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2. 梢が他の同窓生に呼ばれて

 梢が他の同窓生に呼ばれて去って行った直後、

「おーう、崇!」

そう声をかけて来たのは、浩丈だった。両手に、ビールの入ったグラスを持っている。

「よぉ」

 オレは片手を上げて返事をした。浩丈がオレにビアグラスの片方をくれる。

「お前とは、たまに会ってるから『久しぶり』って感じがしねーな」

「まぁな。って言っても、最後に会ったの、半年前だろ?」

「そーだっけか? で、どうだった? 久しぶりの元カノとの再会は?」

「げっ。お前、見てたのかよ?」

「バッチリ」

浩丈が肩を組んでくる。

 コイツ酒臭ぇ。もう酔っぱらってるな?

「お? サッカー部の名物コンビじゃん。俺も仲間に入れてよ」

 別の方から、オレたちに声がかかった。

「健二?」

「久しぶりだなー」

「あっちに、猛と剛志もいるぜ?」

「マジで?」

「そーだ。せっかくだし、サッカー部招集しよーぜ?」

 オレが何気なく発した一言で、いつの間にか元サッカー部の小集会が完成する。ふざけ合ったり、近況を報告し合ったり、連絡先を教え合ったり。

 こうして、昔の仲間と会うのもいいもんだ。


 オレと浩丈は、高校時代、同じサッカー部に所属していた。

 オレがフォアードで、浩丈がキーパー。ついでに、オレはキャプテンもやらせてもらっていた。

 男だらけでむさ苦しい連中との、全然強くないサッカー・チームだったけど、毎日アホみたいに夜遅くまで練習してたなぁ。

 泥だらけになって、走り回って。

 マネージャーに「アンタたち、汚い!」ってバケツで水ぶっ掛けられて、どやされて。


 サッカー部小集会に、そのマネージャーの姿はなかった。

 会場内に目を走らせる。それらしい姿は、見当たらなかった。


「そういや、誰か足りないと思ったら、マネージャーがいねぇな」

 オレが思ってたことと同じことを、剛志が言う。

「お前ら、何か聞いてねぇの?」

健二がオレと浩丈の方を見る。

「そういや、お前ら3人、仲良かったよな」


 そう。あの頃は、オレと浩丈と、マネージャーの高橋明日香たかはし・あすかと3人で、よくつるんでたっけ。

 何をしてたんだ? って聞かれると、不思議と全然答えられない。

 多分、今から思うと、イベントとして記憶にすら残らないような、なんでもないことばっかりだったんだろう。

 だけど、当時は、三人でいるだけで楽しかったんだよな。とにかくいつも笑ってた。

 もしかしたら、梢と過ごしてた時間よりも多かったかもしれない。

 多分、あれが青春ってやつだったんだ。


「いや、何も」

浩丈が言う。

「オレも。連絡先知らねーし」オレも答えた。「明日香、来ねーんかな?」

「アイツ、大学、どこ行ったんだっけ?」

「北海道とか言ってなかったか?」

「そりゃまた遠いな」

「そっちで就職してたら、参加できねーかもな」

「マネージャーが来てたら、サッカー部全員出席だったのにな」

「会いたかったよなー。せっかくだし」

「アイツも綺麗になってんのかね?」

 本人がいないのをいいことに、言いたい放題だ。

 でも、みんな本気で明日香に会いたがってるのがわかった。


 そういや、オレ、明日香には、世話になったんだよなー。梢とのことだって、いろいろ手伝ってもらったんだっけ。

 明日香のおかげで、梢を彼女にできたようなもんだったんだよな。

 オレが告白するために、梢を呼び出してもらったり、誕生日プレゼントに何をあげたらいいか相談に乗ってもらったり。

 そうだ。思い出した。

 明日香は自分のことそっちのけで人の世話ばっかりするヤツだったんだよな。女らしくはないけど、話しやすくて、一緒にいて楽だった。


 オレはみんなに気づかれないように浩丈の表情を盗み見た。

 浩丈は、明日香の話題が出ても何でもない風で、会話に参加してる。

 でも、オレは知ってる。浩丈が明日香のことをずっと好きだったってこと。

 結局、浩丈はそのことを明日香には最後まで言わなかったみたいだけど。

 明日香は、気付いてたんかな、そのこと。


 ――懐かしい。


 そんな浩丈も、この春に結婚するらしい。

 今、目の前でそのことを発表して、猛にヘッドロックされてる。「死ぬ~」とか言ってるけど、すっげぇ嬉しそうな笑顔だ。


 結婚、か。

 最近は、親父が早く結婚しろと言うようになった。早く孫を抱きたいんだそうだ。

 年取ると、そういうことを言うようになるのかね。

 オレの親も、もう定年が近い。確かに、早く安心させてやらねーと、とは思うんだよ。でも、出会いって、なかなかないんだよな。

 オレはもうちょっと先になりそうだ。


 グラスが空になった。

 オレは飲み物をもらいに、ドリンクコーナーへと向かう。

 さっき見かけたあの女性は、もうとっくにドリンクコーナーにはいなくて、会場の隅で、一人グラスを手に壁にもたれて立っていた。

 会場は人が多すぎて、誰も彼女のことに気付いてないらしい。もし気付かれていたら、きっと男どもがわんさか寄って行くだろうに。

 彼女自身も、参加はしたものの、誰かと話そうという気もあまりないみたいだ。

 オレは何故か、彼女のことが気になった。

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