プロローグ
巨大な湖は夕陽の残光をあびて、きらきらと金色にかがやいていた。
すでに周囲の森は、薄闇の中に沈み込もうとしている。
湖のほとりの丘陵には、三つの尖塔を持つルーメリア王城がたたずみ、裾野にひろがる城下町ワーゼンに、黒々とした長い影を投げかけていた。
王城の三つの塔の先端は夕陽をうけ、星の輝きを宿しているかのようであった。
それゆえに『星宿城』の異名を冠されてはいるものの、この灰色の王城は、その名にも、この美しい風景にもそぐわぬ、機能一辺倒の無骨さをもっていた。
周囲に張り巡らされた高い城壁は、ごつごつとしたいかにも頑丈そうな石で組み上げられ、そのまた周りに巡らされた堀は深く、濁った水のなかには尖った杭がかくされ、よそものの侵入を厳然と拒んでいた。
城下町から王城へとのぼる一本道を一騎の早馬が、駆けのぼってくる。
馬はみずからの汗に濡れ、黒光りしていた。その乗り手もまた汗にまみれている。使者としての身分をしめす紋章を金糸で大きく刺繍してある灰色のマントが、不吉な影であるかのようにその背後になびいていた。
坂道の終点にたっすると馬をとめ、堀のむこうの門にむかって、はりつめた声で呼びかける。
「開門、開門」
門の護りについている衛兵が小さなのぞき窓から使者を認め、城がわに巻きあげた橋をおろす。滑車がきしむ鈍い音が響いて、橋がおりてくる。
だが、使者はそれをも待ちきれずに、まだ最後まで下りきっていない橋に馬ごと飛び乗ると、つむじ風のように城のなかに駆けこんだ。