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3. サッカー部小集会の方へ戻る途中

 サッカー部小集会の方へ戻る途中、ちょうど河合とすれ違う。

 オレは思い切って河合を呼びとめた。

「なぁ、河合」

「ん?」

「あの、あそこに立ってるヤツ、誰? お前さっき話してただろ?」

「あの壁際の?」

河合が確認するように、さり気なく彼女を手で示した。

「あぁ」

「――宮本、お前のよく知ってる子だよ」

「?」

「高橋さんだよ。サッカー部のマネージャーだっただろ?」

 河合の信じられない言葉に、オレは軽い眩暈を感じた。

 だって、あの美人が、『あの』オレたちを怒鳴り散らしてた明日香だって言うんだぜ?

 ウソだろ? なんであんな美人になってんだよ?!

「えっ……それ、マジで?」

一応、確認する。

「うん。呼んであげれば? サッカー部で集まってるんだろ?」


 河合は行ってしまったが、オレはしばし呆然としていた。

 どうしても結びつかねぇ……。あの美人と、明日香が同一人物だなんて。


「おーい、崇。お前飲んでるかぁ?」

 浩丈がやってきた。その手には、生中ジョッキが握られている。その中はもう空っぽだ。

 お前は、飲みすぎだ。

「いや。お前、酔っぱらってるだろ?」

 浩丈は、オレの言葉なんて耳に入っていないようだ。オレにしなだれかかってきた。

「明日香ー。なんで来ねぇの?」

 来てるよ、あそこに立ってる。

 喉まで出かかって、オレはその言葉を飲み込んだ。

 なんか、あの美人が明日香だって、みんなに知られるのが嫌だ。急に、そんな考えがオレを支配した。

「オレが知るかよ」

 浩丈の身体を起こす。駄目だ、コイツ、完全に酔っぱらってやがる。

 オレはまず、浩丈をどこかに座らせようと思って、その身体を引きずるように歩き始めた。

「俺さー。実は、卒業式の日、明日香に告白したんだよなー」

 肩の上で、朦朧としたまま語る浩丈の告白に、オレの身体に衝撃が走る。

「玉砕…覚悟だったんだよ」

 初耳だ。

 浩丈は、明日香に、気持ちを伝えてないんだと思ってた。

「やっぱり玉砕した。好きな人がいるんだってさー」

 浩丈の物言いは、独り言なのか、オレに聞いて欲しいのか、よくわからない。とにかく、オレは黙って浩丈を運んだ。

 確か、会場の出入り口手前に、椅子が置かれていたはずだ。そこに座らせておこう。

「俺さー。明日香のおかげで、すごい強くなれたんだ。叱咤されたり、激励されたり、明日香が俺に向けて言う言葉が全部、あの時、俺の力になってたと思うんだー。だから、一言、お礼言いたかったんだよなー」

 重い……。

 やっとの思いで、浩丈を椅子に座らせる。

 急に静かになったと思ったら、既に浩丈は半分寝ていた。

 まったく、コイツは……。しょーがねーヤツだなぁ。

 ため息をつく。

 まぁ、ここに置いとけば大丈夫だろ。


 オレは浩丈の握る空のジョッキを取り、みんなのところに戻ろうとした。

 そのとき、目の隅に、彼女が映った。

 さっきまでいた、壁際じゃなくて、会場の出入り口。会場から、出て行く後ろ姿。


 咄嗟だった。

 オレはジョッキを手近なテーブルに置くと、彼女を追いかけ、会場を出た。


 同窓会の会場は、ホテルの宴会場を貸し切って行われていた。同窓会場を出ると、そこはホテルのホール。

 左右を見回したけど、彼女の姿はもうなかった。

 オレは肩を落とした。


 なんだろう、この落胆は。

 なんだ、この喪失感は。

 なんなんだ?


「――崇?」

 後ろから、呼びとめられた。

 振り返ると、今、見失ったはずの、明日香の姿。

 何故かホッとする。

「明日香」声に出して呼んだ。「やっぱり、明日香……なのか?」

「そうよ? どうかしたの? こんな所で」

「帰っちまったのかと思った」

「あぁ、ちょっと、ね。電話が来てたの」

 明日香はそう言って、手に持っていたケータイをオレに見せた。

 さり気なく、その手を確認する。どの指にも、指輪は見当たらない。

「仕事?」

 オレは聞いてみた。

「ううん、お母さん。今日、帰りは何時になるのって」

「今日は実家に泊まるのか?」

「今日って言うか……私、今、地元にいるから」

「あ、そうなんだ?」

「崇は? 今どこに住んでるの?」

「オレ? オレは、東京」厳密に言うと違うけど、まぁいいや。「今日は、実家に泊まるけど」

「そっか」

「なぁ、サッカー部で集まってんだけど、お前も来ねぇ?」

オレは言ってみた。

 みんなに会わせたくない気持ちは消えねぇけど、もうちょっと明日香と話していたい。

「うん、知ってる。見てた」

「なら来ればよかったのに。みんな、お前に会いたがってたぞ」

「あの中に? 男ばっかりじゃん」

「高校のときは、そんなこと言わずに、いっつもそうしてたじゃねーか」

「――そうだけど……」

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