復活
――――2012年 冬
“ギギギ…”
板同士が擦れるような音が部屋に響く。
この部屋には明かりがなく目を凝らしても何も見えないほど真っ暗だった。
「…。」
暗い部屋の中で一人の男が目覚めた。
「…暗いな…。この部屋には窓がない…。それにこの臭い…。埃とカビの臭い。今私が立っているこの棺、この棺ももう蛆やら虫にやられてボロボロだ…。
この様子では私は少なくとも100年は眠っていたようだな…。」
男はそう呟くと黒いマントのようなものからマッチを取り出し火をつけた。
「ふむ…幸いにもこのマッチは湿気てなかったようだな。
この部屋…懐かしいぞ…実に感慨深い…。少し壁や床板が剥がれているが私が眠りに就く前となんら変わっておらん…。
せっかく目覚めたのだ、外の様子も見に行かねばつまらん。どれ、外は今夜か。」
男は壁に少し穴を開け外を覗き込んだ。
「薄暗い、太陽はもう沈んでいるようだな。それに少し風がつめたい。今は冬か…。
久しぶりに血を吸いたい…。女だ…、若い女の血…。この際処女かどうかはどうでもよい。
KUAAAA!」
男は壁を突き破り外に飛び出した。
「 ッ…!
なッ、なんだこれは!」
男の目の前にはネオンに照らされた街が映っていた。
高層ビルが空を覆い若者や仕事帰りのビジネスマンなどでごったがえしている。
「一体これはッ・・ど、どういうことだッ…!
夜なのに明るい…だが私の体は消滅しないッ…?!」
男は吸血鬼である。200数年前、彼は戦争に敗れ棺に閉じ込められていた。
そして200年の年月が経ち棺は老朽化し、彼は眠りから覚めた。
クラクションの音が響く。
「あぶねえじゃねえか!そんなところで突っ立ってないでさっさとそこからどきやがれ!変な格好しやがってよォ!」
「な…なんだ…、これは…馬車…ではない…鉄の箱が走っている…しかも中に人間が入っているだと…?!」
「どけって言ってんだろうがこのクソ野郎!」
吸血鬼は走った。
この空間から逃げたかったのだ。
彼が眠っている間に世の中は大きく変わっていた。
一体何時間走っただろうか。
街を抜け男は郊外の耕作地帯まで走ってきた。
男は柵を上り、石の道の上を走り続けた。
声が聞こえた。
「おいッ!危ねえぞ!」
“グシャッ”
「クアァア…。これは…。蒸気機関車か…?煙を出していない…、ここまで進化しているのか…。」
「おい大丈夫か…、なんてこった…生きてやがるぜ。
電車に轢かれたっていうのによォ…こいつは驚いた…。でもけがはひどいな…。
おい兄ちゃん立てるかい?」
吸血鬼に男が声をかけた。
ビール腹で帽子をかぶった穏やかそうな男だった。
「クアァア…これしきの怪我…。大丈夫だ…。」
「大丈夫じゃないだろう…、俺の家まで来な。手当てしてやるよ。」
男は手を差し伸べた。
「心配などいらぬわッ!これしきの怪我放っておけば治る!」
「おいおい兄ちゃんなに言ってんだ、死ぬぞ。見たところあんた浮浪者か?
そんなボロボロの服着て。飯も食わせてやっからよォ。」
「よけいな心配はッ…!」
吸血鬼はふと空を見た。
東の空に少し光が見えた。
「いや…そこまでいうなら世話になろう…。」
「よかったぜ、こんなとこで死なれちゃぁ後味悪いからな、さぁ乗れよ。」
「さっきの鉄の箱…。おい男、それはいったいなんという乗り物なのだ?
馬車とも蒸気機関車とも違う。」
「おいおい、そんなに怪我してるのにそんなくだらねえ冗談はよしなよ。」
「冗談などではない。」
「おいおいマジで言ってるのか…?これは自動車だよ。モーターで動く。」
「ジドウシャ…。文明はここまで進んでいたというのか…。」
「あん?なんか言ったかい?」
「いや…、構わない行ってくれ。」
トラックは耕作地対を抜けると民家が数件並ぶ住宅街へと進んだ。
「ところで名前を言ってなかったなァ。俺の名前はカートだ。あんたの名前は?」
「私の名か…。わが名は|Bradley Alfordだ。」
「あんた変わった名前だなァ…まるで昔の本に出てくる人みたいな名前だ。
おい、話してる間についちまったぜ。ここが俺の家だ。」
カートと名乗る男の家はコンクリートでできた近代的な家だった。
「住居も昔とかなり違うようだな…。そういえば城もない。森も…少なくなっているようだ。」
カートが車を奥の駐車場に停めドアを開けた。
「入りなよ。手当てを・・・。」
カートはアルフォードを見て戦慄した。
「おい…アルフォードさん…。こいつはいったいどういう…。体の傷が…消えてやがる…。」
「…だから言っただろう。手当てなどいらぬ、と。」
「あんた…、一体何者だい…?」
カートは後ずさり玄関の壁に手をつく。
「安心しろ…なにもしない…。それより今は何年だ?」
「な…何年?」
「西暦何年だ?」
「に…2012年だぜ…。」
「2012年…。そうか…100年と思っていたが200年も経っていたのか…。確かにここまで変わっていてもおかしくはないな…。」
「あんたは…一体何を言っているんだ…?
200年…?何者なんだあんた…。
き、聞かせてくれよ…。」
アルフォードはそっと息を吐いた。
「そんなに聞きたいのか?
なら聞かせてやろう。」
二人の間に沈黙が訪れる。
「私は吸血鬼だ。
200数年前。戦争に負け、眠りについた。
そして数時間前、復活したのだ。
大丈夫だ、私は男の血は吸わん。
ただ腹が減っている。
豚の血をくれ…。
豚でいい…。」
「わ、わかったぜアルフォード。
まってな…。すぐ取ってくるぜ。」
カートは困惑していた。
本当にこの世に吸血鬼がいたということに。
幼いころ憧れた、あの吸血鬼。
それが今目の前に。
吸血鬼に吸われれば吸血鬼に。
カートは迷った。
カートは確かめようと思った。
彼が本当に吸血鬼か、
本当に自分の憧れか。
がんばって更新するのでぜひ次からも見てください。