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quatre

最終話です☆


結局4話になってしまいました(^^)

移動先は、マダム・ジュエルのパティスリー。

裏口から店に入る。


まだ工房にいたマダムと旦那さんに迎えられる。

「おかえり。リリィ。早かったね」

いつもの笑顔にほっとする。

「ただいま。旦那さん、マダム」

「あらまぁ、どうしたの?暗い顔して。向こうでお茶でも飲みましょう。美味しいお茶とダーリンのお菓子が癒してくれるわよぉ」

何があったのかを問うことなく、しかしさり気なく気遣いを見せてくれるマダム。


これまでのことをぼそぼそと話したシシィ。

マダムのお茶が沁みる。

「ふうん。縁談ね。アウイン侯爵様と言えば、私たちでも噂を聞くものね。リリィが断るのも分るわ」

「……本当に信じていいのか、分らないんです……」

ティーカップを両手で包み、琥珀の液体を見つめるシシィ。

そんなシシィを微笑みながら見守っていたマダムが、

「でもね、少なくともリリィには嘘ついてないと思うのよ?」

ふふふ、と笑う。

「??」

言葉の意味が解らずキョトンとなるシシィ。

小首を傾げてマダムの顔を見つめる。

「だってね、名前だってホントの名前。ディータでしょ?だからディーだし、髪も瞳の色も本来の色。ほら、何も嘘なんてないじゃない?」

優しい笑みを浮かべながらお茶を一口含むマダム。

「あ……」

まったく考えてもみなかった。気付かなかった。

見開かれる瞳。

「ね?少しは信じてみてもいいんじゃない?」




次の日からも。

それまで通り、侯爵は仕事帰りにカフェに顔を出す。

そして、それまで通りシシィとお茶をする。

何事もなかったように。

ただ、自分のことをよく話してくれるようになった。

仕事のこと、家のこと、友達のこと。

ただじっと聞き役に徹するシシィ。

「ね?どうかな?僕のことを見てくれる気になってきた?」

爽やかに笑いながら、必ず毎回確認する侯爵。

「……」

意識しすぎて俯くことしかできないシシィ。


いつもならそこで撤収する侯爵なのだが、今日は違った。

「シシィ。左手を出してみて?」

先程の爽やかな笑顔のまま、左手を出してくる。

「……?」

小首を傾げて不思議に思いながらも、おずおずと自分の左手を差し出すシシィ。

その手をそっと握ると、右手に隠し持っていた物を嵌める。

「……指輪……」

あっと驚く。

シシィの瞳と同じアクアマリンが嵌められたかわいらしい指輪が、左手薬指に煌めいている。

指輪のはめられた自分の手をまじまじと見つめていたら、侯爵はそのままその手を優しく握ってくる。

「シシィ。こないだ言ったことは嘘じゃない。僕のところにきてくれないか?」

握っていた左手を、空いた右手で優しく包みながら侯爵は再び告げた。

「……嘘ついたら。嘘だったらどうしてくれますか?」

伏せがちだった視線を上げて、今日初めて侯爵の瞳をひたと見つめる。

侯爵はそれを受け止めて、

「どうにでもしてくれていい。君の気の済むまで。国外追放でも、死刑でも何でも」

にっこりと笑いながら「ま、そんなことには絶対にならないと誓えるけどね」と付け加えた。

「……わかりました。一度だけ。信じてみます」

まだ侯爵の眼を見つめたまま、シシィが決意を告げる。

「本当?!ほんとうに!?ああ、シシィ!!ありがとう!!」

いつものクールな雰囲気は何処へ、無邪気に大はしゃぎする侯爵。

あまりの喜びようにシシィは引いてしまった。


カウンターの奥ではマダムと旦那さんがニコニコしながら見守っていた。




シシィがアウイン侯爵のプロポーズを受け入れてからは、怒涛のように日々が過ぎて行った。

タンザナイト家にまずは戻り、そのまま婚約発表。

家出のことは何故か誰にも責められなかった。

時間を置きたくない侯爵のたっての希望で、ひと月後に結婚式を挙げることになった。

準備に大わらわな伯爵家。

でも、花嫁当人はドレスをさっさと決めるとどこかへとまた姿をくらませてしまった。

半狂乱になる伯爵家だったが、花婿アウイン侯爵は、

「ああ、それに関しては大丈夫ですよ」

と、にっこりするばかり。

「「「???」」」

何の事情も知らない家族は狐につままれたよう。

しかし立ち止まっている暇もないので、花嫁抜きで準備は進められた。





その頃シシィは。


カラン。

「いらっしゃいませ!」

にっこり。


またマダム・ジュエルのパティスリーにいた。

マダム達にはもう素性も知れているが、今まで通り『リリィ』で、アメジストの瞳、ブロンズの髪で店に立っている。

看板娘は健在だった。

『結婚しても仕事したい』

これだけは譲れない、と、侯爵に詰め寄って、ここでの仕事を勝ち取ったのだ。




結婚後も、朝は侯爵の登城の時に店まで送り届けられ、帰りは今まで通り、仕事帰りに侯爵がカフェに寄り、二人でお茶をしてから一緒に帰ってゆく。




約束通り、侯爵の周りから浮いた話は一切なくなった。

今は、奥方にデレデレだという噂だけが聞こえてくるようになった。


3話って言ってたくせに、4話になってしまいました(^^;)


お付き合い、ありがとうございました!

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