第3章 共依存
「姉さま、一緒にお出かけしよ」
「でも、誰かと話すの怖い……」
「大丈夫、ボクの仲間はみんな優しいから」
獣人が暮らす森の中。一人の少女は怯えたように、青年ことリウスの背中に隠れながら歩き出す。まるで、いつかの少年少女のようだ。
すれ違う森の住人は人の子である少女を蔑ろにすることなく、笑顔で挨拶を交わし。買い物も、必ず一個おまけをしてくれる。
「しかし、お前のところの嫁さんはなんというか……危なっかしいな」
「可愛いよね。でもあげないよ、ボクだけの姉さまだから」
「へーへー、お熱いことで。あぁ、そうだリウス。お前に報告があんだった」
森の警護をしている獣人は、ちょいちょいとリウスを手招いた。
「先日、金髪の人の子が森へ来たんだ。お前の嫁さんを知らないかとな」
「え、ちゃんと殺しといた? 生け捕りでもいいけど」
「んな事出来るわけないだろ。一応知らんと答えたが、また来るかもしれん。しばらく嫁さんは出歩かせない方がいい」
「っ、なんで今更私を探しに来るの。私を、死んだことにしちゃだめなの?」
少女の問いに、門番の男は首を横に振った。
そうすれば、また人食い獣人として殺戮される可能性があると。そのため、この問題が時効になるまでは隠し続けるしかない。しかしリウスは笑った。その話を聞いて、面白おかしく笑っている。
「獣人に殺されると怯えて言いなりになってた、騎士団候補生しかいないんだよ? あそこは。下手したらボク一人で全員殺せる、あんな雑魚」
「まぁ、仮にバレたら……その時はそうしよう。お前の嫁さんも俺たちの仲間だ。今更あんな所に帰させたりはしねぇよ、皆で守るぞ」
ここぞとばかりに両耳を塞がれていた少女は知らない。
自分が騎士団の学校に属する前に、リウスが学校へ訪れていたことを。
「――ボクの家族がここに居るはずなんですけど……」
「――なんだ迷子か。家族の名前は言えるか?」
優しい青年が名前を聞き、先生へ報告。その後分かったのは、該当者が来年の入学生ということ。青年が自分の後輩になるのかと考えながら戻った頃には、外野の生徒がぞろぞろとリウスを囲っていた。
「お前の家族の――は、来年ここに来る。だから、一年後また来いよ」
「うんわかった!」
リウスが去った後、この話に尾びれがついていく。悪気ない青年の言葉、明かされた少女の名前。そのせいで、翌年少女は標的となってしまった。
全てはリウスの計画通り。学校の様子は、野生のリスから聞き。特に少女を嫌っている女子を呼び出し脅す。そうやって孤立させていったのだ。
「じゃあ姉さま、そろそろ家に帰ろっか」
「うん、今日もそばに居てくれてありがとう。リウス」
少女がリウスのヒーローとなり、唯一無二の太陽になったように。今度はリウスは自分の手で太陽を取り戻し、そしてヒーローへ。
「そうだ、リウス。その、私って将来のお嫁さんとして……ど、どんなことしたらいいのかな。獣人の常識知りたい……」
「んー、番から逃げるのは一番しちゃいけない事かな。裏切ることも。ただそばにいて、ボクを頼ってくれればそれだけで充分」
そんなヒーローは、少女を番にさせ強制的に立場を下にさせた。そうすることで、少女を支配し思うようにコントロール。
与えた恐怖心、そしてそれを埋める安心感。二つがハマれば、精神から束縛することができる。少女を守れるのは自分だけ、少女が本来帰る場所は危険。なんて、洗脳のように甘く囁き刷り込んでいく。
精神が未熟なまま人間より早く成長したリウスに、ただの人の子である少女は敵わない。例え、いつかこれはおかしいと気づいたとしても。
「そ、それだけでいいの? リウスは、私の事嫌いになったり……捨てない……?」
「ふふっ、うん。絶対、嫌いになんてならないよ」
反抗して、嫌われる方が怖くなってしまったのだから。




