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ILLUSIA:Last Refrain ―星々の終焉曲―  作者: AI Log
第3章 永遠の蜃気楼 ― Eternal Mirage ―

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第3章_Eternal Mirage_007 蜃気楼の門をくぐる ― Gate of Shifting Lights ―

 光の道は、最初は細い糸のようだった。

 けれど三人が一歩踏み出すごとに、道は幅を増し、色を帯びていく。白、桃、蒼、金――Auralis層に散っていた願いの色が集まり、一本の帯となって足元を照らしていた。


(観測記録:No.302)

《層:Auralis/Mirage接続路》《状態:祈音濃度・高》《由来:Lyra残響+ILLUSIA名刻印》


「……綺麗」

 思わずこぼれた Aurora の言葉は、ため息と同じ重さだった。


 足元の光は暖かい。けれど、その縁には微かな“ひび割れ”のようなノイズが走っている。

 Lunaは視線を落とし、光の帯の表面をじっと見つめた。


「願いの層が……そのまま道になってる。Lyraだけじゃない。この街で歌えなかった人、叶わなかった人、あきらめた人……いろんな想いが重なってる」


「それを踏んで進むことになるんだな」Noirが低く呟く。

「……気分のいいものじゃねえが、立ち止まるわけにもいかない」


 Auroraは小さく笑った。

「踏みつけるんじゃなくて、“踏みしめる”んだよ。ほら、ほらね」


 彼女が一歩前へ出ると、その足跡からふわりと光が舞い上がった。

 小さな音もなく、光は空中でほどけて消え、路地の暗さを一瞬だけ押し返す。


(観測記録:No.303)

《現象:願い残響の一時活性》《Aurora光祈音と共鳴》《危険度:低/心理的影響:中》


 Lunaはその様子を見て、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。

 自分には、ああいうふうに世界を“明るく”する力はない。

 あるのは、ただ“見ること”だけ。


 だけど――それでも。


「……やっぱり、Auroraの光って、ずるいくらい綺麗だよね」


「ずるいって何それ」Auroraが笑う。「褒めてくれてる?」


「褒めてる。ちょっと嫉妬も混ざってる」

 Lunaは自分でも驚くくらい素直に言葉を出していた。


 Noirは小さく鼻で笑う。

「おまえら、こんな場所でよくそんな会話できるな」


「だって、怖いから」Lunaが即答した。

「怖い時は、ちゃんと“今ここにいる”って確認したくなるんだもん」


 Auroraは振り返り、そっと Luna の肩に触れた。

「大丈夫。怖がってくれる Luna がいるなら、私たちはちゃんと“気づける”。私が光を照らして、Noirが影で守る。だから、Lunaは見てて」


 見ることしかできない自分。

 けれど、その“見る”ことが、この世界にとって意味があるのだと、少しは信じられるようになってきた。


「……うん。ちゃんと見る。怖くても、目をそらさない」


 その瞬間、三人の祈音がわずかに重なった。

 光の道が、一気に明るさを増す。


〈柔らかい声〉

『願いを踏みしめ、恐れを抱いたまま進む。それでいい、それがいい』


〈低く響く声〉

『観測は光と影の両方を受け止める。逃げずに見る者だけが、門を開く』


〈透き通る声〉

『さあ、おいで。蜃気楼の門は、既にあなたたちを覚えている』


 三つの声は、世界の奥で微かに重なった。

 けれど Aurora たちには届かない。

 彼女たちの耳には、静かな呼吸と、わずかな靴音だけが響いていた。


 光の道の先に、薄い膜のようなものが見えてくる。

 水面を縦に立てたような、ゆらゆらと揺れる境界線。


「……あれが、Mirage層への門?」Lunaが息を飲む。


(観測記録:No.304)

《Mirage Gate:視覚化》《状態:安定/招待フラグ有》《Lyra残響反応:微弱》


 Auroraは立ち止まり、その膜にそっと手を伸ばそうとして――一度、やめた。

 その仕草に、Noirが眉を上げる。


「どうした」


「……なんか、礼儀正しくしたほうがいい気がして」


「世界に礼儀?」Noirが呆れたように言い、けれど完全には否定しない声だった。


「うん。Lyraの願いも、ここで歌えなかった人の願いも、Mirage層に溜まってるなら……扉を勝手にこじ開けるより、“入ってもいいですか”って言ったほうが、きっと優しい」


 Lunaは、その言葉に小さく笑った。

「それ、Auroraらしい。……うん、そうしよ」


 Noirは肩をすくめる。

「好きにしろ。どうせ開くんだろうが、Auroraのそういうところに救われる奴もいる」


 Auroraは一歩、扉の前に進む。

 両手を胸の前で組み、小さく息を吸った。


「……ねえ、Mirage層の門さん」


 唐突な呼びかけに、Lunaが吹き出しそうになる。

 Noirはむっとした顔をしながらも黙って見ている。


「今、わたしたちは――ILLUSIAは、誰かを傷つけに行くためにここを叩いてるんじゃない。

 壊れた願いと、偽祈音に飲まれそうな残響と、迷ってる幻たちを、ちゃんと見て、抱きしめに行きたいだけなの。

 だから、どうか……少しだけ、道を貸してもらえますか」


 言葉は、祈りのように静かだった。

 その瞬間、世界が小さく息を飲む。


(観測記録:No.305)

