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【番外編】Livraison de maison de nourritures cuites

Livraison de maison de nourritures cuites:出前


王妃様からマダム・ジュエルのお菓子の注文が!!


『平行線』後、パティスリーにルビーが就職してから少ししてのお話です♪

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

春が来て、街中に清々しい空気が満ち満ちている。

そこかしこで、新しく社会に出たばかりの若い者たちが、早く新しい生活に慣れようと頑張っていた。




「出前、ですか?」

「そう。というか配達。行ってくれる? リリィとルビーで」


王都の中心、噴水大広場に面したパティスリー・マダム・ジュエルの、色とりどりの、華やかで、美味しそうなケーキが並んだショウケースの奥で、マダムがにこやかに口にした。

マダムの前には売り子のリリィこと、アウイン侯爵夫人のシシィと、この春、国立教養学校を卒業して、ここに見習いで入ってきたルビーという少女。

配達など、今まで一度もなかったことなので、ぽかんとするシシィ。アクアマリンの瞳を、ぱちぱちと瞬いている。

対するルビーは、今までを知らないので「ふ~ん、配達サービスもあるんだぁ」くらいにしか受け止めていないようだった。

「いつからそんな配達サービス始めたんですか?」

小首を傾げたまま、マダムに問うシシィ。

「してないわよ! ほほほ。実はさっきね、王城の近衛騎士の方がいらっしゃって、王妃様からのご注文をいただいたの」

ほら、あそこにいるでしょ? と、マダムはカフェでお茶を飲む騎士服の二人を指差す。

シシィとルビー、二人して騎士の方を見ながら、ほほ~となる。

「王妃様から? わざわざ?」

騎士からマダムに視線を戻し、またシシィはマダムに尋ねた。

王城には優れた料理長をはじめとした調理チームがいる。そちらに頼めば済むはずのことを、わざわざマダム・ジュエルに出前を頼むなど、王妃様は何を考えているのだろうか? と訝しむシシィ。

「そう。で、ここのマカロンが是非とも食べたいそうなの。で、配達人にリリィとルビーが指名されたってわけ」

パチンとウィンクするマダム。


アンバー王国王妃レティエンヌ。国王陛下が溺愛して憚らない、美貌の王妃。

レティと同い年のシシィ、実は友達だったりする。

レティがまだ公爵令嬢だった頃、よくシシィとお茶をしたりおしゃべりをしたものだ。

シシィがこのパティスリーで働いていることをレティは知っているが、ルビーのことまで知っているのは何故だろう? ルビーは庶民の娘だ。 一国の王妃が、一庶民まで知り得るはずがない。

