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1. 「宮本君、お久しぶりー」

「宮本君、お久しぶりー」

「えっと、平岡さん……だっけ?」

「そう! よくわかったわね」

「平岡さん、ちょっと雰囲気変わった?」

「そうかな? コンタクトにしたからかも」

「へー。そういや、昔眼鏡してたもんな。変わるもんだなー」

「あはは」

「おぅ、崇じゃねーか! 元気だったか?」

「お前、正臣か? お前は全く変わらないなー」

「いや、最近太ってきてる」

「それは歳だろ」

「お互いな」


 そこここで繰り広げられる、「えー」とか「うわー」とかの驚嘆の声。

 高校を卒業して十年目の正月。当時の生徒会長が企画した節目の同窓会に、オレは参加していた。

 ホテルの宴会場を貸し切り。広い会場は人で溢れ返っている。オレの予想よりも遥かにたくさんの人が来ていた。



 数ヶ月前、お盆休みの頃。実家の母親からオレ宛にハガキが届いたよ、と連絡があった。

 写メでも撮って送ってくれればそれで済んだのに、あいにくオレの母親は機械音痴で超がつくほどアナログな人間だ。ご丁寧に、オレの住むアパートまで転送してくれた。


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  ~同窓会のお知らせ~


拝啓 時下ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。

さて、早いもので、高校を卒業してから十年になります。

ちょうどよい節目ですので、同窓会を開催したいと存じます。

季節柄、ご多用中とは存じますが、ぜひとも多数のご参加をお願い申し上げます。


  記

日時:二〇××年一月一日

受付:十七時三十分より

開宴:十八時三十分より

会場:○○○○

代表幹事:河合 正紀


------------------------------


 高校卒業後、オレは地元を出て首都圏の大学に進学した。

 オレの地元は適度に田舎で、新幹線は停まるが大学がない。だから、進学を希望する場合は必然的に地元を出ることになる。仕方ない。

 そして、そのまま就職。

 そんなだから、高校時代の友達なんて今やほとんど切れちまってる。

 唯一、牧村浩丈まきむら・ひろたけとだけ、たまにメールや電話する。そして、突然思い出したように、予定が合えば会うくらい。

 浩丈もオレと同じで首都圏に住んでるしな。



「もしかして、宮本君?」

 聞き覚えのある、女性の声。オレは振り返った。

「梢……」

「久しぶり、だね」

目の前で、真田梢さなだ・こずえが懐かしそうに笑った。

「久しぶりだな」

 その笑顔がオレの中で連鎖反応を起こし、一気に昔のことが思い出されてくる。


 梢は、オレの高校時代の彼女だ。吹奏楽部でフルートを吹いてた。

 いい音とか奏法とか、オレには全然わからなかったけど。とにかく可愛かったんだ。

 オレが惚れて、告白して。

 二年生の秋頃、オレたちは付き合い始めた。

 お互いに忙しい部活の合間を縫っては、二人で会ってた。

 オレが吹奏楽部の定期演奏会に行ったらすっげぇ喜んでくれたし、梢がオレの部活の試合に応援に来てくれたときはいつもよりも頑張れた。

 でも、オレは首都圏、梢は関西に進学することになっちまって、遠距離恋愛になったんだよな。それで、なんとなくすれ違うようになって。

 大学一年の夏前に、別れることになっちまったんだけど。


「宮本君、あんまり変わってないから、すぐわかった」

笑顔で言う梢は、今も可愛い。

「こず……真田も、変わってねーよ」

 さすがにもう、『梢』って呼ぶのはよくないか。

「今は、『須山』」

「あ、そうか。結婚したんだっけ」

 何年か前に、浩丈から梢が結婚したって話を聞いた。幸せになってんのかな。

「そうなの。もう子供もいるのよ? 女の子」

「マジかー。すげぇな。旦那は?」

 オレは梢と話しながら、ふと気が反れた。会場の入り口から、見慣れない女性が入って来たのに目が止まったからだ。

 すっげぇ、美人。

 長い髪には緩やかにウェーブがかかってて。

 あんなヤツ、同じ学年でいたっけ?

「旦那は、大学の先輩。銀行マンよ。娘は旦那によく似てるわ」

「そうなんか。もったいねぇ。お前に似た方が絶対に可愛いのに」

 梢と会話しながらも、オレはその女性に目を奪われたままだ。

 彼女は出入り口近くにいた元生徒会長の河合に話しかけている。

「ありがと。宮本君は? 結婚、未だなの?」

 オレの視線に気づいたのか、彼女がこちらを見た。

 一瞬だけ目が合う。

 でもすぐにその視線は外れ、彼女はドリンクコーナーの方へ行ってしまった。

 オレの方を見たわけじゃなかったのか。内心、がっかりする。

 ――って何考えてんだ、オレは。自惚れるのもいい加減にしろ。

「ん? あぁ」オレは梢に視線を戻し、苦笑した。「今は彼女もいないしな。仕事に追われてて、出会いすらねー」

「もったいない。宮本君、イイ男なのに」

「そうかね? 全然モテねぇよ?」

「自分で気付いてないだけだよ。案外、すごく近くに、出会いがあるかも?」

 別れた彼女にそんなことを言われるのは、変な感じだ。


 でもよかった、と心底思う。

 梢が幸せそうで。

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