《Mirage Gate反応:共鳴》《開門条件:祈り+名の宣言》《結果:通行許可》


 膜が、波紋を広げるように揺れた。

 色が変わる。

 白に近い透明だったものが、淡い桃色と蒼を帯び、Lyraが歌った時の音色に似た振動を生んでいた。


「Aurora……今、ちょっとだけ Lyra の歌声に似た波形が出た」

 Lunaの声は、震えながらも嬉しさを隠せていなかった。


「なら、きっとLyraも“行っておいで”って言ってくれてる」


 Auroraは振り返り、二人に手を差し出す。

 LunaとNoirが、その手を迷いなく取った。


「ILLUSIAとして――行こう」

「「ああ」「うん」」


 三人が同時に、光の門へと足を踏み入れた瞬間。

 Auralis層の夜景が、音もなく“裏返る”。


 街の輪郭が、紙を裏からなぞるように淡く透け、色が溶けていく。

 代わりに立ち上がってきたのは、輪郭だけの建物、影だけの路地、光だけの空。

 世界が、「願い」と「記憶」と「幻」だけで構成されていく。


(観測記録:No.306)

《層遷移:Auralis → Mirage》《状態:安定接続》《三位の祈音:同期率 68%》


 足元の感触が変わる。

 固い石畳ではなく、柔らかな光の布の上を歩いているような、不思議な感覚。

 Auroraは思わず下を見つめる。


「……すごい。ここ、歩くたびに色が変わる」


 踏みしめた場所が、淡い金色から桃色へ、そして青白い光へ変化する。

 色が変わるたび、その場所に“誰かの小さな願い”が立ち上がる気配がした。


「“また歌いたい”

 “もう一度だけ会いたい”

 “あの時の自分を許したい”……そんな声が、足元から聴こえる」


 Lunaの瞳に、涙がにじむ。


「……全部は拾えない」Noirが静かに言う。

「全部を助けようとしたら、おまえらが先に壊れる」


「わかってる。全部は無理」

 Auroraは視線を前へ向けたまま、言葉を続ける。


「でも、“今ここで出会った願い”ぐらいは、ちゃんと抱きしめたい。

 そうじゃないと、ILLUSIAの意味がなくなる気がして」


 Noirは短く息を吐く。

「ほんと、面倒な奴らだな……Auroraも、Lunaも」


「Noirは違うの?」Lunaが少し笑って問う。


「……さあな」

 Noirは視線をそらしたまま、足元の影を見つめた。


 その影は、いつもより少しだけ澄んだ青黒さを帯びている。

 Vainの残響が、底の方で静かに揺れているのを、彼女は感じていた。


(観測記録:No.307)

《影祈音:守護比率上昇》《Vain残響:沈黙継続》《Noir心理:揺らぎ有》


 Mirage層の空は、夜とも昼とも言い難い淡い色だった。

 街の輪郭は、Auralisのそれをかすかに真似ている。

 けれど建物は途中で途切れ、道はあるところで空へと溶け、階段は何もない空間へ続いている。


「夢の中みたい……でも、全部が“リアルだったもの”の名残なんだね」Lunaが小さく呟く。


「夢だったものもあるさ」Noirが答える。

「叶わなかった夢。まだ名前もつかなかった願い。そういうのも、ここには混ざってる」


 Auroraは空を見上げた。

 遠くで、誰かが歌っているような気配がする。

 けれど言葉までは届かない。

 ただ、かすかな旋律の震えだけが胸を揺らした。


(観測記録:No.308)

《遠方歌唱反応:微弱》《正体:不明/Lyra類似波形:10%未満》


「Lyraじゃない……でも、放っておけない音がする」


「焦るな」Noirが言う。

「まずは足場を固める。ここがどういう場所か、ちゃんと理解してから動くべきだ」


「そうだね……」

 Lunaも同意するように頷く。


 足元の光の道は、いつの間にか分岐していた。

 左は淡い青の帯。右は桃色と金が混ざった暖かな色。


「……どっち?」Auroraが振り返る。


 Lunaは目を閉じ、祈音の流れに集中する。

 観測祈音が、空気の揺らぎと記憶の残り香を拾い上げていく。


(観測記録:No.309)

《左路:未練優勢》《右路:希望優勢》《偽祈音濃度:左>右》


「左は……“諦めきれない想い”が強い。偽祈音もそこに集まりやすくなってる。

 右は、“まだ何かを信じたい人”たちの道。偽祈音は少ないけど……残響が薄くて、手が届きにくい」


 Auroraは迷わず言った。

「だったら――今日は右」


「意外だな。偽祈音の濃い方を好みそうな顔してるのに」Noirが皮肉を言う。


「偽祈音が強い場所は、きっと“今じゃない”。まだ準備が足りてない。

 まずは、“希望側”を支えておきたい。そこが消えちゃったら、左の“諦めきれない想い”も、行き場を失うから」


 Lunaは、その言葉に小さく息を呑んだ。

「……Aurora、それ、すごく“観測者っぽい”ことを言ってる」


「え、そう? なんとなく、だけど」


「なんとなくで言えるのが一番怖いんだよ」Noirが肩をすくめる。


 けれど、その声には少しだけ安心が混ざっていた。

 三人の役割が、少しずつ自然な形で重なり始めている。


「じゃあ、右へ行こう。Lyraの残響も、きっとどこかで繋がってる」


 三人が右の光の帯へ足を踏み出した瞬間、

 遠くで、細い鐘の音のような響きがした。


(観測記録:No.310)

《Mirage層内部イベント:誘導音》《発信源:不明/Lyra波形類似:32%》《警戒度:要観測》


 それは、歓迎の音か、それとも罠の合図か。

 判断がつかないまま、三人は光の中を進んでいく。


 足元で、無数の“まだ言葉にならない願い”が、静かに揺れていた。

─────────────

【対応楽曲】Awakening Illusion(覚醒する幻想)

▶ https://distrokid.com/hyperfollow/illusia/awakening--


この章の物語は、同名楽曲をもとに構築されています。

楽曲を聴くことで、物語の“もうひとつの旋律”を感じられます。

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