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Un jour spécial

Un jour spécial=特別な日


いよいよシシィもがんばります!

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。

先の王子殿下誕生の祝賀ムードがようやく落ち着きを見せた頃。

噴水大広場を南に下ったところに位置するアウイン侯爵家は、夕方から大騒ぎになっていた。まあ、約一名のみなのだが……。


「ふっ……ふっ……」

「大丈夫?! ああもう、どうしたらいいんだろう? 代わってあげたいんだけどできないし」

「侯爵様。少し落ち着きを」


痛みに柳眉をしかめるシシィ。その手をしっかりと握りながらもオロオロするディータ。そのディータを『やれやれ』といった顔で窘める侍医。そんなディータを生温かい目で見る侍女たち。


そう、アウイン侯爵夫人シシィのお産が始まっていたのだ。




そろそろ出産予定日が近くなった頃。

侍医にも『もうすぐでございますよ。楽しみでございます』とにこやかに告げられていた。

もはやパンパンにはちきれんばかりのシシィのお腹。愛しそうにアクアマリンを細めて撫でさする。

「もうすぐ会えるのね。早く出てきてほしいわ」

「いよいよでございますね。わたくしどもも楽しみにしております」

側で世話をしてくれているメイド長とも、生まれてくる子供について話をする。メイド長自身も4人の子持ち。大先輩なのである。

「楽しみだけど、不安も……ね」

「大丈夫でございますよ。いざとなればご主人様が何とかなさいますわ。加持祈祷も依頼されているようでございますしね」

「ああ、東の森の魔法使い様ね? ずいぶん前に奥様と東の森に帰られたのではなかったかしら?」

「いえ。まだご実家のクリスタル伯爵家に滞在なさっていたようですわ」

「まあ、ありがたいこと」

ほっと安心した様に息を尽くシシィであった。




その日も朝は何もなかった。

「では、いってらっしゃいませ」

天使のような微笑を浮かべてディータを送り出すシシィ。

「うん、できる限り早く帰ってくるから、シシィは無理しないでね?」

そんなかわいいシシィにデレデレと相好を崩し、お腹に気を付けながらハグするディータ。

「ディータ様。お時間でございます」

「わかってるって、ちょ、おい!」

シシィが懐妊してからの日課となった、朝の玄関でのお見送り。いつまでもぐずぐずとシシィにくっついたままでいたがるディータを執事が引き剥がす。

シシィはニコニコとそのやり取りを眺めている。

諦めたディータが渋々自分の周りに移動魔法を展開しだす。


そう、その日もいつも通りの朝だった。


シシィの様子が変わったのは、昼食後のお茶を楽しんでいた昼下がりだった。

妊娠してからは紅茶ではなくノンカフェインのハーブティーを好んで飲んでいるシシィが、お腹の違和感に気付いた。

「……っ!」


がちゃん。


突然お腹が痛みだしたのだ。手に持っていたティーカップをソーサーに戻そうとすると、震えたために派手な音を立ててしまった。

「奥様?!」

それに気付いたメイド長が慌ててシシィに駆け寄ってくる。それにすがるように手を差出し、絞り出すような声で、

「……っ、お腹が、ね、痛いの……」

シシィがメイド長に告げた。そのまま痛みにソファで蹲るシシィ。一瞬目を見張ったメイド長だったが、さすがにベテラン。すぐさま落ち着きを取り戻し、

「侍医を! 奥様、侍医をお呼びいたしますので、少々お待ちくださいませ」

メイド長の指示で、メイドたちがにわかに慌てだした。

侍医を呼びに部屋を出る者、寝台を整えに行く者。そして、クリスタル家に魔法使いを呼びに行く者。

その間も侍女長はぴったりとシシィに付き添い、痛みに震える背中を撫でている。

痛みが引き、落ち着いたところで素早く寝台に移動させられ横たえられたシシィは、今は小康状態のお腹を撫でながら侍女長に尋ねた。

「この痛みは……これが、陣痛?」