が、どういうつもりかレティはシシィとルビーを指名してきたのだ。これは命令に等しい。


「わかりました。今からですか?」

こくりと肯いて、シシィは答えた。

「ええ。お菓子は今ダーリンが用意しているから、あなたたちも用意なさい」

ニッコリと言うマダムだが、

「あの~、この服でいいんですか……?」

今まで黙って話を聞いていたルビーが、おずおずといった感じで口を挟んできた。自分の服を少しつまみながら。

今のシシィも、元から庶民のルビーも、今着ているのはもちろん平民の衣装。町娘そのままの姿だ。街中では違和感も何もないそれだが、一歩王城内に入れば浮くこと請け合い。

「そおねぇ……」

頬に手を当て、思案するマダム。すると、

「ちょっと家から持ってきますわ! ルビーの分も私が用意します!」

そう言って、自分の移動魔法で帰宅するシシィ。

「おねーちゃん、魔法、使えたんだ~! すごーい!」

感激ウルウルお目目で、シシィの消えた跡を見つめるルビーだった。




シシィの持ってきた、質素だがかわいらしいワンピースを着て、上品な町娘に着替え終えたシシィとルビー。

王妃様の注文を伝えに来た近衛騎士に護衛されて、二人は配達に、王城へと向かった。




正門をくぐり、出前一行は王城までのきれいに整備された道を進んでいた。

最近は、レティが懐妊中ということもあって、王城でパーティーが催されることもないので、久しぶりの登城にシシィも少しばかり緊張する。

ましてや一般庶民のルビーの緊張はいかほどか? と、気遣い横を見れば、

「王城の正門から玄関までって、たくさん歩くんだね~! 広いねぇ! 正門は誰でも見れるけど、中はこんなになってたんだね~! わぁ~!! きれい~!」

目を輝かせてきょろきょろと辺りを見回している。

その少女らしい好奇心に安心しながらも、

「ほんと、素敵よねぇ。あ、ほらもうすぐ玄関よ。ちゃんと前を見て歩いてね?」

クスクス笑いながらルビーの足元を心配してやる。


そうこうしていると、あっという間に正面玄関にたどり着いたシシィ一行。

「パティスリー・マダム・ジュエルからの献上の品をお持ちいたしました。マダム・リリィとマドモワゼル・ルビー、ご到着にございます」

護衛騎士の掛け声に、ギギギ……と重厚そうな音を立てながら、両開きに扉が開かれる。

そして、扉が開いた途端に、


「待ってましたわぁ!! あなたがルビーね?!」


ゴムまりのように飛び出してきて、ぎゅっとルビーに抱き付くレティ。


「えっ???」

抱き付かれた本人のルビーは、何が起こったか理解できていない様子。


「うわっ!! レティ!!」

ルビーに飛びついた身重の妻に、慌てる国王シャルル。ルビーがレティを抱き止めてくれたことを、内心ほっとしていたが。


「「「きゃー!! レティ様!!」」」

突飛な行動をするレティに、侍女たちも慌てふためく。


そんな周囲の動揺なんて気にも留めず、レティはルビーを抱きしめたまま、この上ない超絶カワイイ笑顔を繰り出して、


「私のお菓子を食べてくださったんでしょ? もう、とおってもうれしくて、こうやってぎゅ~ってしたくて、わざわざお呼びしたの!!」


破顔一笑、事もなげに言い放った。

「え?? え??」

まだ事態を飲み込めていなかったルビーだったが、抱き付いてきたものすごくかわいらしい存在が王妃様ご本人で、しかもさっきからお腹が当たっていることに、はっと我に返り、

「おっおっ、王妃様ぁ!?」

目を白黒させて、隣にいるシシィに助けを求めてきた。

「レティ様。ルビーが驚いていますわ。少し離していただけませんか?」

苦笑いしながらシシィはレティに進言した。

「あらあ、ごめんなさい! 私としたことが! うれしすぎてつい」

にっこりと超絶スマイルで謝るレティ。そんなレティにぽかんと見とれているルビー。

「いっ、いいえ! 滅相もございません!! 初めてお目にかかります、ルビーにございます」

しかし、挨拶することをすっかり忘れていたことに気付き、慌ててスカートをちょんとつまみ礼をする。

「ふふ、かわいらしい。さ、お茶の準備ができてるのよ? 出前してくれたお菓子を一緒にいただきましょう」

レティがそう言って、一行は、庭園に設えられているお茶の席へ向かったのであった。




シシィとルビー、レティとシャルルに、途中からオニキス爺やも参加して、和やかにお茶の席が盛り上がってしばらく。


「レティ様!! 犯人は貴女でしたか!!!」


突然そう言って庭園に乱入してくる者があった。

その場に居合わせた全員が、声のする方に視線を向けると、そこにはアウイン侯爵の姿が。

いつもの余裕綽々な彼はどこへやら、少し疲労をにじませている。いつもはきっちりと整えられている無造作ヘアが、名実ともに無造作に乱れている。

その手には何やら紙切れを握りつぶしている。

そして、顔はにこやかだが、表情に反して、全身からは黒いオーラが噴出している。


「ディー?!」

「ディーさん!!」

「おう、ディータ。どうした? こんなところに突然現れて」

シシィ・ルビー・シャルルが思い思いに声をかける。が、


「あらあ、もう見つかっちゃったのぉ?」


レティ一人がニヤリと黒い笑みをしている。

「もう見つかったの? じゃありません!! 何ですか、このいたずらは!!」

ディータはつかつかと足早にシシィの元にとやってきて、驚きでアクアマリンの瞳を見開くシシィを横抱きにぎゅっと抱きしめてから、手に握りつぶしていた紙切れをずいっとレティに差し出す。

それをシャルルが受け取り、広げて見て見ると、


『シシィは預かった  ばーい王都の魔女☆』


「「「「……」」」」

レティのいたずらに、無言になる一同。


このために私とルビーは王城に呼ばれたのか。


納得のいったシシィ。

シシィは、自分の肩に置かれたままのディータの手を「おつかれ」とばかりにぽんぽん、と叩いたのだった。


今日もありがとうございました(^^)


違う視点でも書いてみるつもりです。

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