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第五話

 朝餉を摂った龍騎は家人に見送られ、愛馬で塾へと向かった。斉家と少し離れた場所にある塾には、(うまや)が隣接しており、龍騎はいつものようにそこへと向かう。

 龍騎が馬を繋いでいると、彼の方を後ろから叩く者があった。

「よう、秀才。いつも早いな」

 振り返った先でニカッと笑い手を上げたのは、龍騎と同じ塾生の葉芯(ようしん)だった。

彼とは一年から何だかんだ一緒にいることが多く、二年になった今では互いに親友として付き合っている。

「おはよう、芯。けどその呼び名は辞めてくれ」

 にこやかに、けれどきっぱりと言った龍騎に対し、芯は気にする風もなく笑いながら彼の肩をバシバシと叩いた。

「良いじゃないか。嘘は吐いていないだろ?」

「いや、秀才なのはお前のほうだからな。学年一位なんだし」

 教室へと歩き出しながら、芯は首を傾げた。

「でも俺はあんまり勉強してないぞ? 何で俺が一位なんだかサッパリだ」

 芯には全く悪気はないのだが、こうした発言により彼はいろんなところに敵を作る。この一年、彼と密接に関わってきた龍騎には邪気のない発言が逆に心地良くもあるのだが、その点においての心配は尽きなかった。

「そういうのを秀才って言うんだよ。俺は芯が羨ましいけどな」

「そうか? けどそう言う秀才君だって、学年二位だろ?」

 芯の言葉に龍騎は苦笑を漏らす。確かに彼は学年二位ではあるが、芯の一位には到底敵わないと感じているためだ。

「とにかく俺は秀才じゃないよ」

「真面目なんだよな、龍騎は」

 ニカッと笑い、呼び名を変えてきた芯に龍騎は微笑む。彼は天才肌であることから周囲に疎まれがちであるが、決して人の嫌がることはしない。このやりとりも、彼なりのスキンシップなのだと龍騎は理解していた。

「あ! そういえば、来たんだろ?」

教室に辿り着き、二人並んで席に着きながら、唐突に聞いてきた芯に、即座に理解した龍騎は苦笑いを浮かべる。

「どうだった?」

「どうって……綺麗な人だったよ。珍しい色の髪と瞳で……」

 そして本人も珍しい姫君だった、と龍騎は心の中で付け加えた。そんな彼の心情など露知らず、芯は嬉しそうに笑った。

「そうか! で、龍騎はその姫君に一目で恋に落ちたと!」

「いや、そんなこと俺は一言も……」

「照れるなって! いやー、俺はホッとしたぞ!」

 龍騎を遮り、一人で何度も頷きながら良かった、と繰り返す芯に、龍騎はふとあることに思い当たった。

「そういえば……芯の所にも来てたよな、花嫁候補」

 龍騎の言葉に芯の動きがピタリと止まった。

「確か、一ヶ月前だったろ? そちらの姫君とはどうなんだ?」

「ああ……あれな」

 芯はそう言って笑ったが、その笑みに先程までの元気がないように龍騎は感じた。

「……帰したんだ」

「え?! だってあんなに……」

 言い募ろうとした龍騎は、芯の表情を見て口を噤んだ。

「良いんだ、俺には婚儀とか合わなかったんだよ。それよりほら、授業始まるぞ」

 そう言って笑い飛ばそうとした芯だったが、龍騎にはその瞳がどこか悲しげに見えてならなかった。


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