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第三話

 夜になり、龍宝が仕事を終え州城から帰ってきた。

「お帰りなさいませ」

 李琵を中心に、龍騎も恋歌と並んで出迎えた。馬を下男に任せた龍宝は、恋歌の姿を見て顔を綻ばせる。

「貴女が焔家の。なるほど、噂以上にお美しい姫君だ」

 昼とは少し違い、淡い青の衣に着替え、髪を後ろに流した恋歌はその言葉に深く頭を下げた。

「焔恋歌にございます。お会いできて光栄です」

「斉龍宝です。愚弟ではございますが、我が弟をよろしくお願致します」

 柔らかな微笑を浮かべおどけた様子で言う龍宝に、周りの空気が一気に和やかになる。そのままの空気を纏い、邸の中へと進んだ面々は、夕餉を取るために円卓を囲んだ。

「恋歌、お室は気に入って?」

「はい、とても。李琵様がお室を整えて下さったと聞きました。お心遣いありがとうございます」

 恋歌の言葉に李琵は満足げに微笑んだ。

そのまま二人は楽しげに話し出す。龍騎ら男二人はその様子を見守りながら、時折相槌を打つ。そんな中、李琵が何やら思い付いた様に手を打ち合わせた。

「そうだわ。明日は龍騎も塾でいないし、市にでも行ってみない?」

 李琵の提案に恋歌は笑顔を返す。それを肯定と捉えた李琵は、ウキウキと話を続ける。

「恋歌はどういうのがお好み?」

「私はあまり派手でないものが……」

「まぁ! 私達、気が合うかもしれなくてよ」 普段、同姓というと下女たちとしか接しない李琵にとって、同じ目線で話せる相手は新鮮なのだろう。いつもよりもはしゃいだ彼女の様子に、自然と皆笑顔になっていく。

 そんな中、龍宝は一人険しい顔をしていた。

「李琵、楽しむのは良いが、最近あまり治安が良くない。行くときは気を付けなさい」

 李琵に対して柔らかい表情でそう言った龍宝だが、どこか心配なことがあるのだろうかと龍騎には感じられた。

 

 そのまま夕餉の時間は終わり、女性二人は早々に室へと引き上げて行った。

「龍騎、少し良いか」

 室へ引き上げようとしていた龍騎を、厳しい顔をした龍宝が引き止める。いつも穏やかな兄とは違うその様子に、龍騎は胸がざわめくのを感じた。

 二人は庭の奥にある池の手前に誂えられた東屋に向かい合って座る。

「さっきの話だが……」

 切り出した龍宝の口調が重いのを感じながら、龍騎はじっと次の言葉を待った。

「このところ、この紅杏に良くないことが起きているようでな」

「良くないこと、ですか……?」

 龍騎が問うと、龍宝は頷き小さく溜息を吐いた。

「まだ表沙汰にはなっていないが、どうやら薬物が出回っているらしい」

「薬物ですか」

「ああ、それもどうやら大国・新元国(しんげんこく)をも傾かせたものに酷似しているらしい。薬物の蔓延により滅んだ国は一つや二つではない。それが我が国に広がれば……」 龍宝の言わんとしていることを察した龍騎は息を呑んだ。その様子に気が付いた龍宝は真っ直ぐに弟を見やる。

「今のところはこの紅杏だけのようだ。今ならまだ広まる前に食い止めることも可能だろう。龍騎」

「はい」

「私はこれから対策のため家を空けることが増えるだろう。今は恋歌姫もいる。家のこと、二人のことはお前に任せたい、良いな?」

 兄の真剣な眼差しに、龍騎は黙って大きく頷いた。


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