりになったり。

 執務は普通にこなされておいでのようだが、疲れていらっしゃるのか、間に挟む休憩の時間が増えたように思われる。また、休憩の時も、ソファに体をお預けになってうたた寝していることがしばしば見受けられる、らしい。


 反面、魔法の練習の方は絶好調だ。

 あまりに好調なので、集めた魔力を解放せずに、小さな魔法を発動させる呪文を試してみたら、あっけないほど成功した。


「やればできるじゃないですか」

 指先に灯る明かりを見て呆然としているエレオノーラ様にそう声を掛けると、エレオノーラ様が笑み崩れた。

 子供のように邪気のない笑みだった。

 ……ああ、いつも浮かべていらっしゃるあれは、やっぱり『作った微笑』なのだ。

「次は明かり以外にも挑戦してみましょうか。……何がいいでしょうかね。水? 炎?」

 そう言って次の課題を提示すると、エレオノーラ様の頬がぷうっと膨れた。

「せっかくいい気分でいるのに水を差すなんて」

「コツを掴まれたようですので、今のうちにサクサク進めましょう。このところ体調がお悪い事も多いみたいですし。……今は大丈夫ですか?」

 大丈夫です、と仰ったにもかかわらず、その日の午後おそく(とはいえ、普通の貴族には『宵の口』と呼ばれる時刻だが)、ついにお倒れになり、医者が呼ばれた。

 調子に乗って無理をさせてしまっただろうか、と心配で、その夜は寝付けなかった。






「ご懐妊だそうです」

 翌朝、朝食の席でいきなりジリアン大公家の家令がそう切り出した。ちなみに、ここは使用人用食堂だ。広さは主食堂と同じくらいあるが、内装は殺風景だし、給仕は自前だ。なので目の前に座っている家令も食事のトレイを前にしている。

「…………誰が?」

「エレオノーラ様が、です」

 改めて言うが、エレオノーラ・ジリアン・ゲオルギア、ジリアン女大公様は未婚でいらっしゃる。

 だが、ゲオルギア王家は婚外子を不埒なものとして差別していない。

王の婚外子(対外的には嫡子とされるが)が次代の王として立つのはざらだし、生涯未婚のまま、何人もの子を産んだ女王もいるくらいだ。

 とはいえ、エレオノーラ様がご懐妊、って。

 彼女は身柄が家(生まれ育った家ではなく、大公としての公邸だが)に戻されているとはいえ、まだ学生だ。卒業するまでは、婚約はともかく婚姻はできない。……ということになっている。

「……それは、おめでとうございます、と言うべきでしょうか?」

「お心当たりは?」

「…………ないこともない、ですね」

 おそらく、あの夜会の夜、だ。

「さようでございますか。……そういう事ですので、しばらくエレオノーラ様のスケジュールは体調次第、ということになりますので、ご承知おきください」

 そう言って彼は食事を再開する。

「……わかりました」

 おめでとう、とは口にしたものの、心中は複雑だった。

 ――これで卒業は遠のいたか。

 妊娠すると体調が不安定になり、魔法がうまく使えなくなる者が多い、と聞いている。せっかく魔法が使えるところまでこぎつけたのに、残念だ。

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