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女大公様とわたし  作者:
女大公様とわたし
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女大公様と夜会

 女大公(エレオノーラ)様は夜会が苦手であらせられる。

 夜会というものは夕刻から深夜にかけて開かれるものなので、夜に弱いエレオノーラ様が苦手とするのは当たり前のようなのだが。


「夜会が朝から始まればいいのに」


 とは、エレオノーラ様がとある夜会の支度中に零されたセリフだそうだ。

 そう。エレオノーラ様は夜会そのもの(というか夜会で行われるようなあれやこれや)は決して苦手ではないらしい。だが、朝から始まるのなら、それは『夜』会ではない。


 たしかに、エレオノーラ様はダンスはお得意とされておられる。

 相手を飽きさせないテンポの良い会話も上手でいらっしゃる。

 明るい時間であれば、だが。


 なので、エレオノーラ様は昼間のお茶会にはよく出かけられる。また自分でもよくお開きになる。

 お茶会の客は、八割方女性なので、ここで殿方との出逢いはあまり期待できそうにないが。社交の目的はそれだけではないそうなのでエレオノーラ様がそれでいいならまあいいか、とも思う。

 わたしは王立魔法学院の教師であって、大公家の使用人ではないのだから、エレオノーラ様のご結婚にやきもきする必要はないはずだ。ジリアン大公家の邸に馴染んでしまったせいで、つい流されそうになるが。


 という訳で、エレオノーラ様はよほどのことでない限り、夜会の出席はお断りしている。もちろん晩餐会もだ。食事の最中に居眠りなど始めたら……目も当てられない。


 王宮で国王主催で開かれる夜会は、その『よほどのこと』のひとつだ。

 なのでエレオノーラ様は、午前中の執務は最低限で済ませ、(もちろん魔法の練習は休みだ)昼食を軽く摂って、ドレスや装身具の指示を出した後、仮眠を取っていらっしゃる。

 エレオノーラ様の衣装室では、侍女やら小間使いやらが大わらわだ。

 邪魔にならないように図書室にでも避難していようと廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。






 西の空に日が沈んでゆく。

 薔薇色に染まった雲が美しい。

 きっと明日も良い天気に違いない。

 そういえば、学院の空は周りを『庭園』で区切られるから、こんな風景は見えなかったなあ。


 普段よりも窮屈な服を着せつけられて、ぼんやりと窓の外を眺めていたら、支度を終えたエレオノーラ様が下りていらした。

 玄関ホールに姿を現したエレオノーラ様は、その夕映えの色のドレスを纏っていらした。ドレスの右袖がないのは、彼女の【金瞳】が右の肩甲骨の上にあるからで、彼女の盛装用の服は、みな右の背中が開いている。髪型もそれに合わせて結い上げられ、決して【金瞳】を隠さないようになっている。……冬はとても寒そうなのだが。

 エレオノーラ様が夜会にお出になるのはおよそ半年ぶりなので、化粧にも気合が入っている。きらきらしい宝飾品と相俟って、大変に、お美しい。

 これならばいささか薹が立っているとはいえ、ほかの未婚の令嬢に交じっても見劣りはしないだろう。

 ……いや、王族なのだから、見劣りしては困るのではないかと思うが。






 ……ところで、どうしてわたしまで夜会に駆り出されるのでしょうか?

 そう尋ねたら、エレオノーラ様はつんとあごを聳やかせてこう仰った。

「だって、お兄様も弟も、結婚してしまいましたのよ。わたくしが寝入ってしまったら、誰が邸まで連れ帰ってくださるんですの?」

 ……寝入る前に引き上げてくればいいだけなのに。

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