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第四話

 翌日の朝早く、龍宝は出仕して行った。龍騎は塾へ行くため、身支度を整えると居間へと下りて行く。その途中、角を曲った龍騎の胸に、小柄な影が飛び込んで来た。

「おっと……すまない」

 勢い良く飛び込んできた相手を抱き留めた龍騎は、その人物に気付き驚いた。

「恋歌……?」

「あ……おはようございます」

 驚く龍騎にはにかみながらそう応えたのは、紛れもなく恋歌その人であった。だがその格好は銀の髪を二つに結わえ、下女とよく似た着物に身を包んでおり、昨日までの様子とはまるで違っていたのだ。

「どうしてそんな……」

「この方が動きやすいですし……おかしいですか……?」

 自分の格好を見返しながら不安そうに呟く恋歌に、龍騎は慌てて首を振る。

「いえ、そういう訳では……ところでこれは?」

「あ、洗濯物です。今からあちらの井戸で下女達と洗おうかと……」

 恋歌が抱えているものに気付き問うと、彼女は笑顔でそう答えた。次いで外から下女らしい少女達が恋歌を呼ぶ声が聞こえる。

「申し訳ありません、龍騎様。ちょっと行って参りますね」

 深く一礼しパタパタと外へ掛けていく恋歌を、龍騎は半ば呆然と見送った。

 恋歌の姿が見えなくなるまでその場にいた龍騎は、静かに居間へと入っていく。居間に(あつら)えられた長椅子に李琵の姿を見つけた彼は、笑みを浮かべ彼女に声をかけた。

「義姉上、おはようございます」

「ああ、龍騎。おはよう」

 龍騎の姿に気付いた李琵は笑みを浮かべたが、その表情はどこか曇っているように見えた。

「義姉上? どうかなさいましたか?」

「ええ……」

 向かいに腰を下ろした龍騎に、李琵はお茶を勧めながら曖昧に微笑んだ。

「貴方、恋歌にはお会いになった?」

「はい、先程……なんでも洗濯をするとか」

 龍騎の言葉に李琵は苦笑する。その表情を見て、龍騎も眉を潜めた。

「恋歌が進んでやっているようではありましたが、兄上は……」

「知っているわ。龍宝様がお許しになったから」

 李琵の言葉に龍騎は目を丸くする。

「兄上がお許しに?」

「驚くでしょう? 朝、恋歌が龍宝様に申し出たの。こちらにいる間、下女の仕事をさせて欲しいと」

 頬に手を当て、李琵は小さく溜息を吐いた。

「焔家の姫君にそんなことはさせられないと言ったのだけど、この家のことを知るためには下女の仕事を体験するのが一番だって聞かなくて……」

「そうですか……」

 普通、下女の仕事は貴族の姫君として生まれ、育ってきた少女からすると耐え切れないものだろう。それを自ら進んでやろうという恋歌の思いが、李琵には理解しきれないのだと龍騎は察した。

「恋歌がもし耐え切れないのならその時にいつでも辞めれば良いでしょう。進んでやると言っている以上、しばらく様子を見ても良いと兄上は考えられたのでしょうね」

「まぁ、やはり兄弟ね。龍宝様と同じ事を言ってるわ」

 龍騎の言葉を聞いて、李琵はクスクスと笑い出した。笑顔を取り戻した義姉の姿に胸を撫で下ろしながら、龍騎は微笑んで見せた。

「まぁ、しばらくは見守って差し上げましょう。今は朝餉を頂きましょう。私はお腹が空きました」

「あらあら、それもそうね。もう恋歌達も戻るでしょうし、行きましょうか」

 いつもの元気を取り戻した李琵と共に立ち上がり、龍騎は食卓へと向かった。


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