第二話
昼餉の間、李琵がしきりに話を振りそれに恋歌が答えるという構図が出来上がっていた。同姓であるということもあってか、早くも打ち解けた様子の二人を見ながら、龍騎は恋歌の表情を観察していた。
控えめながらも李琵の問いには淀みなく答え、彼女は絶えず笑顔を見せている。
「ねぇ、恋歌」
不意に李琵が声をかけ、龍騎も恋歌と同じく視線を李琵へと向けた。
「貴女の瞳、とても綺麗な緋色をしているのね」
李琵の言葉に龍騎もそのことに気が付いた。
早雲国では地域により瞳や髪の色が違ってくる。例えばこの木蓮州の人間は瞳が青く、髪が茶色の人が多い。
しかし、ごく稀にだが違っている人もいて龍宝・龍騎兄弟も他の木蓮州の人間とは違い、瞳は紫で髪は黒い。
「確か都の生まれなのよね? 都の方は皆そうなの?」
「いえ……他の方は瞳が緑で、髪は紺の方がほとんどです」
答える恋歌の表情が一瞬曇ったように龍騎には見えた。しかし李琵は気付いていないようで、嬉しそうに両手を打ち合わせた。
「まぁ! 龍宝様達も他の方と髪や瞳の色が違うのよ。恋歌はご兄弟はいらっしゃる?」
「ええ。けれど兄様は私とは母様が違うので、似ていないのです」
「そうなの。貴女はお母様に似たのね。さぞやお美しいお母様なのでしょうね、いつかお会いしてみたいわ」
優しく微笑む李琵に、恋歌はただ微笑み返しただけだった。その表情の奥に見え隠れするものが龍騎は気になったが、そのまま昼餉の時間が終ってしまった。
昼餉の後、龍騎は李琵に言われ恋歌を室へ案内することになった。
恋歌の持参した荷物は既に運び込まれているため、龍騎は他の室の場所も案内しながら東の室へと彼女を案内していく。
「こちらです。お気に召すといいのですが……」
戸を開けると李琵が選んだ品のよい調度品の数々が並んでいた。中へと進んだ恋歌は落ち着いた色合いのそれらを見て、感嘆の声を上げる。
「お気に召しましたか?」
「はい、とても……これらは龍騎様が?」 恋歌の問いかけに、龍騎は軽く苦笑いを浮かべた。
「そう言えれば良かったのですが、全て義姉上が恋歌姫のために選んだものです」
「そうですか。後程、李琵様にはお礼を申し上げねばなりませんね。こんな素敵なお室をご用意頂いて」
喜んだ様子の恋歌に龍騎は李琵に判断を任せて良かったと心底思った。
「……龍騎様、一つよろしいですか?」
「何でしょう?」
振り返った恋歌が龍騎を真っ直ぐに見上げてくる。彼女の緋色の瞳に見つめられ、龍騎は自然と姿勢を正した。
「どうか私のことは恋歌とお呼び下さいませ。このまま帰ることになりましょうとも、今より私はこの家に修行に参った身。その間だけでもどうか」
恋歌の真剣な眼差しに、龍騎は思わずドキリとしたが、何とか頷くことでそれに答えた。