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「叶恵ちゃんが戻ってくるの?本当に?」


 いつものように生徒会室でお茶を楽しんでいると、生徒会長の澄也からもたらされた思わぬ情報に愛花はその大きな瞳を瞬かせ問いかける。


「ああ。明日から復学だとさ。……やっといなくなったと思ったのにな」

「本当に……。愛花をあれだけ傷つけてのうのうと戻ってくるなんて信じられません」


 澄也の言葉に、副会長である遥も続けた。


「もう!!澄也も遥も、そんな事言うの止めて!!叶恵は私の親友なんだよ!!」


 蔑むように言葉を吐く二人に、愛花はぷくりと頬を膨らませて抗議の声を上げる。


「い、いや愛花!!俺達はお前を心配してだな…」

「そうですよ。あの屑が愛花にどれだけ酷い目に合わせたかった忘れたのですか?」

「……確かに叶恵ちゃんは酷い事してきたかもしれない。でも叶恵ちゃんは私がここで初めて出来た友達なの。……ちょっとすれ違っただけなんだよ。私は叶恵ちゃんを信じたいの」


 ふるり、と涙を浮かべた瞳に澄也と遥は心を打たれる。

 ああ、何てこの少女は心美しいのだろう。

 このような優しい少女を誰にも傷つけさせる訳にはいかない。


「愛花は優しいですね」

「遥……」

「安心しろ。愛花を悲しませるような事はしない」

「澄也……。うん、ありがとう」


 二人に両側から抱きしめられ、愛花はその名の通り、花が咲くように微笑んだ。

 その時、勢い良く扉が開いて賑やかな足音が聞こえてきた。


「あー!!会長と副会長抜け駆けー!!俺だって愛花ちゃんをギュッとしたいのにー!!」

「抜け駆け…駄目」


 用事で外に出ていた会計の拓海と書記の透が戻って来たと同時に、愛花を抱きしめている二人の姿を見て抗議の声が上げる。


「ちっ。この場にいなかったテメーらが悪いんだろうが」

「俺達にお使いの仕事押し付けたの会長でしょ!愛花ちゃーん、離れてて寂しかったよー」


 泣き真似をしながら拓海は、愛花を背後から抱きしめる。もちろん、左右にいた二人をちゃんと引き離してからだ。


「おいコラ」

「何をするんですか」

「何だよー。今度は俺達が愛花ちゃんとくっつくんだよ。ねー、透」

「ん。愛花…一緒」


 そして透もちゃっかりと愛花の前に跪き、その小さな手を両手で優しく包み込む。


「もう、拓海も透も寂しがりやさんなんだから。……でも、そんな所が可愛い」


 そう言って頬を染めながら笑う愛花を見て、生徒会の役員達はまた、この愛らしい少女に惹かれていく。

 それは、彼女が転校してきてから繰り返される出来事。その部分だけくり抜けば、幸せな光景に見えるだろう。

 だがその光景は、おぞましい程の欲と悲劇の下に成り立っている事を知っているのだろうか。

 恋に恋し、盲目となっている男達は気づかない。それが、己の破滅へと繋がっている事など夢にも思わないだろう。

 そして女は。


(叶恵ちゃんが戻ってくるなんて予定外だわ……)


 男達に微笑みながら、愛花は心の中で溜め息を吐く。


(あれから三ヶ月も経つのに戻ってくるなんて、本当にうざい。ああでもどうしようか。叶恵ちゃんがあの事を喋ったら、さすがにマズいかも。後で叔父様から、いろいろ状況を聞いて策を練らなきゃ)


 三ヶ月前。叶恵を階段から突き落としたのは愛花だった。

 もちろん技とではなく、掴みかかってきた叶恵に抵抗して起きた事故……という筋書きになっている。

 目撃者もなく、愛花の証言だけにも関わらず、それは事実として生徒達に認識されていた。そうなるべく、愛花は叶恵の存在を貶めてきたのだから。


(ああいう良い子ちゃんて本当にうざい。私の比較対象になるぐらいしか役に立たないくせに、反抗するなんて生意気なのよ。まったく……)



 あのまま、死んでいたら、良かったのに。



 どろりとした、歪んだ感情。

 愛される事しか知らない少女は、その内に根を張る歪みに気づかないまま成長してしまった。

 だからなのだろう。純粋に育ってきた叶恵が、愛花にとって嫌悪の対象になっていた。


(明日は一番に叶恵ちゃんに会いに行かなきゃ。まあ、何を喚いても誰も叶恵ちゃんの言う事なんか聞かないと思うけど。まったく、この私の手を煩わせるなんて酷い子)


 ああ、そんな酷い子には。



(もっと酷い事をしてもいいって事よね)


 これから叶恵に与える苦しみを妄想し、愛花は更に愛らしい笑みを浮かべた。

 それが破滅へと繋がる事になるなんて、夢にも思わないまま。




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