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第十一話

 龍宝が血塗れで帰った日から数日、彼は毎日のように怪我をした蒼勇元の邸へと足を運んでいた。幸い勇元の怪我は思ったより浅く、同時に州城での龍宝に対する噂も陰を潜めていた。

 李琵は龍宝に怪我がなかったことに心から安堵し、いつもの日常に戻ったが、今日は朝から他に気にかかることがあった。それは、龍騎の花嫁候補として斉邸に来ている少女、恋歌のことだ。

 彼女は斉邸に来てすぐに下女に混ざって仕事をしたり、ごろつきに襲われた李琵を庇い進んで危ない目にあったりと、少々破天荒な姫だった。これまでは何事もなく済んだから良かったものの、李琵は彼女に何かあってはと気が気でない。

 しかし恋歌本人はとても人当たりも良く、何より一緒にいることで癒されていることもあり、李琵は彼女を気に入っていた。だが、いつも明るい彼女の様子が今朝からおかしいということを李琵は感じていた。

 目に見えてはっきり分かるわけではない。話しかければ笑顔で返答をしてくれるし、今も下女と昼餉の準備をせっせとしている。けれど、ふとした瞬間にその表情が曇るのだ。

 

 居間で李琵が心配を募らせていると、台所の方から何かが割れるような音と、下女の悲鳴が彼女の耳に届いた。

「どうしたの?!」

「り、李琵様……」 慌てて台所へ駆け込んだ李琵を、真っ青な顔をした下女が振り返る。李琵は彼女の向こうに蹲る恋歌に気付くと、中へと足を踏み入れた。

「恋歌、大丈夫?」

 声をかけたものの、恋歌の返答はない。床に散らばる破片から、恋歌が皿を取り落としたらしいことが分かり、李琵は破片を避けながら彼女の側へ進んで行った。

「怪我しているわ。薬箱をお願い」

 下女に命じながら、李琵は破片を拾おうと伸びた恋歌の手を掴み、彼女を立たせた。

「恋歌。怪我の手当てしましょうね」

 どこか宙を見ている恋歌の手を引き、李琵は居間へと彼女を連れて行く。そして長椅子へ彼女を座らせると、下女が用意した水で傷を洗い出した。

「恋歌、何かあったの?」

「いえ……ちょっと、手が滑って……申し訳ございませんでした」

 李琵の問いに恋歌は小さく答えた。その様子に苦笑いを浮かべながら、李琵はテキパキと手当てを進めていく。

「ねぇ、恋歌。龍騎とはどうかしら? 仲良くやっていけそう?」

 恋歌の白い手に布を巻きつけながら李琵が問うと、恋歌の身体がビクリと震えた。そしてしばらく黙り込んだ後、恋歌は何も言わずにただ微笑んだだけで答えは聞かれなかった。

 

 そして翌朝、恋歌は忽然と姿を消した。


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