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Une maladie?

Une maladie?=病気?


シシィが倒れた?!

ここはアンバー王国の王都ディアモンド。


先日王妃レティエンヌがお世継ぎの王子を産んだところで、世間はお祝いムード一色であった。

マダム・ジュエルの店も、もちろん献上品を捧げていた。そして、『王子様誕生おめでとうキャンペーン』で、パティスリーに来たお客に一品焼き菓子サービスなんかもやっていて、ますます行列を長くしているのであった。




テイクアウトの接客や、カフェの方の接客でてんてこ舞いな毎日を送っているシシィは、お昼を過ぎた頃からどことなしに体の不調を感じていた。折に触れめまいがするのだ。今朝はそんなこと微塵も感じなかったのに。

しかし、この忙しいさなか、自分のささいな不調のために周りに迷惑をかけたくないと、笑顔を貼り付け、誤魔化し誤魔化し仕事をしていた。

普段なら工房でだんなさんの元で菓子職人になるための修行をしているルビーでさえも、自分の勉強を後回しにして接客に出てきているのだから、自分がわがままを言ってはいけない、と、自分に言い聞かせて。


しかし。


「リリィちゃん、こんにちは」


近所の常連奥さんが、ケーキを買いにやってきた。


「アニーさん、いらっしゃいませ!! 今日は何になさいますか?」


ともすれば引きつりそうになる顔を叱咤して、いつもどおりの笑顔を張り付けるシシィ。


「そおね、今日はその新作の蜂蜜のムースとピュイ・ダムールをいただこうかしら」


アニーはショウケースを覗き込みながら、指さしていく。


「これとこれですね。以上でよろしいですか?」


指定されたケーキを取り出しながら、アニーに確認する。


「ええ。お願いね」


そんないつもの会話をしていたのだが、


「あっ……!」

「あら?!」


するり、と手に持っていたシルバーのトレイを取り落してしまった。ぽとり、ぽとり、と床に落ちるケーキ。

ぼんやりとその光景を見つめてしまっていたシシィだったが、そこで強烈なめまいに襲われて、その場にしゃがみ込んでしまった。


「リリィちゃん?!」


びっくりしてアニーが叫ぶ。それでも床にうずくまったままのリリィ。肩が小刻みに揺れている。どうやら震えているようだ。

アニーの声を聞きつけて、マダムやルビーが駆け寄ってきた。


「おねえちゃん?!」

「リリィ?! 大丈夫?!」


蹲るシシィの背中をさするルビー。マダムはシシィの顔を覗き込み、


「リリィ! 真っ青じゃないの!! とりあえず部屋に上がりましょう。ルビー、後は任せるわね」

「わかりました!!」


立ち上がれず力なく蹲るシシィを、工房から飛んで出てきただんなさんが抱き上げて、店の上にある、以前シシィが使っていた部屋に連れて行って休ませた。


とりあえず横になっていたいというシシィの言葉に、マダムはそっと寝かせておくことにし、外にいるアウイン侯爵家の警備兵にこのことを知らせに行った。




半時もしないうちに、


「リリィが倒れたって聞いたんですけど!!」


と、血相を変えたディータがパティスリーに飛び込んできた。まだ王城は勤務時間のはずなのに、また早退してきたようだ。

周りの客の眼もあるので、マダムは手早く工房内にディータを招き入れ、


「今部屋で休んでいるわ。昼過ぎから具合が悪そうだったわ。ごめんなさいね、もっと早くに休ませてあげればよかったわ」


端的に状況を説明した。


「わかりました。とりあえず様子を見て連れ帰ります。お手数おかけしました」


ディータは丁寧にお辞儀をし、シシィの部屋に向かった。




少し青ざめた顔色で、シシィは横になっていた。

とりあえず横になったことで、先程のようなめまいはマシになったが、それでもまだ気分が悪い。くらくらするのだ。

じっと天井を見つめているのだが、天井がゆらゆら動いているように見える。


「ぐ……っ。気持ち悪いわ……」


コンコンコン。


呟いたと同時に部屋のドアがノックされた。


「はい」

「シシィ? 起きてるの?」


そう言いながら、ディータがドアから顔をのぞかせた。