「恐らくそうでございましょう。断続的に痛みがきますので、痛くない時はしっかりとお休みくださいませ!」

「わかったわ」

力強く言い切られたメイド長の言葉は、シシィを落ち着かせるのに十分だった。


すぐさま侍医が駆け付け診察すると、やはり陣痛であった。

「どうしますかの? まだ出てくるのには時間がかかると思うのですが、ディータ様に知らせますか?」

にこやかに侍医がシシィに尋ねた。

ディータのいつもの帰宅にはまだ時間がある。しかし、まだ生まれてこないのならば焦って早退させることもなかろうと判断したシシィは、

「いえ、知らせなくてもいいと思います。きっとこの子もお父様の帰りを待って出てくるように思いますの」

痛みで眉間に皺を寄せながらも、それでも微笑むシシィ。

「そうですな。ではもう少しの辛抱でございますよ」

好々爺な侍医は力の入らぬシシィの手を取り、ポンポンと優しく叩いて励ました。


それからしばらく、断続的な激痛にすっかり憔悴してしまったシシィは、陣痛の合間に疲れてうとうとしていると、


「なーんーでーすぐさま報告にこなかった!!!!」


という怒声と、こちらに走ってくる慌ただしい音が響いてきて目が覚めた。


ディーが、帰ってきたのね。


朦朧とする頭で、それでもうれしくてつい微笑んでしまうシシィ。

ぼんやりしながらドアを見ていると、バァンと勢いよくそれが開き、いつもの余裕などどこかへ吹き飛ばしてしまったディータが入ってきた。

「シシィ!! 大丈夫?!」

儚く微笑むシシィに大股で近寄り、その華奢な手を握り締めるディータ。

「ええ、大丈夫よ。お帰りなさいませ。この子もお父様のお帰りを待っていたようよ? っく……そろそろ……っ……」

また陣痛のうねりが来て、話すこともままならなくなるシシィ。話せなくなった分、しっかりとディータの手を握り締めている。

「大丈夫! 僕はここに居るからね!!」

その手をさらに握り締め、力強く励ますディータ。

隣の部屋では、魔法使いによる加持祈祷も始まっていた。

「そろそろ間隔が狭まってきたようでございますな。どれ、奥様、頑張ってくださいませ」

にこやかに侍医がシシィの様子を診察し、いよいよ準備が進められた。




魔法使いの加護が効いたのか、それからは意外とすぐに御子は誕生した。

タンザナイト家に遣わせた使者と共に、タンザナイト伯爵、伯爵夫人が到着するや否やの出来事だった。


「おめでとうございます。男の子様にございます!」


シシィの部屋の外に詰めかけた先代侯爵夫妻と伯爵夫妻が息を詰めて部屋の様子を伺っていると、侍医の手伝いをしていたメイド長が、腕まくりを下ろしながら扉を開け、恭しくお辞儀をしながら皆に御子誕生を告げた。

「おお!! でかしたぞシシィ! 嫡男とは」

タンザナイト伯爵が、娘の、嫁としての大役を無事果たしたことに感極まってウルウルしていると、

「いや、男でも女でも、元気な子であればどちらでもよかったのですよ」

そんなことはどうでもいいことですよ、と伯爵の肩をポンポンと叩く先代アウイン卿。

先代夫人と伯爵夫人も泣きながら喜んでいた。

ちなみにシシィの兄アンリは残業でまだ王城に居たのだが。




しばらく力尽きて眠っていたシシィだったが、優しく頬を撫でる温かい手の感触に目を覚ました。

「……ディー?」

覚えのある感触に、シシィはその人の名を呼ぶと、

「うん、お疲れ様。男の子だよ」

うっすらと開けた視界にぼんやりとだが映るのは、優しい微笑みに彩られたディータのアメジストの瞳。無事に子供が生まれたことを聞き、ほっと息をつく。

「そうですか」

「ありがとう」

大仕事を無事に終えて安堵のため息を落とすと、ディータがそっと手を握り、感謝の意を伝えてきた。




ディータ譲りの黒髪とアメジストの瞳を持った御子は、クロードと名付けられたのだった。


今日もありがとうございました(*^-^*)/


すっかりご無沙汰になってしまって申し訳ございません!!

待っていてくださったみなさま。感謝です☆

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