「ディー。ああ、マダムが呼んでくれたのね。ごめんなさい、急に体調が悪くなって……」


自分に伸ばされたシシィの手を、ディータは優しく握りながら、その顔色を窺った。

朝別れた時は、体調の悪さなど微塵も感じさせなかったのに、今は打って変って青白い。

その頬に手を添わせると、やはり血の気が引いているのかひんやりとしている。


「今はどう? 帰れそうならいったん帰ろう? 侍医に診てもらわなきゃ」

「うん。そうね。診てもらうかどうかは別として、みんな忙しいのにあんまりご迷惑をかけられないわ」

「そうだね。今日は転移魔法で帰ろう」


そう言うと、ディータはかけてあった布団をそっと剥いで、シシィを抱き上げた。




主の急な帰宅と、その腕に収まる夫人の様子に、屋敷はにわかに慌ただしくなった。

屋敷に着いてもディータに抱かれたまま、夫婦の寝室に運び込まれ、そっとベッドに横たえられた。

初老の、人の良さそうな小柄な侍医が呼ばれ、診察を受けるシシィ。

それを反対側から手を握り、シシィをいたわるディータ。心配のあまり、その柳眉はしかめられたままであった。

静かな落ち着いた声音で、侍医がシシィに問診する。


「いつからご気分が悪くなられました?」

「今日の……お昼頃からですわ」

「それまでは何ともなかったのでございますね?」

「ええ」

「左様でございますか。ところで、失礼ではございますが奥さま。月のものはいつ来られました?」

「え? 月のものですか?」


思わぬ質問に目を数回瞬き、ちらりとディータを見遣り、その質問の意味に少し赤くなって、それでも懸命に思い出そうと考えるシシィ。しばらく目をつむり考えてから、


「少し遅れているようですわ。ひと月半……ふた月ほど前だと思います」


侍医の目をまっすぐに見つめながらはっきりと答えた。

シシィの答えを満足そうに聞いた侍医は、


「やはりそうでございますか。おめでとうございます。ご懐妊のようでございます」


眦にたっぷりと皺を寄せて破顔しながらシシィに告げた。


「えっ?」

「本当?!」


その言葉に、またアクアマリンを瞬かせるシシィと、ぐっとその身を乗り出してきたディータ。


「はい。このご様子では三月みつきになる手前くらいでしょうか」


ニコニコしながら診断を告げる。それに顔を見合わせるシシィとディータ。


「うっそ……!! めっちゃうれしい……」

「なんだか実感が湧かないんですけど……」


うれしさにウルウルしているディータと、突然の懐妊告知にまだ気持ちが追いついていないシシィ。ディータの手をぎゅっと握り返し、先ほどからしきりに瞬きを繰り返している。


「今はまだ安定していませぬゆえ、激しく動いたりせぬように気を付けてくださいませ。何かございましたらいつでもご相談ください」


一礼しながらそう言うと、侍医はシシィたちの寝室から暇を告げた。




「……」

「……」


しばらく無言で侍医の出て行った扉を見つめていた二人だったが。


「驚いたね」

「本当に。……でも、全然実感なくて……」


そう言いながら、まだ膨らみさえしていない自分のお腹にそっと手を当てる。その手にディータは自分の手を重ねて、


「まだ、さっき告げられたばかりなんだし、無理だよ。僕だって実感ないよ」


クスクス笑う。それを見てほっとしたシシィはようやく微笑みを取り戻し、


「そうよね。ふふ」


アクアマリンを細める。


「しばらくはパティスリーはお休みしなきゃね」

「でも、申し訳ないわ。今パティスリーはてんてこ舞いなんだもの……」

「大丈夫だよ。それに今行って、また倒れたりしてももっと悪いでしょ?」

「それはそうね」

「安定するまではここに居て。じゃないと僕が気が気でない」


そう言って、お腹に中てていた手をシシィの頬に移動させ、そっと撫でる。


「ふふふ。仕方ないわね、そうするわ」


自分の頬を撫でる手に、反対側の手をそっと重ねる。

極上の甘い笑みを浮かべるディータに、こちらもとびきりの笑顔で答えるシシィだった。


今日もありがとうございました!(^^)


ここも妊婦になってしまいました(笑)ベビーブームだー♪

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